
ソンティ陸軍司令官(
写真左)率いる「国王を元首とする民主主義の下での行政改革団」(民主改革評議会)によるクーデターが成功。これにより、タイの政局は新局面を迎えることになった。国民の多くがこのクーデターを好感しているほか、国王陛下も承認されたことで、政治混乱収拾への期待が高まっている。
新政権の最大課題は憲法改正だろう。タクシン前首相の専制、タイ愛国党の肥大化を許した理由のひとつが、この憲法にあったためだ。憲法では、総選挙に立候補するためには同じ政党に90日以上在籍しなければならないと規定している。つまり、無所属での立候補ができない。憲法起草者は、政府を安定させるために、米国をモデルとする2大政党制を目指したのだが、これがタイ愛国党の膨張を助けることになってしまった。
さらに、憲法では、首相への不信任動議を提出するためには全下院議員の5分の2以上の賛成が必要との条項を設け、首相の地位を安定させようとした。しかし、これも裏目に出てしまい、タクシン政権の5年間、野党の議席不足で一度も首相に不信任動議を出せない、ということになってしまった。
憲法改正ではこれらの点が真っ先に討議されることになるだろう。
ところで、タイ愛国党が肥大したもうひとつの背景として、タイの貧困問題を無視することはできない。というもの、同党支持者の多くが貧しい農村部の住民だからだ。
97年の通貨危機でチャワリット政権が倒れたが、実はこの政権は貧困対策に非常に熱心だった。スラム問題への関心が高く、地方農民の陳情にも積極的に耳を傾け、インフラ開発で生活の悪化した地方農民の補償問題に対して、それ相応の取り組みもみせた。しかし、不幸にも、貧困政策を実行に移す前に政権の座を追われてしまった。
そして、それに続くチュアン民主党政権は、経済再建のため、金融政策に比重を置くあまり、貧困対策を「軽視」。さらに、弁護士出身のチュアン首相は「なにごとも法律に従って行う必要がある」として、地方から直訴のために上京した貧農にいっさい会おうとしなかった(直訴という行為は法律で認められていない)。また、前政権が決めた貧農への補償も、減額したりキャンセルしたりと、農村部の反感を買うことになった。
そのため、次ぎに登場したタクシン政権のバラマキ政策が、民主党政権に失望した貧農にどれほど歓迎されたかは、想像に難くない。
近く、憲法改正・政治改革のための暫定政権が誕生する。1年以内に憲法改正を終了させ、解散・総選挙を行うというが、その間、政治浄化に傾倒するあまり、貧困対策が手薄になった場合、次ぎの総選挙で貧農らが再び、「タクシン、カムバック」と叫ぶ可能性は否定できない。
貧しい農家の人々はその日その日の生活に一喜一憂している。1年という期間は、政権への不満を蓄積させるには十分すぎる時間だ。
政治改革に専念するあまり、貧困対策をおろそかにするとしたら、政治改革が形だけのものとなる危険性が高い。(明)