フジスーパーの舞台裏(下)
接客指導は従業員との我慢比べ
「最大利益を追求」しない
さて、買い物客が最も気にする価格だが、フジスーパーにはたとえ商品がたくさん売れても価格を高く設定して最大利益を追求する考えはない。顧客が満足し、店としても従業員を養って行ける「適正価格・適正利益」の実現を目指している。高い価格は最大利益を生む反面、反動で顧客離れを起こす恐れもある。
フジスーパーでは商品部門別に目標利益率を設定し、それぞれの売り場責任者がこれを各商品アイテムに分散して落とし込む。すべてのアイテムで十分な利益を上げるのではなく、全体として利益を生むように価格が設定されている。日頃「高い、安い」と価格を比較しながら買い物をしている我々だが、実はこういうルールで価格付けがされている。
バイヤーは全員女性
商品の発注・仕入れは買い物客には見えないがSMにとって大変重要な作業だ。商品の販売予測を読み違え過剰に仕入れると在庫の山を築く。品質が劣化して益々売れなくなり、最終的に廃棄ロスが発生する。逆に仕入が少な過ぎると品切れを起こし、顧客が買いたい時に売りたくても売れない、すなわち販売機会ロスとなる。両方とも利益減少の重大な要因になる。
フジスーパーでは各部門別にベテランの仕入専門バイヤーを揃え、その下で働く主任が日々、適正量の発注・仕入の実現に向け努力している。バイヤーはなぜか全員がタイ人女性だ。これについて原岡さんは次のように話してくれた。
「金銭管理や細かい数字を使う作業は女性に向いているように思います。逆に全体をまとめる店長には男性を置いています」
運動会も貴重なデータ
発注にはPOSを使って販売量の予測に役立てている。POSとは「ポイント・オブ・セールス」の略で、販売時点の販売情報を集計するシステムのことだ。レジで代金を支払う際、レジ係りが手にもった機械で何やら商品に貼付されたバーコードを読み取っているが、このバーコードには商品の品目、数量、価格等の商品データが読み込まれており、何が、いつ、いくらで、いくつ売れたかがコンピューターに記録されるのだ。 蓄積された販売情報を元にデータベースを作成し、その日の天候、気温、催事のある無し等の付随データも結び付けて、その後の販売予測に生かす。
催事のある無しとは、例えば運動会。買った曜日と天候、気温がたとえ同じ条件だったとしても、その日に運動会があるかないかで飲料や菓子類、弁当類の売上は大きく違ってくる。そういった細かいデータも考慮する。SMの販売は販売して終わりではない。販売データをフィードバックしてその後の発注・仕入、ひいてはマーチャンダイジング(MD)戦略全体の再構築に活用している。
フジスーパーの横手にある仕入検品所にはこうして発注された商品が毎日続々と搬入されている。一日の業者の出入りは約百五十―二百業者にもなる。単純計算すると一時間に十二業者以上。最低五分に一業者が出入していることになる。実際は仕入時間を制限しているため五分おきに搬入するわけではないが、毎日百五十以上の業者が出入りしていることに変わりはない。大変な作業量だ。買い物客が気持ちよく買い物をしている裏で膨大な作業が行われていることを知って少々驚いた。
試行錯誤の接客指導
「接客サービスには一時期随分苦労しました」当時を振り返って原岡副社長はしみじみと語る。当たり前のようだがタイ人従業員は日本人とは考え方が違うので、日本人の視点で間違っていることでも本人はミスをしたと考えていない、謝らないという事態が時折り発生する。
両者の考え方のギャップを埋めることは難しく、接客教育については試行錯誤した。日本の本社からレジ係りのトレーナーに来てもらい十日間くらいで全員を教育した。すると大体良くなるのだが、一ヶ月も経てばまた元に戻ってしまう。日本の接客マナーの細か過ぎる点がかえって逆効果になる嫌いもあった。驚きを通り越して「そこまでやる必要があるのか?」と呆れられてしまうのだ。このため、何度本社のトレーナを招いても同じ事の繰り返しだった。
タイ人教育係が徹底指導
一計を案じた原岡さんは日本式の接客サービスを理解しているベテランのタイ人レジ係りを接客サービスの専任教育係りに任命し、教育スケジュールの立案から訓練まで責任を持ってやらせた。新人が入社したら徹底的に訓練し、正しい接客ができるようになるまでレジの仕事をやらせない。新人以外の従業員でも理解が不十分な者には同様の訓練を施した。それを一年間毎日継続すると徐々に定着し、面白いことに日本式の接客サービスをやるのが普通と考えるようになって来た。原岡さん自身も「お客さんが買い物をしてくれるおかげで我々の生活が成り立っている」という話を何度も何度も、本人の言葉を借りれば「嫌になるほど」従業員に繰り返して言って聞かせた。そのうち、タイ社会に外資系のSMが多数参入し始め、タイ人社会にもフジスーパーが実施する接客サービスが当たり前として受け入れられるようになった。特に某コンビニ・チェーンの接客マナーはレベルが高く、フジスーパーでも従業員に命じて見学させることもあったという。
「昔に比べればバンコク全体の接客は本当にレベルが上がったと思います」(原岡副社長)
店舗の老朽化には思案顔
フジスーパー一号店の店舗は築十六年になる。古いため設備の様々な部分に影響が出て来て いる。掃除婦がモップで一日中床拭きをし、月二回のワックスがけも欠かさないが、建物そのものが古いため「あまり効果はないようですね」と半分諦め顔の原岡さんだ。
それでも店舗管理責任者としては清潔さの維持が大変気になるようで、暇があれば店内を見回っている。建物の賃貸契約は二十年。今から四年後の二十年目には建物全体のリニューアルの必要があるだろうと考えている。
駐車場不足が悩み
最後に駐車場問題に絡んだフジスーパー二号店の誕生秘話について触れておこう。原岡さんが建物の老朽化以上に気にしていたのは実は駐車場不足だった。土日ともなればフジスーパーの敷地内は交通誘導を待つ車両で溢れ返り、買い物客に多大な迷惑を与えてしまう。解決策を模索していたところ、タイ側パートナーである製粉会社、UFMから二号店出店の話が持ちあがり、原岡さんは「渡りに船」とばかりに飛びついた。もちろん、交通渋滞に悩む一号店の車客が大きな駐車場と隣接する二号店に移動することで、一号店の駐車場不足が緩和されることを期待しての決断だ。しかし実際は二号店周辺道路が常に渋滞していることもあり、一号店の車客は思ったほど二号店に流れることはなかった。内心心配していた自社間競合も発生しなかった。
「良くも悪くも見込み違いでしたね」と原岡さんは照れた。
普段何気なく買い物をしているSMでも、一歩経営の内側に足を踏み入れると新しい表情が見えてくる。次回フジスーパーで買い物をする時は、想像力を働かせてさらに楽しく買い物ができそうだ。
(宮尾 和宏 記者)
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