経 済

テロの長期的影響を懸念

貨物量減少、石油価格上昇、保険料引き上げ等


国際物流業界

 十一日に米国で発生した同時多発テロの衝撃は世界経済を直撃している。米ドル相場と各国株式相場の急落、原油価格の上昇、運輸系統(特に航空)の乱れ、大量の観光キャンセル等のニュースが毎日のように報道されている。そうした中で、物資の流れを一手に引き受ける国際物流業者は、テロ事件の短期的なインパクトよりも長期的な影響の方を危惧している。景気の後退による取扱貨物量の減少と、石油価格の上昇による貨物運賃の高騰、および貨物保険料の上昇懸念で、収益減少の危機に晒されている。  

 国際物流のルートには大きく分けて航空運輸と海上運輸がある。物流業者がこの二つのどちらをメインにしているかで、今回のテロ事件の影響は異なる。航空運輸は緊急の輸送に使われることが多く輸送期間も短いため、テロによる航空フライト停止の影響は大きい。他方、海運は輸送期間が長く比較的緊急性も問われないため、短期的なインパクトは小さい。両者による事件の受け止め方には明らかな温度差が感じられる。

 ジェットフレッシュ・タイランドの伊達直博社長は、「日本向け貨物は予定通りに輸送している。米国向けは先日やっと再開した。貨物量への影響は一週間ではまだ分からない。日本の国土交通省からセキュリティEという厳しいマニュアルが来ていて、マンパワーで貨物チェックに当っている」と語る。電話インタビュー時もバンコク国際空港で陣頭指揮に当たっていたようだ。

 近鉄エクスプレスの松山社長は、「当社は東京、ソウル、台湾を経由して世界各国に輸送しているが、この中継点にまだ滞貨があり、これが無くならないと新たな貨物を輸送することができない。滞貨の解消にはまだ時間がかかる」と話す。

 十九日現在、バンコク国際空港では航空会社職員とタイ通関職員により四段階の貨物チェックが厳重に行われている。航空会社が馴染み取引先の貨物と単発受注貨物を振り分けた後、タイ通関職員が開梱チェックを行う。問題のない貨物はすぐ輸送できるが、肉眼で中身を検証できない貨物についてはX線検査が行われる。それでも内容を確認できない場合は、時限爆弾混入の危険性に備えて空港倉庫で二十四時間貨物が留め置かれる。このチェックに人手と時間がかかっている。

 航空運輸会社には顧客から「早く貨物を通して欲しい」との催促があるが、上記の事情を説明して待ってもらっているようだ。

 一方、海運をメインにする国際物流業者は比較的落ち着いて事の成り行きを見守っている。インタビューに答える声の調子からも、切迫した様子は伝わって来ない。それは、「米国の港はテロ発生後二日間閉鎖され、貨物船が沖待ち(=港の外で受け入れを待つこと)を余儀なくされたが、今は通常通りに搬入が行われている」(泰国日本郵船の石田徹社長)せいもあるようだ。

 泰国三菱倉庫の高味知彦常務は、「海運はトランジット・タイムが長いので特に影響は出ていない。テロの影響が心配されているが、現在のところ、タイではあまり感じることはない。米国内とタイ国内では受け止め方に温度差があるようだ」と話す。

 このように、航空物流業者と海運物流業者とでは事件の受け止め方に大きな開きが見られるが、「テロの影響は短期的なものより長期的な影響が大きい」と「この先、取扱貨物量が増加することはない」の二点については両者の見解が一致している。米国の今後の対応次第では世界的に景気が低迷し、生産活動が冷え込む可能性がある。そうなれば、収入源である貨物量も減少する。 泰国商船三井の嘉根有幸社長は、「物流業は製造業・小売業の影響を受けやすい部分がある。米国景気の失速と共に夏頃から貨物スペースに空きが生じるようになってはいた。これまでの貨物量の減少は二〇―三〇%位だ。全体的に貨物量が今後増加するとは考えられない」と語る。

 石田社長(泰国日本郵船)も、「タイのメーカーは部品在庫の少ない企業が多い。万一の場合に備えて在庫を増やそうとするため仮儒が発生し、ASEAN諸国間の貨物量は短期的には増加するかもしれない。しかし、長期的には世界的な景気後退の影響で量的にも金額的にも増加する見通しはない」と明言する。

 物流会社が現在輸送している貨物は過去に受注したものであり、テロ事件の貨物量への本当の影響は今後じわじわと出て来る可能性がある。そして、その影響の規模と程度は今後の米国政府と世界景気の動向次第と言える。

 「結局、輸送時間は遅れても貨物を運べなくなったわけではないので、貨物の量に直ちに大きな影響が出るわけではない。影響が出るのは景気が後退して需要と製造が減少した時だ」(近鉄エクスプレスの松山社長)

 これまで貨物量の減少という収入面にスポットを当ててきたが、コスト的にも影響が出始めている。それは、石油価格と貨物保険料の上昇だ。物流各社の利益は収入減とコスト増の板挟みで圧縮されそうだ。

 日立物流タイの大牟田勉社長は、「石油価格の上昇が心配だ。テロ後、原油価格が上昇して来ている。戦争が始まり世界経済停滞と石油価格上昇が同時発生すると、その影響は大きい」と語る。

 「石油価格の上昇にはタイム・ラグがあるため、まだ末端には波及していないが、末端価格が上昇してくると輸送燃料費が上がり貨物運賃も上昇するかもしれない。これは物流会社のコスト増に直結する。コストが上昇したからと言って、コスト増分をすぐ顧客に転嫁できるわけではないので気に懸けている」(ジェットフレッシュ・タイランドの伊達社長)というのが大方の見方のようだ。

 一般的に、貨物には万一の損失に備えて保険が掛けられ、保険料は輸送コストの一部となっている。その貨物保険料も上昇を始めている。

 泰国三菱倉庫の高味常務は「十九日辺りから貨物海上保険の戦争条項が適用されて、スリランカ以西を航行する船に対しては保険料が〇・〇二五%から〇・〇五%へ、二倍に上がっているはずだ」と言う。

 タイの日系国際物流業者は現在のところ、テロ事件後の混乱に冷静に対処している。しかし、今後の米国の動向と世界経済の方向性がまだ不透明なため、先行きに大きな不安を抱えながら様子を見守っているのが現状だ。


○戦争勃発時の対応
高味知彦常務(泰国三菱倉庫)の話
「もし戦争が始まれば、航空機、船ともに定期航路は一部軍需物資輸送用に切り替えられる。船について言えば、米国籍船二隻が軍事用に回されることが既に分かっている。当然、一般貨物の輸送スペースが減るので、他の船会社から船が手当てされることになる。海上貨物運賃も上昇しているはずなので、船会社の採算は合う」。

(宮尾 和宏 記者)  



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