2003年
1090号(12月1日〜7日)

今が旬の大人気ツアー・タイ国鉄の旅
ひまわり畑でモデル気分
文・写真/神崎アキラ

 タイでは年に3ヵ月だけひまわり畑観光を楽しむことができる。ソフィア・ローレン主演のイタリア映画のタイトルにもなっているよう、私にとって、ひまわり畑といえばやはりヨーロッパ(さらにいえば、スペインのアンダルシア地方)というイメージが強い。しかし、ここタイのロッブリ県でもそれに負けない見事なひまわり畑が観光客の訪れを待っているという。在タイ15年目にして重い腰を持ち上げることにした。

「故郷は遠きにありて思うもの」―室生犀星の詩『小景異情』の中に出てくる一節だ。同居人と2人、自宅で現像した旅先の写真を見ている時、自然とこの言葉が頭に浮かんできた。

 毎年11月から翌年1月にかけてタイ中部ロッブリ県ではひまわり畑が満開となり、多くの観光客を集める。私も畑一面に咲き乱れるひまわりの写真を見る機会は多く、「いつかは行ってみたいものだ」と思っていた。しかし、生来の出無精が災いして、在タイ15年にして、これまで一度も訪れたことはなかった。それに、行き方もよく分からなかった。

 そんなある日、同居人が、「国鉄がひまわり畑ツアーを主催しているんですって。食事にガイドも付くみたいよ」と友人から聞き付けてきた。フアランポン駅に電話で問い合わせると、他にもいろいろなツアーがあり、パンフレットも揃っているとのこと。とりあえず、同居人を案内所に行かせることにした。

 それによれば、ひまわり畑ツアーにパーサクダム観光も付いて、大人300バーツ(3等ノンエアコン)、400バーツ(3等エアコン)、500バーツ(2等エアコン)、700バーツ(1等エアコン)。食事付きでフアランポン駅発朝6時20分とのことだった(戻りは午後6時45分。なお、ツアーは土日のみ)。とりあえず、2等を2人分予約した。

 11月16日、列車はほぼ定刻通り出発。ひまわり畑に到着したのは、午前9時間20分だった。といっても、別にホームがあるわけではない。ひまわり畑の前で停車し、「さあ、降りてください」というわけだ。ただ、車両によっては、ひまわり畑から少し外れた位置に止まるため、到着寸前、中央部の車両に移動するようアナウンスがあった。

 まだ、畑一面のひまわりとまではいかなかった。聞くと、少し時期が早かったようだ(ベストシーズンは12月中旬から1月中旬とのこと)。うつむいている花も少なくない。それでも、観光客は我先にと列車を降り、記念撮影に余念がない。停車時間は約30分。同居人は「たった30分しかないの」と最初、かなり不満そうだった。

 ひまわり畑に入る前、5バーツを集金され、さあ、撮影だ。最初の10分間でフィルムを1本使い切るが、いかんせん「暑い」。汗が目に入り、目がしみる。おまけに「まぶしい」。直射日光に目がチカチカする。さらに「痒い」。ひまわりの茎と葉が露出している肌に触れるとチクチクし、それがすぐさま痒さに変わる。長袖のシャツを着てくればよかった。これは同居人もまったく同じだったようで、「たった30分しかないの」といっていたのがわずか10分で、「もう列車に戻ろうよ」と泣き言を言う始末。結局、ほかのタイ人観光客も30分の持ち時間をフルに使い切る者はほとんどおらず、20分足らずで列車へと戻っていた。ひまわり畑の眺めは決して悪くはなかった。しかし、正直言って、期待していた程でもなかった。

 ところが、その翌日、自室で冷たいビールを飲みながら撮った写真を同居人と見ていると、これがなんともすばらしい眺めに思えてくるから不思議だ。ひまわり畑の中に立っている時より、旅を終え、撮影した写真を見ている時のほうが、数段、ひまわりが美しく感じられるのだ。私の場合、ひまわり畑に失望したわけではないので、「故郷は遠きにありて…」と嘆いた室生犀星の心境とはまったく違うのだが、私にとってのひまわり畑はやはり“遠く”で思い起こす方がいい。さらに言えば、撮影した写真を見る度に私の中でひまわり畑が美化されていく。やはり行ってみてよかった。

 さて、このツアーではパーサクダムの観光もパッケージされている。まず、ダム北部の貯水池でいったん、停車して30分の記念撮影タイム(私の撮影所要時間は約5分)。その後、パーサクダムに移動し約3時間の自由時間となるのだが、これといった見所もなく、食堂で時間を潰していた。

 そして午後3時30分、列車はパーサクダム駅を出発、フアランポン駅に午後6時間45分に到着して、ツアーは終了した。


<国鉄を利用しての国内観光>
これはタイ国鉄の重要政策のひとつで、現在、さまざまな日帰り・宿泊ツアーが企画・運営されている。今回、参加したひまわり畑・パーサクダム観光もそのツアーひとつだ。他には、クワイ川下り、エラワン滝観光、水上マーケット観光、アユタヤ遺跡巡りなどがある。ガイドは付くが、基本的に説明はタイ語。このため、タイ人の友人といっしょに参加するのでないかぎり、日常会話レベルのタイ語ができないと多少まごつくことがあるかもしれない。なお、今回のツアーに参加した日本人は私だけだった。
連絡先電話番号:1690(24時間受付、タイ語・英語)
 
※チケットは事前にバンコク都内各駅の前売り券オフィスで購入(当日券なし)。
今回のツアーでは大きな不満がひとつ。それは、車体側面のほぼ全体にペイントされた広告だ。収益増を狙った国鉄の作戦であるが、このおかげで、窓から景色がよく見えないのだ。「世界の車窓から」という長寿番組があったが、車窓からぼんやりと外を眺めている時、何ともいえない旅情を感じるのは私だけではあるまい。BTSの車体にも描かれてはいるが、通勤列車ならともかく、その車両をツアーにも利用するというのはいただけない。国鉄側に〃善処〃を強く望みたい。