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民営化に暗雲

終わらない社内騒動--- TGタイ国際航空


 『TG』の呼称で旅行者から親しまれているタイ国際航空は、タイの顔と言ってもよい存在の航空会社だ。その良質なサービスとイメージは日本人観光客からも好感と安心感を持って受け入れられている。

 そのタイ国際航空に深刻なお家騒動が持ち上がっている。タイ国際航空の経営を監督するプラチャ副運輸通信相に対する経営者側及び労働組合の反発と、賃金引き上げ論争に端を発した労働組合長、副組合長とパイロット間の確執だ。これまでは文字通り「お家」騒動であり、政府の指導を得ながらも社内問題として対処して来た。しかし、八月二十五日、パイロットによる乗務拒否でシンガポール行きTG便の出航が四時間遅延、その後も九月二日に爆弾予告騒ぎでローマ便の出航が四時間遅れるなど、ついに運行スケジュールに支障が出るに至った。タクシン首相が自ら亀裂の修復に乗り出しているが、冷静な話し合いで収拾がつかない感情問題に発展している部分があり、早期の解決は難しそうだ。

 タイ政府は政府系企業の民営化による国内株式市場の活性化と海外からの投資の増加を目指している。タイ国際航空もその対象の一つだ。ただ、一般の政府系企業の例にもれず組織体制と経営効率には改善の余地があり、これまでプラチャ副運輸通信相が民営化に向けた社内体制の整備を積極的に推進して来ていた。ところが現在、そのプラチャ副運輸通信相本人がお家騒動の要因の一つになってしまっている。これには大きく分けて、「経営者委員会からのビシット社長はずし」「経営者小委員会の形成」「新社長選出問題」の3つある。

 プラチャ副運輸通信相がタイ国際航空の職員から敬遠されているのは、そのともすれば強引とも見られるやり方に原因がある。民間企業方式の新しい経営スタイルを導入したいプラチャ副運輸通信相は、同社の経営者委員会からあからさまにビシット社長をはずし、自分の意中の人物を入れようとした。これが労働組合側の強い反発を招き、デモ行為にまで発展。最終的にプラチャ副運輸通信相は組合側の要求を受け入れ、タクシン首相の取り成しもあって事は一旦落ち着いたように見えた。

 ところが、改革を推し進めようとするプラチャ副運輸通信相は、今度は「経営者小委員会」と呼ばれる特別委員会を別に形成。自分との関係が強いスントーン氏を委員長に、経営者委員会を迂回して社内案件を処理しようとした。困ったビシット社長はチャイ・アナン経営者委員会委員長の助けを求め、プラチャ副運輸通信相とチャイ・アナン経営者委員会委員長の対立の構図ができあがった。

 更に、ここにタイ国際航空の新社長選出問題が絡んでくる。チャイ・アナン委員長はタイ国際航空株の上場準備と新社長選出のためソムキット財務相の意を受けて就任した人物である。経営者小委員会の一件もあり、個人的に関係の深いプラチャック商業担当副社長を後任社長に推すプラチャ副運輸通信相とここでも立場が対立している。これまでにプラチャック副社長を含め十二名の新社長候補者が検討されたが、いずれも不適格とされ人選は振り出しに戻っている。

 最近ある新聞社が、プラチャ副運輸通信相がチャンネル3の社長時代に、娘の海外渡航チケットをプラチャック副社長から半額で譲り受けたと報道。この報道は社内外に波紋を呼び、プラチャック副社長を後任社長にしようというプラチャ副運輸通信相の思惑の障害となると同時に、タイ国際航空のイメージを著しく低下させる結果となった。タイ国際航空側の度重なる抵抗にプラチャ副運輸通信相は、「経営陣が私に協力してくれない。社内の情報が私にまで伝わって来ない」と不満をもらす。

 一方、労働組合とパイロット間の確執はパイロット側の賃金引き上げ要求に端を発する。八年間賃金の引き上げを凍結されて来たパイロット協会が今年五月、労働組合に賃金の引き上げを打診したところ、ジャエムスリ労働組合委員長が「今の会社の財政状態でパイロット賃金の引き上げは不適当。他の乗組員に対しても不公平。パイロットは先ず自分自身の(仕事の)効率性を見直す必要がある」と回答。『効率性の見直し』と言う言葉を自分達への侮辱と受け取ったパイロット三百名は、ジャエムスリ委員長とピチット副委員長が乗務する便への搭乗を拒否。これにより八月二十五日のシンガポール行きTG四〇一便の出航が四時間遅延し、関係のない乗客が多大な迷惑を被った。この時は経営者委員会がパイロット側、労働組合側それぞれの代表と話し合いを持ち、二度と同じ事態が発生しないよう申し合わせた。タクシン首相も、個人の利益より企業の利益を考えるよう諌め、国のイメージを高める努力をするよう両者を説得した。これで事態は一旦収拾したかのように見えたが、実は事はこれで収まったわけではなかった。

 九月二日深夜発のローマ行きTG九四二便が爆弾騒ぎでまた出航が遅れたのだ。爆弾処理班の調査を完了し同機が出航したのは三日の午前四時。再び何も知らない乗客が被害を被ることとなった。この爆弾騒ぎはチェックイン・カウンターに残されていた小さなメモが見つかったことで始まった。メモには「バンコク―ローマ便に爆弾が仕掛けられている」と書かれており、同じメモがタイ国際航空の乗組員センターでも発見されたと言う。このため、四百三名の乗客がバンコク国際空港で四時間の足止めをされた。

 乗組員センターに入れるのはタイ国際航空のパイロットと同社幹部だけであり、外部の者が進入できる確率は低い。このため、過去の一連の騒動に不満を抱く内部関係者の手によるものではないかという見方も出ている。

 また、事件当時、別の場所にいたプラチャ副運輸通信相にはこの騒動の渦中に誰も連絡をして来る者がなく、全く蚊帳の外に置かれていた。プラチャ副運輸通信相はこの爆弾騒動の第一報をメディアのレポーターから聞いたと言って憤慨している。

 タクシン首相はタイ国際航空に対し一ヶ月間でこの内紛を解決するよう要請しており、期限以内に解決できない場合は首相自身が問題解決に乗り出すことになりそうだ。

 記者は九月二日に所要でシンガポール行きTG四一一便に搭乗したが、乗組員の対応とサービスはいつもと変わらず好感の持てるもので、同機の顧客サービスに当たっていた日本人スチュワーデス訓練生が一生懸命乗客のサービスに努めていたことが印象に残っている。経営の表舞台に立たなくても自分の職務を全うすることで会社のイメージ向上に十分貢献している。彼らのためにも一日も早く、この問題が沈静化することを願いたい。



[BANGKOK SHUHO]