9/29/2006

「驚き」から「安堵」、そして「重圧感」へ

 19日深夜、軍部によるクーデター決起を知った時はまず「驚き」を感じた。噂はかねてよりあったが、正直、〈なぜ今の時代?〉と思った。

 その後、暫定政権が成立するまで2週間だけの統治であると明言。さらに、組閣にはいっさい介入しないこと、新暫定政権成立後は軍は治安維持に徹すること、などが発表されたほか、市民が戦車をバックに兵士と記念写真を撮る様子が報道されるなど、15年前のクーデターとの違いに、とりあえず「安心」した。

 しかし、介入しないはずの組閣人事で、新首相が発表される前から、内相、国防相という治安担当省庁の大臣候補に軍関係者の名前が浮上。また、地方のタクシン前首相支持派の動きを武力を背景に抑えているほか、暫定憲法でも要所要所で軍部が重要は役割を演じることになっている。忍び寄る軍の足音に「重圧感」を感じないわけにはいかない。

 バンコク都民を対象にした世論調査では85%がクーデターを支持するとの結果が出た。この調査を貧しい農村で行ったらどうなったであろうか。(明)

9/28/2006

さらばドンムアン空港


 ドンムアン空港を初めて利用したのは84年だったろうか。肌にからみつく湿気、よどんだオレンジ色の光、そして香辛料の混じったかのような匂いが、旅の気分を大いに盛り上げてくれた記憶がある。
 
 それから幾度となく、この空港を利用してきたわけだが、そのゴチャゴチャした雰囲気がけっこう気に入っていた。

 そのドンムアン空港が本日(28日)午前3時、「空の玄関口」としての歴史に幕を降ろした。最初の商業運航から数えて92年。どうもお疲れさまでした。(写真はお別れセレモニー)

 さて、同日全面開港したスワンナプーム新空港だが、予想通りトラブルが続出。機内預けの荷物がなかなか出てこなかった。タイ字新聞のウエブサイトによれば、機内預けの荷物の積み降ろしシステムに問題があるとの指摘が以前よりあったという。

 旅行業界にいた知人によれば、香港の新空港がオープンした時も、香港経由の日本・バンコク便では荷物の紛失が続出したそうだ。

 私自身、荷物紛失の経験があるが、ベルトコンベアーの前でひたすら待ち、結局、自分の荷物が出てこなかった時には、旅の高揚感が一気にしぼんでしまった。しばらくは貴重品は機内持ち込みのカバンに入れるなど自衛が必要かもしれない。

 ということで、スワンナプーム空港関係者の方々にお願いしたい。「荷物だけはなくさないで下さい」(明)


9/26/2006

戦車の前でセクシーダンス


 戦車の前で兵士と並んで記念写真。クーデターから1週間、街は普段の顔を取り戻しているが、それでもいまだに戦車の置かれている旧国会議事堂前はバンコク都民の「観光スポット」ともなっている。

 クーデターを起こした民主改革評議会でも市民と兵士との交流をウエブサイト(http://www.vrcu.com/index.asp)で積極的にアピール。軍のイメージソフト化に余念がない。

 昨日は旧国会議事堂前広場でミュージックビデオの撮影が行われた。ホットパンツやミニスカートにヘソ出しノースリーブという装いで、戦車と兵士をバックにセクシーダンス。バンコクではクーデターの起きた19日より戒厳令が出されているが、表面上は、戒厳令という言葉が醸し出す、重々しい雰囲気はない。

 今回のクーデターは、当夜の制圧手順、布告の内容などを見る限り、数カ月前から周到な準備をしていたことは明らかだ。なかでも、クーデター、戒厳令から来る重苦しい感じを、市民と積極的に触れ合うことで極力抑えるという「作戦」は見事だ。

 しかしそれだけに、作戦がより巧妙化している軍部の動向は新暫定政権樹立後も目を離せない。(明)

9/25/2006

「タクシン派狩り」の様相

 タイの軍事政権「立憲君主制下の民主改革評議会」は、タクシン前首相派に対して徹底的な攻撃を仕掛けそうで、街には憂鬱なムードが漂っている。

 これまでタイでは、韓国のように政権交代後に新政権が前政権の汚職を暴いて糾弾するというようなことはなかった。記憶にあるのは、ルンチャイ元中央銀行総裁がいまだに通貨危機の責任を追求されているくらいだ。

 ところが今回は違う。タクシン前首相をはじめ、愛国党の元閣僚たちが汚職制圧委員会(NCCC)によって資産を築いた過程が厳密に調査される。不正が見つかれば、資産没収どころか、懲役刑も有り得るだろう。その他にも、タクシン派の官僚、軍高官が要職を外され、市町村レベルの政治家が活動を規制されている。

 タクシン派狩りの広がりで、一般国民さえ口が堅くなっている。4月の選挙では有権者の過半数にあたる1600万人が愛国党に投票し、タクシン支持のデモを行ったが、今ではタクシン支持を表明する人はほとんどいない。

 この5年半でタクシン派は、国の政治・経済の中枢を確実に握った。軍部によるタクシン派攻撃が度を過ぎれば、これまでに築かれたシステムは崩壊する。その再構築までに、軍部が時間をかければ、国民の不満は高まる。また、タクシン前政権を教訓として正当なものができるのか。

 クーデターは成功したが、開けてしまったパンドラの箱をどう収拾するのか。戦車や兵士の前で笑顔の記念撮影は続き、一見、平穏無事だが、実のところタイの先行きは全く見えない。(水谷)

9/21/2006

次期暫定政権への提言「貧困対策を軽視するな」


 ソンティ陸軍司令官(写真左)率いる「国王を元首とする民主主義の下での行政改革団」(民主改革評議会)によるクーデターが成功。これにより、タイの政局は新局面を迎えることになった。国民の多くがこのクーデターを好感しているほか、国王陛下も承認されたことで、政治混乱収拾への期待が高まっている。

 新政権の最大課題は憲法改正だろう。タクシン前首相の専制、タイ愛国党の肥大化を許した理由のひとつが、この憲法にあったためだ。憲法では、総選挙に立候補するためには同じ政党に90日以上在籍しなければならないと規定している。つまり、無所属での立候補ができない。憲法起草者は、政府を安定させるために、米国をモデルとする2大政党制を目指したのだが、これがタイ愛国党の膨張を助けることになってしまった。

 さらに、憲法では、首相への不信任動議を提出するためには全下院議員の5分の2以上の賛成が必要との条項を設け、首相の地位を安定させようとした。しかし、これも裏目に出てしまい、タクシン政権の5年間、野党の議席不足で一度も首相に不信任動議を出せない、ということになってしまった。

 憲法改正ではこれらの点が真っ先に討議されることになるだろう。
 ところで、タイ愛国党が肥大したもうひとつの背景として、タイの貧困問題を無視することはできない。というもの、同党支持者の多くが貧しい農村部の住民だからだ。

 97年の通貨危機でチャワリット政権が倒れたが、実はこの政権は貧困対策に非常に熱心だった。スラム問題への関心が高く、地方農民の陳情にも積極的に耳を傾け、インフラ開発で生活の悪化した地方農民の補償問題に対して、それ相応の取り組みもみせた。しかし、不幸にも、貧困政策を実行に移す前に政権の座を追われてしまった。

 そして、それに続くチュアン民主党政権は、経済再建のため、金融政策に比重を置くあまり、貧困対策を「軽視」。さらに、弁護士出身のチュアン首相は「なにごとも法律に従って行う必要がある」として、地方から直訴のために上京した貧農にいっさい会おうとしなかった(直訴という行為は法律で認められていない)。また、前政権が決めた貧農への補償も、減額したりキャンセルしたりと、農村部の反感を買うことになった。

 そのため、次ぎに登場したタクシン政権のバラマキ政策が、民主党政権に失望した貧農にどれほど歓迎されたかは、想像に難くない。

 近く、憲法改正・政治改革のための暫定政権が誕生する。1年以内に憲法改正を終了させ、解散・総選挙を行うというが、その間、政治浄化に傾倒するあまり、貧困対策が手薄になった場合、次ぎの総選挙で貧農らが再び、「タクシン、カムバック」と叫ぶ可能性は否定できない。

 貧しい農家の人々はその日その日の生活に一喜一憂している。1年という期間は、政権への不満を蓄積させるには十分すぎる時間だ。

 政治改革に専念するあまり、貧困対策をおろそかにするとしたら、政治改革が形だけのものとなる危険性が高い。(明)

9/18/2006

変わるビザ制度、「本当の旅行者以外お断り」


 タイでは10月1日よりビザ(査証)システムが大きく変わる。

 特に規制の強化されるのが、ビザなし入国だ。これまで、日本人は観光目的の場合、ビザを取得することなく30日間タイに滞在できた。このため、30日毎に出

入国を繰り返し、長期で滞在している日本人もいる。また、観光地パタヤに住みながら、30日の滞在許可更新のため、国境に向かう外国人は1日300人ほどいるそうだ。

 これが、10月1日からは、タイに初めて入国した日から数えて6カ月以内の合計滞在日数が90日に達した時点で、それ以上、ビザなしでは滞在できないことになった。

 もっとも、ビザなし入国ができない期間であっても、観光ビザを取得すれば入国は認められるし、初入国から6カ月が経過すれば、その次ぎの6カ月間では再び90日まではビザなしで滞在できる。

 ただ、日本では、観光ビザの申請に在職証明書・在学証明書が必要になるなど、年々、発給条件が厳しくなっている。マレーシアやラオスなど近隣諸国のタイ大使館でも今後、観光ビザの取得が難しくなっていく可能性は否定できない。

 「本当の旅行者に来てほしい。30日毎に出入国を繰り返し、安上がりな生活を送っている外国人はいらない」「観光は30日で十分」とイミグレーションのスワット(写真左)局長は話す。

 さらに、「タイにいたいがためだけに、タイ人と結婚している外国人へのビザ発給も見直す。外国人とタイ人のカップルが1月4万バーツ以下で暮らすのは現実的ではない」とも。

 今回のビザ制度見直しは、不法に滞在し犯罪行為に手を染めている外国人(特にフィリピン人)の排除を最大の目的としたものだ。しかしこれによって、〃タイが好き〃というだけでタイで生活している日本人にとっても、〃受難の時代〃を余儀なくされることになりそうだ。(明)

9/15/2006

身障者に優しくない新空港


 9月28日に正式開港となるスワンナプーム新国際空港の運営会社が身障者団体から訴えられている。回転ドアや通路など身障者の利用の便を考えていない、というのが起訴理由だ。実際に空港を利用した友人も「車椅子の人は相当ツライだろうね」と話していた。

 高架電車「スカイトレイン」(BTS)の設計時、車椅子用のエレベーター(写真)を設置するかどうかで意見の対立があった。最終的には設置が決まったわけだが、これまで、実際に利用する者はほとんどいないようだ。「無用の長物」と声も聞くが、それでも障害者の方に便宜を図るという姿勢は絶対必要なものだ。

 道路や駅などタイのインフラは障害者に優しいとはお世辞にもいえない。それだけに、BTSが障害者に配慮したことは意味のあることだった。

 そして、それだけに、新空港が障害者への配慮を欠いているのは残念でならない。障害者に対する優しさなき社会を、健全な社会と呼ぶことはできないだろう。(明)

9/14/2006

「まるでドラえもんのポケットみたい」


 タイでは今年4月に行われた下院総選挙が無効となったことから、年内にやり直し選挙が行われることになった。このため、前回選挙をボイコットした旧最大野党・民主党は現在、アピシット党首(写真)の売り込みに余念がない。

 民主党ではアピシット党首のクリーンなイメージを強調するテレビCMを制作・放映。そこでは、同党首が農村、学校、病院を回り、「最低賃金の引き上げ」「教育費無料化」「国公立病院での医療費無料化」などの政策を次々と公約する。それを見ていたタイ人の友人は、「まるでドラえもんのポケットみたいね」と少し呆れ顔で呟いた。

 タイ愛国党の貧困政策は「バラマキ政策」と批判されたが、その上を行くかのような「バラマキ」ぶりだ。民主党関係者は、税制を見直し、政府と業者の癒着を断つことなどで、財源は確保できるというが、過去の民主党は政策立案以前に、連立与党との調整に四苦八苦していたのだ。それに、アピシット党首にはタクシン現暫定首相並の求心力はない。

 アピシット党首のイメージアップのみを重視し、政策の根拠(財源)や具体的手順などを示すことのできない民主党を見ていると、「5年の野党時代、何をしてきたの?」との突っ込みを入れたくなってしまう。(明)

9/13/2006

〃暗中模索〃のタイ・ロングステイ事業


 日本人高齢者のロングステイ先として、ここ数年タイが注目されているが、これをお世話する側のロングステイ事業者はなかなか苦戦を強いられているようだ。

 タイでのロングステイ事業に長年かかわってきたA氏によれば、タイが好きというより、アジアの物価の安さにひかれて、タイでの生活を考えるパターンが多いという。そのため、有料サービスは基本的に受けようとせず、ビジネスとしてはなかなか成長が望めないと話す。

 来年は団塊の世代が退職することで、いわゆる「第2の人生」を模索する人が増える。そのため、ロングステイ事業への参入の可能性を探っている者も多いと聞く。ただ、今はロングステイを支援するNPO法人や有志団体など、(ほぼ)無料のサービスを提供するが相当数に上っている。その中で利益を上げるのが、なかなか難しいことは確かだろう。

 タイにおけるロングステイ政策の窓口であるタイ・ロングステイ・マネイジメント社は今、日本の団塊の世代に多大な期待を寄せている。とはいうものの、設立から5年ほどになるが、未だに有効かつ具体的な戦略を打ち出せずにいるのも事実だ。

 これだけ話題に上がりながら、これだけ可能性の見えてこない業界も珍しいのではないか。(明)

9/12/2006

選挙民の本音、「政治理念より生活向上」


 バンコク都内の歓楽街、ソイカーボーイのバーで呑んでいる時、実に初々しい感じのウエイトレスが目に止まった。話を聞くと、その日が仕事を始めて25日目という。東北部ブリラム県から仕事を探すために上京。昼間は雑誌とウエブサイトで求職活動をし、夜はこの店のママさんをしている伯母さんの手伝いをしている。ちなみに給料は3000バーツだ。

 まだ20歳の彼女はブリラム県の大学を卒業したばかり。それも政府の奨学金で勉強したそうだ。奨学金の額は3年間で5万バーツ。受給条件は(1)世帯収入が1カ月1万バーツ以下(2)学校の成績が3.0以上、であること。ちなみにタイの高校は4段階評価となっている。彼女に高校時代の成績を聞いたところ、3.5とかなり優秀。英語が上手いのもうなずける。

 この政府奨学金だが、以前にはなく、タイ愛国党政権になってから出来た制度という。「タクシンさん(写真)が首相にならなかったら、私は大学に入学できなかった」と話す彼女の支持政党はもちろんタイ愛国党だ。

 「タイ愛国党は汚職で批判されているよね」と話を振っても、「どの政党が政権党になっても問題はあるわ」と意に介さない。ちなみに、ブリラム県は裏社会との癒着も噂されるネウィン首相府相(タイ愛国党)の〃王国〃だ。「ネウィンは悪い噂が多いけど」というと、「彼はブリラム県民のためにいろいろとしてくれたわ」と称賛するばかりだ。

 貧富の差が大きく、国民の多くが農村地帯に住むタイにあって、政治倫理より生活向上の方が大半の関心事であることは想像に難くない。彼女の話を聞きながら、次期総選挙で、前回のように大勝はしないまでも、タイ愛国党の勝利は動かないだろう、との思いを強くした。(明)

9/11/2006

悪しき流行 望まれる「厳罰」

 東部チョンブリ県で工場に勤務する20歳の夫が、別れ話を持ち出した27歳の妻の顔に塩酸をかける、という事件が先日起きた。

 タイでは別れ話がこじれて、もしくは嫉妬心から、男性が女性の顔に塩酸・硫酸をかけるという事件がしばしば報道される。特に顔立ちの整った女性が被害に遭うケースが多いようだ。

 先日はテレビ番組に被害者女性2人が出演。ひとりは妻帯者の男性と付き合っていたことで本妻が職場に乗り込んできて、いきなり顔に塩酸をかけられた。また、もうひとりは、病的に嫉妬深い夫が「こうすれば別の男性から口説かれずにすむ」との理由で、これも塩酸を妻の顔にかけている。

 犯罪が犯罪を呼ぶのはタイ社会の常であるが、この塩酸かけ事件は、テレビドラマにもよく登場する。タイ舞踊の踊り子を主人公にしたドラマ「マノーラ」では、ヒロインがライバルに塩酸をかけられるが、応急処置と病院での治療が功を奏して、顔に外傷をいっさい残さない、というあり得ないストーリー展開をしていた。犯人の中には、「ここまで醜くなるとも思わなかった」と供述している者もあり、この無責任な脚本は責められるべき点もあるだろう。

 被害者のそれからの人生を考えれば、「抑止効果」のためにも、長期の懲役刑など厳罰を適用すべきだ。レイプによりHIVを感染させたケースでは量刑をより厳しくするなど、重罰の抑止効果をもっと考えてもいいのではないか。(明)

9/08/2006

目先の裕福さに騙される(?)地方農民


 タイ北部の農村から上京してきたタイ人女性が自慢げに話していた。「タクシンが首相になってからピックアップトラックのある家が増えたのよ」。彼女はもちろんタクシン党首(写真)率いるタイ愛国党のファンだ。

 ところで、このトラックの購入資金だが、タイ愛国党の貧困政策のひとつである「国民銀行」からの融資を当てるケースが多い。本来、この銀行の設立目的は、一般の銀行からは融資を受けることのできない農民に対して、安定した収入を得るための事業資金を低利で融資するというものだ。

 しかし、この融資を頭金にして小型トラックを購入するタイ人が地方で続出。月賦が返済が出来なくなり、車を差し押さえられたり、取り上げられる者も少なくないという。場合によっては、月賦返済のための、出稼ぎをしたり、娘が売春をしたりと、本末転倒の結果ともなっている。

 民主党や市民団体は、タイ愛国党の政策を「バラマキ」と批判するが、これまでの政権と比べ、最も具体的かつ多数の貧困政策を打ち出したことついては、一定の評価を下してもいいのではないか。とはいうものの、政策実施後のモニターを怠っている点は批判されてもしかたないだろう。

 それとも、政府中枢にいるエリートの方々は、「将来的な安定より今の快楽」を好む自国民の性格・本質を見誤っているのだろうか。(明)

9/07/2006

老人より子供に優しいタイ社会


 先日、地下鉄に乗っていた時のこと。子供とお年寄りが同じ車両に乗り込んできて、シートに座っている青年の前に立った。「いったいどちらに席を譲るのか」とみていたら、案の定、子供の方に席を譲っていた。

 タイ人は電車やバスの中で実によく子供に席を譲る。その一方で、高齢者が立っているのに皆が無視するケースもこれまで幾度となく目にしてきた。日本とはまったく逆だ。ちなみに親が西欧人の場合には、子供が席を譲られても丁重に断ることが多い。

 私見ではあるが、高齢者より子供を優先することの背景として、タイ人の親の多くが「超過保護」であることを無視することはできないと思う。以前、数百人に及ぶ高校生の乱闘事件が都心で起き、多くの生徒が留置所で1晩を過ごすはめとなった。その翌日、保護者が引き取りにきた様子がテレビで放映されたが、どの親もわが子を抱き締めたり、励ましたりと、叱責している様子は一度も見ることができなかった。

 タイの幼稚園に勤務していた友人の話では、子供の素行を保護者に注意すると、日本人の母親はその場で子供に注意することが多いが、タイ人の場合、先生の話を無視するケースがほとんどという。

 タイは年金など社会保障制度が遅れていることから、老後はどうしても子供に面倒をみてもらう必要があるため、なかなか強く叱ることができないという話を聞いたこともある。

 いずれにせよ、今の子供らが将来のタイを背負うとしたら、タイ社会もかなりの変貌を遂げざるをえないのではないか。国家経済社会開発庁では5年毎に「5カ年開発計画」を発表しているが、その中に「過保護」対策を入れることも一考する時期にきているのでは。(明)

9/06/2006

事件記事は犯罪者の「教科書」


? 最近の金価格の値上がりを背景に金製品販売店が強盗に狙われるケースが急増。このため、警察では販売店に防犯カメラを設置するなど警戒を強化するよう通知しているが、このほかにも、市民に対して金や宝石などの装飾品をこれ見よがしに身につけることを控えるよう呼びかけている。

 昨日(5日)はバンコク都心の大型スーパー(写真)のトイレで白昼、金のネックレスを3本かけていた男性が強盗に襲われ、このすべてを奪われた上、頭部を20針縫う重傷を負うという事件が起きた。この事件は夜のトークショーでも取り上げられたが、司会者・出演者の反応は、「そんな派手な格好をするから」と、被害者への同情の声は驚くほど少なかった。逆に、不注意を戒める意見さえあった。

 犯罪報道が同種の犯罪を増加させるという傾向がタイでは非常に強い。歩道橋の上で強盗に襲われるという事件が起き、これが大きく新聞・テレビで報道されると、それから数カ月は歩道橋で被害に遭う市民が続出した。

 また、夜間バス停にいた女性が強姦された事件が報道されると、「獲物」を求めてバス停を巡回する輩が増えるといった具合だ。

 現地の新聞をよく読み、テレビ番組をよく見ること。タイでの治安対策の第一歩ともいえそうだ。(明)


9/05/2006

苦労が報われぬ(?)


? 副首相(経済政策担当)、商業相、タイ愛国党副党首(次期首相候補)??これだけの肩書がある大政治家が「もう疲れた」と一時的に政界引退を考えているとの噂が流れている。

 本人が発表したわけではないが、「情報筋」によれば、何でも、まだ学生である3人の息子との時間を大切にしたいとか。これが事実としたら、「名誉・権力」より「家庭」が優先するとは、「仕事」より「家庭・プライベート」を重んじるタイ人らしいといえなくもない。

 ところで、これも「情報筋」からの情報ではあるのだが、日ごろの重労働に対する労いのなさ、についての不満が蓄積しているというのだ。しばしば噂に上るのが、タクシン首相夫人との不仲説。ソムキット氏は〃おべっか〃を使うタイプではないため、それがお局様のお気に召さないらしい。

 経済政策立案・運営に神経を擦り減らし、党内での保身まで気が回らないため、一部(それも中枢部)の評価が落ちる。2流、3流のテレビドラマのようではあるが、それがタイ政治の一面としたら、今の政局混迷にも納得がいくような・・・・・・。(明)


9/04/2006

副作用満点の禁煙薬


 タイでは女性有力議員のスダラット・タイ愛国党副党首が保健相に就任した5年前から急に喫煙規制が厳しくなった。その前に保健省を牛耳っていたのは、ヘビースモーカー(死亡、病名は公表されず)やらギャンブラー(収賄で服役中)で、健康志向という言葉にほとんど縁のない面々だったため、その反動といえなくもないが、愛煙家にとっては住みにくい社会ともなっている。

 禁煙ブームを見越して、タイの薬局では、禁煙パッチや禁煙ガムなどの販売を一昨年より開始。当初、外国人滞在者・旅行者などが購入したようだが、価格の高いこともありタイ人の間では普及しなかった。

 ちなみに、記者は1日3箱のヘビースモーカーで3年前に禁煙をしたが、この時は、国立病院で禁煙のための錠剤を処方してもらった。朝夕1錠服用するのだが、副作用が強烈。一日中頭フラフラの状態が続くほか、身体がしびれ、夜眠れない。心配になり、医師に尋ねると、「禁煙したいのなら我慢してください」。日に日に悪化する体調を心配しながらも3週間ほど服用を続け、何とか禁煙に成功した。1錠当たりの価格は30バーツ(約90円)。タイの物価からするとかなり高いが、それでも禁煙ガムや禁煙パッチに比べれば安価だ。

 ちなみに、この禁煙薬、日本では市販されていない。それにしても、これほど、副作用の強い薬を平気で処方するあたり、タイの医療と日本の医療の差がはっきりしており興味深くもある。カリニ肺炎の治療薬さえ、街角のしょぼい薬局で売っている国だけのことはある。(明)

(写真キャプション)
過激さを増すタイの健康警告表示。来年2月から導入予定だ

9/01/2006

絵に描いた餅「禁酒キャンペーン」


 タイでは今、「禁酒」を訴える政府提供のテレビCMが話題となっている。粗末な家の中で上半身裸の男性が何か思い詰めたかのように、「ジョン」(貧しい)、「クリアット」(イライラする)と叫びながら、ビンに入った酒をあおると、そのバックに「キン・ラオ」(酒を飲む)とのナレーションが入るというものだ。

 汚職、不正行為など批判のネタが尽きないタクシン政権ではあるが、貧困対策については積極的にさまざまな政策を打ち出している(その内容に問題があるにせよ・・・・・・)。そのタクシン政権が、貧困対策の切り札として出したのが、この「禁酒・節酒キャンペーン」だ。

 確かに地方の貧困はこの飲酒によるところが小さくないようだ。友人のタイ人は北部貧農出身であるが、義理の兄は未だに小作農の日雇いで1日150バーツ程度の収入を得ると、その大半が酒代に化けてしまうという。子供は中学進学を希望していたが、とてもそれどころではなく、小卒でバンコクの屋台で働くことになってしまった。しかし、兄に対する非難も、子供に対する同情も、ともに驚くほど少ない。農村部では「よくあること」らしい。やはり、酒が貧困のひとつの原因となっていることは間違いなさそうだ。

 ちなにみ、2000年に世界保健機関(WHO)が行った調査では、タイ人一人当たりのアルコール摂取量は世界第5位とか。これだけ酒好きの国民に、テレビCMだけでいくら禁酒・節酒を呼びかけてもあまり効果はないのでは・・・・・・。次ぎの1手が注目される。(明)