中国WTO加盟承認
タイ経済界・政府
脅威ではなく機会との認識
今月九日から十三日までカタールの首都、ドーハで開かれる世界貿易機関(WTO)閣僚会議で中国のWTO加盟が承認され、早ければ今年末、遅くても来年初めには正式加盟となりそうだ。そうなれば中国の関税引き下げとともに、他の加盟国も中国に対する関税を引き下げなければならない。製造品目とその品質で中国と重なるものが多いタイ経済は、世界最大の新興工業国といえる中国との競争にどう対応しようとしているのか。タイ経済団体と商業省関係者に話を聞いた。
地場産業の競争力強化---中国投資で協力関係構築
「タイ製品が価格で中国製品と競うのは無理だ。タイ製品は中・高級品でなければ生き残れない」と言い切るのはタイ工業連盟(FTI)経済委員会のチャワリット・ニンムラオ事務局長(オリエンタル・ガーメント会長)だ。
中国の労働コストはタイの半分で、しかも最近は日本、台湾、香港などの投資を得て技術力も向上している。縫製業を例に取れば、タイ製品が品質で先行しているのは三、四年程度でしかないというのが業界の見方だ。
「製品のスタイル、モデルを継続的にアップデートしていく必要がある。また、タイは消費者が高品質と感じるようなオリジナル・ブランドを育て、商品だけではなくブランド・イメージとともに販売することを考えなければならない。これは中国市場でタイ企業がシェアを得るにも必要なことだ。当連盟は商業省と一緒になって主要なタイの製造業者にオリジナル・ブランドを作るように助言している」
中国との競争に限らず、タイ企業の基本的な競争力の欠如を指摘するのは、タイ縫製業協会のスチャート・チャンタラナカラチャ会長(ゴーマイ・ガーメント社長)だ。同氏は「タイ国内市場では地場企業に十分な競争力があり中国は脅威ではないが、海外市場での競争は厳しくなるだろう。インド、ベトナムも手強い相手だ。タイは他国のことを考えるのではなく、タイ自身が最も強力な競争力を持つにはどうすべきかを考えた方がいい。それは生産性向上、サプライチェーン・マネージメントの実現、マーケティング戦略の強化などだ」と警鐘を鳴らす。
これら企業の取り組みに対して、タイ政府もタイ企業の支援に乗り出す意向だ。商業省ビジネス経済局のスリラット・ラスタパナ副局長は「特に中小企業の支援に焦点を当てた政策を実施したい。タイの輸出業者や製造業者の大部分は中小企業だからだ。インフラ、金融など様々な面で支援したい。もちろん、それらはあくまでWTOのルールに則った方法で実施する」と言う。
ただ、中国とタイでは経済の規模が桁違いに異なる。タイ企業、政府があらゆる分野で総花的に対応しようとすれば、全て中途半端になり、中国に飲み込まれかねない。タイ企業も政府もこの点を冷静に判断している。
「中国の成長は著しく、WTO加盟とは関係なく国際市場において中国製品の脅威を感じている。このためタイ企業は、いくつかの分野に特化して競争力を高めようとしている」(チャワリットFTI事務局長)
「中国製品の品質はかなり改善されてきた。タイ企業も品質改善に努めているが、全ての分野で勝つことは困難だ。タイに向いている品目を選択的に改善していくことになるだろう。輸出についても同様のことが言える。たぶんタイは農業製品で優位に立てるだろう。例えばゴム製品、タピオカ、米などだ。これらは中国でも生産できるが、タイの方が品質が良く、中国に輸出できる」(スリラット副局長)
直接対決を回避
このようにタイ企業、政府とも、中国と渡り合うにはタイ企業自身の競争力強化が不可欠と理解している。しかしその一方で、中国との直接対決はタイにとって不利という現実的な認識もあり、それを回避するための戦略も練られている。
スリラット副局長は「タイの地場企業は中国と協力することを考えている。中国を敵に回すよりも友人として付き合った方が良いということだ。つまり中国で投資の機会を探すことである。タイの対中投資は二〇〇〇年累計で約二千六百件、四十二億ドルに及び、中国が受け入れた外国投資の国別順位で八位となっている。分野別に見て多いのは銀行、エネルギー、製造業、アグリビジネスなどだ。中国には世界中が注目しており、タイ企業の参入も容易ではない。不確実な経済でもある。合弁事業なら幾らかやり易くなるだろう」と見ている。
チャワリットFTI事務局長も「中国はタイにとって大変な競争相手であるが、同時に巨大な市場でもある。両国の関税の壁が低くなり、タイにも中国製品が入ってくることになるのだから、タイ側からも中国に入っていかなければならない。そうすることで両者にメリットが出てくる。CPグループのように中国で積極的にビジネス展開する企業も出てくるだろう」と見ている。
今月六日にはブルネイで中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が自由貿易協定の協議開始に合意した。両国・地域はWTOルールに先行して関税を引き下げていく可能性が大きい。
「世界経済は自由化の方向にあり、もしタイが保護障壁を設ければ世界中から除け者にされてしまう。タイは国内市場をオープンにしなければならず、その結果、外国企業に市場シェアを取られるだろう。タイ企業は国内市場を失う分、もっと海外市場でシェアを取るべきだ。中国との関係も同様だ」(チャワリットFTI事務局長)
「中国のWTO加盟はタイにとって避けられない問題なので、悩むのではなくポジティブに考えてその対応を準備しなければならない」(スチャート・タイ縫製業協会会長)
「タイは挑戦者として機会を見つけたい。挑戦者は、より強くなるという決意をもって戦略を考えなければならない」(スリラット商業省副局長)
ASEAN自由貿易圏(AFTA)の実現でリーダーシップを発揮してきたタイには中国のWTO加盟を脅威ではなく、チャンスと見ることのできる素地がある。
(水谷 昇 記者)
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