自動車製造
企業間連携で 製品開発期間が半減
高速インターネット利用の新製造設計システム
高速インターネット通信を活用した自動車製造の新システムが来月半ばにも発表される。「C「コラボレーション・コマース・システム」と「PDMシステム」だ。このシステムを導入することで新製品開発期間を大幅に短縮できる。その結果、開発コストが低減するだけでなく製品を早く市場に投入でき、先行者利益をより長く確保できる。つまり企業は二重のメリットを享受できるわけだ。
このシステムでは離れた場所にいる複数の開発関係者がそれぞれのモニター画面を見ながら共同で設計作業に取り組むことができるため、人的移動の時間と労力を省くことができる。従来のやり方だと、関係者間で意見調整と図面修正を行う度に設計図面を持ってお互いを行き来しなければならなかった。時間のロスは相当なもので、それだけ製品市場化も遅れた。ライバル企業の追随を容易に許すことにもつながっていた。近く正式発表される新システムは、従来の方法が抱えるデメリットを一掃する可能性を秘めている。
新システムでは、アジア各国の各企業が持つCAD/CAMシステムを高速インターネット網でつなぐため、画面上で三次元データ(設計図面)を共有できる。一人が図面に手を加えれば、他の人も同時にその様子を見ることができるのだ。もちろん、誰でも同時に図面加工に参加できる。
このような企業間連携のためのITソフトは「コラボレーション・コマース・ソフト(共同作業ソフト)」と呼ばれている。コラボレーション・コマースとは、業務上関連する複数の部門担当者が互いに協調しながら作業を進めていくことで、「PDM(製造情報管理)」とならんで新システムの骨格を成す概念である。
ITバブルがはじけて以降、IT関連企業の経営が右肩下がりとなっているためつい見過ごされがちだが、ITを活用した企業間連携の動きは、特に製造の分野で依然として急速に進んでいる。新システムの販売を開始したニュー・システム・サービス社(NSS社)のソムサク社長はこう語る。
「むしろ、ITを活用した企業連携こそが企業の死活を左右する重大な要因になりつつあります」。
自動車業界において、日米欧の拠点ではこの認識がすでに浸透しており、製品開発期間の大幅な短縮に成功している。アジアでの製造開発拠点化を一層推進するタイにもこの波が押し寄せつつある。生産コストの低いタイをアジアの生産拠点にしようとする動きは世界的なうねりとなって進行しており、製造業者にとって企業間連携の流れに乗り遅れることは許されない状況になりつつある。米国のビッグ3(GM、フォード、クライスラー)がタイ自動車業界に着目している今、この流れは一層加速している。
新システムのタイへの導入に早くから取り組んで来たのが、タイのニュー・システム・グループの傘下にあるニュー・システム・サービス社(NSS社)だ。NSS社は新システムのサービス開始に向け、この九月に新会社ニュー・システム・プロバイダー社(NSP社)を立ち上げた。
NSP社はタイ国内の大手ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)やアジアで広域インターネット・バックボーン(=通称「A―BONE」)を運用しているアジア・インターネット・ホールディング社と提携し、インターネットを使って大容量のデータを高速かつ安全に国内および海外とやり取りするためのインフラを確保している。このネットワークの特色は、接続地点間でネットワークを監視するためオペレーション面で優れていること、暗号化、ファイヤーウォールの導入によりセキュリティー面が優れていること、インターネット網を利用しているのでアジアの主要拠点で簡単に接続が始められることにある。NSP社は新システムの稼動に必要なソフトのカスタム化・販売を行うと同時に、ハードウェアをふくめたシステム構築と保守サービスも提供している。NSSグループ企業にはCAD/CAM販売を手がけるNSS社、ヒューレット・パッカード社のワークステーションのディストリビューターであるNSC社があり、新システムに関連するすべてのサービスをパッケージで提供できる環境を整えている。代表的なソフトは「PDMソフト」と「C―コマースソフト」。前者は社内各部門の情報共有化のためのソフトで、後者は社外の関連部品メーカーや外部生産業者(EMS)との情報共有化を実現するソフトだ。どちらのソフトも欧米や日本ではここ二、三年の間に広く導入されている。
「取引先の製造業大手がこれらのソフトを導入した場合、タイの中小製造業は同じデザインソフトの購入が必要になります。しかし、中小企業の社内システム化の段階は企業によって大きく異なります。こうした実情に合わせて、NSP社はソフトの販売方法にも様々な工夫を凝らしています」とソムサク社長は説明する。
例えば、「c―PDMソフト」は社内システム化の発展度合いにあわせて必要なモジュールだけを導入し、投資効果の確認後に追加ソフトを買い足して、最終的に統合できる機能を持っている。また、ソフトの時間貸しサービスも可能だ。このように、社内システム化の段階に応じたソフトの導入が可能なため、中小企業にとって「投資メリットを求めたがためにその後の支払いに苦労する」という事態が発生する不安はない。
AFTA(アセアン自由貿易地域)が完全締結され、域内の関税が大幅に引き下げられると域内企業は厳しい競争に晒される。アジア各国間で製造アイテムの分業化が進む。タイは自動車製造分野においてほぼ一〇〇%の現地生産が行なわれており、日系メーカーをはじめとする大手メーカーがアジアの開発拠点として位置付けている。タイはアジアの開発拠点の役割を担いつつ、同時に他国とのコラボレーションはますます活発化するだろう。それに伴いアジア域内の高速インターネット通信回線の需要が飛躍的に増加するのは必至だ。企業間連携と製品開発期間短縮化の動きに加えて、すでにタイの製造業者の多くがCAD/CAMを導入していることを考えれば、コラボレーションを開始する下地はすでにできあがっている。ソムサク社長の話によれば、新システムに対する引き合いはすでに相当量寄せられており、新システムの早期導入がアジア域内の大競争時代を生き抜くカギになるであろうことは容易に想像できる。
ソムサク社長は周到に導入の準備をし時間をかけて育て上げた新システムに期待を込めてこう締め括った。
「タイ国内のハイエンドCAD/CAM市場において当社は七割のお客様にサービスを提供させて頂いており、そのほとんどが日系企業です。こうしたお客様方からc―PDMの引き合いを頂いています。アジア・インターネット・ホールディング社およびタイの大手ISPとの提携により回線の提供も可能です。新システムの普及でタイの高速インターネット通信インフラの整備が急速に進むでしょう。すると、回線利用単価が下がって新システムの利用価値が一層上がる。当社はA―BONEネットワークと提携し、高速インターネット通信とPDM、コラボレーション・コマース・ソフト、さらに企業内データシステム(ハードウェア)を組み合わせて、お客様に「エンド・トゥー・エンド・ソルーション」を提供するワンストップ・ショップの役割を果たすことで、タイの自動車産業の発展に貢献したいと考えています」。
(聞き手・構成 宮尾 和宏)
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