総 合

死刑判決が急増

大多数が「極刑は必要」 本紙調査


「重罪は自らの命で償うべき」、反対派「残忍すぎる」

 覚醒剤関連犯罪に対する死刑判決が急増している。一日で十九人の被告に対して死刑が言い渡されるなど、その厳しさは過去に例をみない程だ。「人権尊重」を理由に、死刑制度廃止国が増えるなか、仏教国タイの市民が死刑制度をどうみているのかを探ってみた。

タクシン首相迅速な執行を指示

 内務省刑務局が先頃発表したところによれば、現在、タイ全国の刑務所にいる死刑囚は三百七十三人、うち控訴中が三百五十六人、執行待ちが十七人という。死刑が確定している囚人の内訳は、麻薬・覚醒剤関連犯罪が七件、殺人事件が十件となっている。

 また今年になってから死刑を宣告された犯罪者は八十四人。平均すると月間約十人が死刑宣告を受けていることになる。七月二十五日には十九人に対して死刑判決が下されるなど、過去の例からすると、「乱発」といっても過言ではない程だ。

 死刑判決が急増した背景には、今年三月、チェンライ県で実施された国家麻薬・覚醒剤対策会議で、タクシン首相が、覚醒剤犯罪の撲滅をうたったことがある。このため、これまでは覚醒剤関連犯罪でも容疑を最初から認めた場合には、無期懲役に減刑されるケースが少なくなかったが、今では、大量の錠剤を所持していた場合には、すべて死刑が適用されることになっている。

 世界的には「人権尊重」との見地から、死刑制度を廃止する国が増えているが、タイでは逆にタクシン首相が死刑の迅速な執行を指示。これまで死刑執行はバンコクのバンクワン刑務所に限定されていたが、今後は効率化を図るために、東北部・北部・南部で、それぞれ一カ所の刑務所でも死刑執行を可能にしていく方針だ。

 このため、この政府方針に対して、死刑の是非を問う論議が活発になってきており、現地紙上にも、死刑に関するコラムがしばしば掲載されるようになった。

 そこでバンコク週報社では、バンコク都、及び近郊に在住のタイ人三百人を対象に「死刑制度」に関するアンケート調査を実施。その結果、「賛成」二百四十六人、「反対」五十六人と、約八〇%の回答者が死刑制度を存続するべき、と考えていることが分かった。

 死刑に賛成する理由としてもっとも多かったのが、「重罪を犯したものは自分の命で罪を償うべきである」(銀行員・二五)というもの。それに「ほかの犯罪者に対するみせしめになり、犯罪防止に役立つ」(大学院生・二七)、「社会の不安要因は取り除くべき」(露天商・四二)といった意見が続いた。また、「無期懲役にすると食費など無駄な税金がかかる」(OL・三八)という回答もあった。

 一方、死刑反対派の理由としては、「仏教国タイにそぐわない」(自営業・三四)、「更生の余地を奪うことになる」(女子大生・二三)、「残忍すぎる」(会社員・二九)などの意見が目立った。

 死刑制度廃止を訴える国際アムネスティ協会は、「人権尊重の流れに反するもの」と、タイ政府を批判をしてるが、今回の調査では、「犯罪者の人権を過度に重視するのは考えもの」(プログラマー・二四)との声も少なくなかった。また、「被害者の家族・親族の気持ちを考えると、極刑は妥当」(主婦・四七)とする回答者も多かった。

 現在、タイでは処刑方法として銃殺を採用している。かつてパウィナー議員(国家開発党)は、「レイプ殺人犯は局部を撃ち抜く銃殺刑にするべきだ」と発言して話題になったが、死刑賛成派のなかに「銃殺は残忍すぎる」との声があることも事実。そこでタイ政府は現在、これまでの銃殺から、薬物注射に変更することを検討している。

 チュアン前政権時、閣議でこの処刑法変更が承認されていたが、タクシン政権になって見直しとなり、これまでのところ、まだ閣議を通過していない。しかし、死刑存続国でも薬物注射による死刑が増加しているこもあり、処刑法変更は時代の流れともいえなくもない。

 その場合、刑法改正が必要となり、通常国会での承認が必要となることから、薬物注射による処刑第一号は早くとも来年以降になる見通しだ。

(倉林義仁記者)



[BANGKOK SHUHO]