総 合

娯楽店の営業時間

妥協なき取り締まりへ


ブラチャイ内相「観光客を淘汰する時期が来た」

 深夜に営業する娯楽店の閉店時間規制が強化の一途をたどっている。内務省令では午前二時(地域によっては午前〇時)までの営業しか認めていないが、これまで実際に同省令を厳守する店は少なかった。しかし、これが若者への覚醒剤蔓延の元凶にもなっているとみた政府は、署長の更迭、一時営業停止など、これまでになかった厳しい処分で対応。オーナーからは「ワイロが通用しなくなった」と嘆く声も聞かれるようになった。世論では、同政策を歓迎する声が多いが、これにより娯楽店の収益は大幅に悪化、抗議行動も起きている。また、観光への悪影響も危惧されているが、これに対してブラチャイ内相は、「質の低い観光客からの収入に頼ることはない」と明言するなど、「妥協」をいっせいみせない内相に政府内からも戸惑いの声が上がっている。

『風俗店フリー県』構想も

 深夜営業娯楽店の閉店時間であるが、一九八一年に規定された内務省令によれば、パタヤほか一部の指定地域で午前二時まで、その他の地域は午前〇時までとなっている。

 しかし、この規定は実質、「ザル法」に近く、実際にはタイ全国で午前二時までの営業が黙認されていた。さらに、カフェなどは午前六時まで営業するところもあったほか、一般に週末や客の入りのいい日には午前三、四時までの営業はザラであった。

 ところが八月上旬、パッポン地区を視察していたプラチャイ内相が午前二時を過ぎても営業しているバーがあったことに激怒、同地区を監督するバンラック署の署長を更迭したことから、一気に取り締まりが強化されていった。

 このように営業時間規制が厳しくなったのは、チェンライ県で実施された覚醒剤・麻薬規制に対する国家会議で、若者への覚醒剤蔓延が議題として取り上げられたことによる。このため、タクシン首相は、覚醒剤の取り締まり強化を宣言、かねてから若者への覚醒剤販売スポットとなっていたディスコやパブの監視が厳命されることになった。

 この規制は営業時間にとどまらず、年齢制限にも及んだ。規定では、深夜営業娯楽店に二十才未満の青少年は入場できないことになっているが、これまでそのチェックは、強化月間など一時的なもので、通常は無きに等しかった。このため、ディスコの入り口で、「先週、ボトルをオープンしたばかりなのに、それはどうなるんだ」と、従業員にくってかかる未成年者の姿も見受けられるようになった。

 今回の規制であるが、地元紙に掲載されるコメントでは好意的な受け止め方が大半。八月末に実施された世論調査でも七六%が政府方針に賛成しているが、その一方で、娯楽店関係者にとっては、死活問題であることも事実だ。

 観光都市チェンマイでは、二十件以上の店が顧客の大幅減による赤字を理由に閉店準備を進めているという。通常、娯楽店に客が集まるのは午後十時以降、そのため店側は客の来店時間を早めようと、ボトルオープンを無料にするなどの営業努力をしてきたが、それでも警察による取り締まり強化を嫌ってか、「客足はめっきり落ちてしまった」とある娯楽店オーナーは嘆く。また、タイ最大の娯楽都市パタヤでは娯楽店関係者による抗議行動の準備が進んでいるようだ。

 さらに今回の規制では失業の憂き目をみる従業員も少なくないとみられ、タイ政府が失業者対策を急務としていることを考えると、「矛盾」した政策といえなくもない。

 これらの「犠牲」を強いての覚醒剤対策であるが、その効果を疑問視する意見もある。現に、一部の若者の間では覚醒剤取引場所をアパートやコンドミニアムへ移すなど、〃娯楽店離れ〃も進行しているようだ。

 しかしブラチャイ内相は、タクシン首相の支持をバックに、「法律は守るためにある」と、妥協する姿勢をまったくみせていない。

 それどころか、『風俗施設フリー県』構想も浮上している程だ。これは、タイ国イスラム教徒評議会がブラチャイ内相に、スコータイ、ピチット、アントン、ナコンナヨック県での風俗営業を禁止すべきだ、との提案したことによる。さらに、同評議会はヤラ県やナラティワート県などの南部国境県でも風俗店の営業を認めないよう要望した。

 マレーシアとの国境地帯は、マレーシア人やシンガポール人を顧客とした風俗店が多いことで知られており、週末ともなると多数の観光客でにぎわう。このため、仮に同提案が受け入れられた場合、同地域の経済にとって痛手となることは避けられそうにない。しかし、ブラチャイ内相は、公聴会を開くなど、前向きに検討することを約束している。

 タイ政府は、観光収入に大きな期待をかけているが、タイへの観光客誘致に風俗関連店が少なからず貢献していることは否定できない。あるゴーゴーバーのホステスは、「私たちがいるから観光客が来るのよ」と豪語する。しかし、ブラチャイ外相は、「観光客を淘汰する時がきた。麻薬や風俗目的の観光客はいらない」と明言するなど、徹底取り締まりの姿勢を崩していない。

 このなか、唯一の〃妥協策〃といえるのが、『ゾーニング構想』だ。これは、一定地域に限って営業時間の規制を緩和、午前四時までの営業を認めるというもの。ランパン県など八県をモデル県として、現在、具体的な場所選定に入っており、今月十日までに各県知事は草案を内務省に提出することになっている。またバンコクを始めとする、その他の県では二十日が締め切りとなっている。多くの観光客が訪れるバンコクでは、現時点で六ケ所が候補に挙がってがいるが、ブラチャイ内相は「三ケ所が妥当」と難色を示しており、最終的にはパッポン、ラチャダピセーク、ロイヤル・シティー・アベニュー(RCA)に落ちつくことになりそうだ。

 しかし、指定地域外の娯楽店関係者は「閉店時間が午前二時と午後四時ではとても太刀打ちできない」と不満を露にするほか、「選ばれるのはバックに有力者がいる地域」などの批判もあり、今後、新たな問題を生むことにもなりそうだ。

(倉林義仁記者)



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