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■首相「テロは政治的利益を失った者の犯行」 ■スラユット首相「政治的利益を失った者の犯行」 イスラム過激派は無関係
スラユット首相は大晦日から元日にかけて起きた同時爆破テロとタイ南部で頻発しているテロとの関係を否定。政治的利益を失った者の犯行との見方を示した。 首相は1日午後12時20分、緊急会合後の記者会見で、バンコク都および隣接するノンタブリ県の8カ所で起きた同時爆破テロが、最南部でイスラム過激派が主導しているテロ行為とは無関係であるとの認識を示すとともに、利権を失うなど政治的不利益を被った過去の政権の関係者による犯行と決め付けた。ただし、それがタクシン前政権を指してのものかどうかについては明言を避けている。 また、タイ警察は今回の同時爆破テロで使用された爆弾がM4と呼ばれるタイプのもので、デジタル時計を組み込んだ時限爆弾だったことから、同一犯行グループによるものと断定している。 タイ政府は年末年始のテロ発生を警戒して、警察と国軍による共同パトロールを行うなど、治安維持に務めてきたが、テロを防止することはできなかった。首相は記者会見の中で、「軍・警察の監視能力にも限界がある」として、駅・船着場など人の集まるところで不審者や不審物を見かけた場合にはすぐ当局に通報するよう、市民に協力を求めた。 また、バンコク都庁ではゴミ捨て場の徹底調査を始めている。 ■タクシン前首相、テロへの関与を全面否定 「イスラム過激派の可能性も」 タクシン前首相は2日、代理人のノッパドン弁護士を通じて、大晦日夜から元日未明にかけての同時爆破テロへの関与を全面否定した。 同弁護士は、北京滞在中のタクシン氏から送られてきた手書きの書面を報道関係者に提示。そこには、「私は、政治的な目的達成のために、国民の幸せや国の信頼を台無しにするようなことは考えたことがない。事件は一般市民を傷つける許せない行為だ」と書かれていた。 また、スラユット首相など当局者が事件直後に、過去の政権の関係者の関与を指摘したことについて、タクシン氏は、「情報が不十分な段階で犯人像に言及するのは不適切」と批判するとともに、昨年、南部ソンクラ県のハートヤイ国際空港で起きた爆弾事件との類似点に言及。今回の事件も最南部で暗躍するイスラム過激派の犯行の可能性があるとの見方を示した。 タクシン氏の一連の発言は、国家治安評議会(CNS)が1日、同氏の側近だったプロムミン前首相秘書官、チットチャイ前副首相らに出頭を求め、聞き取りをする意向を示したことに反発したものとの見方が支配的だ。 ■陸軍司令官、クーデター再発の憶測を否定 首相、市民に警戒求める
ソンティ陸軍司令官(国家治安評議会議長)は5日早朝のテレビ番組で、クーデター再発の憶測を完全否定した。 同司令官はここ数日、クーデターが再び起こるとの噂が広まっていたことを認めた上で、「軍内にそのような動きはない」として、国軍が一枚岩であることを強調した。また、同司令官自身がクーデターを計画しているとの憶測については、「ありえないこと」と一笑している。 また、チャワリット元首相が今回のテロ事件の黒幕と疑惑が浮上していることについては、「国家治安評議会の会合で議題となったことはない」とコメント。しかし、その一方で、「このようなテロを実行できるのは、軍か警察関係者の可能性が高い」との見方を示した。 スラユット首相は同日、噂を信じないよう国民に呼びかける一方で、今後1、2カ月は警戒を怠らないよう求めた。 今回、クーデター再発の憶測が流れた理由のひとつに、バンコク都内300カ所以上を警備するため、複数の国軍部隊が移動したことがある。このため、首相は国軍に対して、今後、移動・配置換えを行う場合には、事前に国民に報告するよう命じたことを明らかにした。 ■チャワリット元首相、爆破テロ関与疑惑に激怒 国軍幹部を「無能」と批判
大晦日から元旦にかけ起きた同時爆破テロでタクシン前政権関係者に嫌疑がかけられている。 そのひとりが、タクシン前政権を支えた大物政治家、チャワリット元首相(元陸軍司令官、元新希望党党首)だ。現地紙の報道によれば、15億バーツをタクシン前首相から受け取り、現政権に揺さぶりをかけることを目的として、今回のテロを指揮したとの疑いを警察が抱いているという。2日には、チャワリット氏が身柄を拘束されたとの噂も流れている。 これに対して、チャワリット氏は3日に反論記者会見を開き、「何か治安上の事件が起きるといつも私が疑われる」と嫌疑を全面否定。その上で、「犯人が分かっているのなら、なぜ逮捕しないのか。情報を得ているのに逮捕に踏み切れないとしたら、それは政府の無能さを証明することだ」「私が政治の表舞台に再び立つことを恐れる者の嫌がらせだろう」「海外の通信社では現政権の自演自作との見方をしているところもある」と不快感を露にした。 さらに同氏は、国家治安評議会の一部幹部について、「若い将校らはすべてを知っているかのように振る舞っているが、経験不足は隠せない」と軍高官を子ども扱いにした。 チャワリット氏は先に、戒厳令の早期解除を求めるとともに、軍人の国営企業役員への起用を見直すよう政府に要請。さらに、タクシン前首相を本人の希望通り帰国させるべき、と訴えたほか、現在の軍首脳に反発する軍人たちがクーデターを起こす恐れがあると指摘するなど、現政権に批判的な発言が目立っていた。 このため、11月13日にはスラユット首相の元上司、プレム枢密院議長の計らいで、チャワリット元首相とソンティ陸軍司令官を議長とする国家治安評議会幹部との「仲直り夕食会」が開かれている。 ■タイ政治を読む タクシン政権が生んだ国民分断 暫定政権で決定的に深まる 融和無ければバンコクは不安定化
警察の発表によると、年末にバンコクとノンタブリ県で発生した連続爆弾テロの犠牲者は、死者3人、重軽傷者40人以上に及んだ。ゲイソンプラザ前の時限爆弾は午前0時5分に爆発しているので、仮にセントラルワールド前のカウントダウンが中止になっていなければ、さらに多くの犠牲者が出ただろう。 暫定政権では当初、タイ南部で爆弾事件を起こしている分離独立派テロリストによる犯行の可能性は薄いとしていた。バンコクで使われた爆弾のタイプが南部のそれと違うからだ。そして、クーデターで権力的な地位を失ったタクシン前首相派を犯人として有力視し、その側近4人を査問した。しかし現在では、南部テロリストによる犯行の可能性も再び加え、犯人探しは白紙状態にある。 バンコクで多くの死傷者を発生させる爆弾テロが起こったのは近年では今回が初めてだ。米国同時テロ発生以来、世界的に治安が不安定化していた中にあって、特に大きな問題のなかったバンコクの安全への信頼は揺らいだ。こうなってしまった根本的な原因は、タクシン政権下で徐々に積み上げられ、軍部主導の暫定政権で爆発した。 タクシン前政権は、権力の中枢も周辺も身内で固めた。前首相の政治母体であるタイ愛国党は、下院議席の安定過半数を握り、政治家のみならず、軍と警察を含む国家公務員、経済界を取り込んだ。 また、選挙でより多くの票をかせぐために、地方民に有利な政策を実施し、政治力の比較的弱い中産階級を軽視した。国営企業の民営化にも積極的に取り組んだが、従業員が失業や待遇低下を恐れる中、経営陣や政治家、あるいは投資家は株式公開で儲けた。 こうしてタクシン前政権の政策によって、利益を最大限に得られる側と、冷や飯を食べさせられる側とに社会は分かれていったが、政権はその間を埋めようとはせず、むしろ味方と敵とに区別した。その結果、利益を得られなかった側は反タクシン派となり、その不満は約5年間続いた政権でどんどんと鬱積していった。 タイ南部の分離独立運動には強権で対応した。歴史的背景から、最南部の3県を中心にして、タイから独立してマレーシアに融合したいとする分離独立運動がある。以前から爆弾テロがしばしば起きていたが、それは多くても年に数件だった。南部を地盤とする民主党政権ではほとんど起きなかった。 ところが、タクシン政権になってから警察官の射殺事件、爆弾テロ、軍事施設襲撃が相次ぐようになった。現地の警察権力強化に反発したものだろう。民主党地盤なので利益分配も減ったはずだ。ついには青年イスラム教徒による暴動も起こり、逮捕者約80人が護送中に窒息死する惨事となった。 南部イスラム教徒の怒りは非常に強い。だが、それが何に由来するのか、政府、イスラム教徒、どちらの側からも表明されていない。分離独立だけが理由ではないだろう。明らかなことは、タイ最南部はタクシン前政権時に警官・軍人・教師など公務員が1000人以上、一般民5000人が殺害された世界有数の危険地帯になっているということだ。そして、テロ事件は、クーデター後の暫定政権になっても収まっていない。 反タクシン派の不満は、前首相が脱税紛いの方法で通信社株を売却し、巨額の利益を上げたことをきっかけに高まり、首相を追い落とそうとするデモが急拡大した。政情不安になるにしたがって、タクシン派と反タクシン派の対立は益々鮮明になり、社会は2派に分断された。タイ社会が政治的支持を巡ってあれほどまでに分断されたのは現代史では初めてとされる。 タクシン前首相は国民に信任を問うとして総選挙に打って出たが、野党がボイコットしたことで泥沼化した。しかし国王の助言で総選挙のやり直しが決まり、野党も参加の意向を示していた。 その矢先の9月19日、軍部がクーデターを決起した。その実際の理由には軍部人事など様々な憶測があるが、名目として軍部が掲げた最大の理由は「国民融和」だった。そして、そのプロセスとして1年以内の「憲法改定」と「総選挙実施」を公約した。 クーデターから3カ月余り、軍部支配下の暫定政権は、憲法改定に向けた取り組みを急いでいる。だがその一方で、軍、警察、各省庁の上層部にいたタクシン派を左遷し、それまで虐げられてきた反タクシン派を引き上げた。タクシン派の汚職追求も厳しく行っている。タクシン政権の5年間で溜まりに溜まった恨みを晴らしているようでさえある。クーデターで貢献のあった軍人への報酬も相当額支払い、軍部の年間予算も大幅に引き上げた。 その結果、「国民融和」どころか、タクシン派と反タクシン派との間の溝は益々、深まっている観がある。南部についても、クーデター直後はテロ事件が減ったが、現在ではまた増えている。 クーデターの首謀者で、暫定政権を管理する国家治安評議会(CNS)の議長に就いたソンティ陸軍司令官は、イスラム教徒であるため、タクシン前政権で南部問題の解決を期待された。しかし、それに失敗して役職を降ろされかけていた人であり、南部問題を解決する能力には疑問符が付く。 バンコクで発生した爆弾テロ事件は、爆弾が仕掛けられた場所、時間帯からみて、単なる脅かしではなく、多くの死傷者が出ることをわかってやったものだろう。それは追い落とされたタクシン派への国民の支持を高めようとしたものでもなさそうだ。 無関係の同邦を巻き込む無差別テロは、とても国民の支持を得られるものではない。そこにあり得るのは、人の命さえ軽視する激しい権力抗争か、あるいは同じ国民でも宗教、民族など異なる所属があるときの決定的な対立だ。犯行グループと政権との間にはテロを起こすほどの分断がある。 社会がどんどんと複雑化する現代、政治は高度な利害調整をしていかなければならない。タクシン前首相は、選挙を経て政権を握った。任期満了に伴って実施された一昨年の選挙では全下院議席の五分の四に近い議席を得た。反タクシン運動が盛り上がった最中の昨年4月の選挙でも過半数を得た。 一方で反タクシン派は、民主主義を棚上げしてでさえタクシン前首相を追い出そうとし、軍部によるクーデターを歓迎した。タクシン前首相は通貨・金融危機後の経済をうまく立て直したが、利害調整は上手くなく、一部の国民をそれほど怒らせるまで、利益配分の偏った政治を行ったのだ。 暫定政権は、「国民融和」という利害調整を行うと公約した。だが、前政権でも起きなかった、バンコクでの連続テロ事件を発生させてしまった。しかも年末の外国人観光客も多い場所で、死者も出た。この程度の爆弾テロは、テロリストが本気になれば、いつでも、どこでも起こせるだろう。 暫定政権の最大の失敗は、テロリストの犯意をそこまで高めてしまったことだ。テロリストを育てたのはタクシン政権だが、それが街に放たれたのは暫定政権に責任がある。 国際的に求められているテロ対策の最重要な戦略は、テロリストとの交渉には一切応じないことだ。ただし、それと同時に、普通の人々が怒りに狂ったテロリストにならないよう、誰もが納得する透明・公正・公平な政策で社会的な利害を調整しなければならない。 政府のテロ対策が警備という対処的なものに終始すれば、テロは止められない。国民融和を目指した政策を策定し、その速やかな実行が求められる。そのためには、やはり政権運営で全面的な正当性のある民主政権の誕生が不可欠だろう。それなしに、タイの治安に全幅の信頼を取り戻すことは困難だ。 (水谷昇 記者) |
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