タイ---
内憂外患のエビ養殖
環境問題と国際競争激化
九月三日と四日の二日間、バンコクのカセタート大学で、東南アジア漁業開発センター主催による「環境にやさしいエビ養殖会議」が開かれ、ASEAN加盟各国政府の技官を中心にして、主に養殖技術やマングローブ林とエビ養殖の共存について討議された。タイのエビは輸出金額ベースでみると、工業品を含めた輸出品目の八位(九九年)に入り、食品部門では「肉類」の次に多い。そこで二週にわたり日本との関わりの深いタイのエビ養殖の実態を報告する。今回は特にマーケット面とその問題点を整理したい。
タイは九四年のピーク時には養殖エビ全体の三割を日本に輸出していた。しかし日系某商社の食品担当者は「現在ではインド、インドネシアで養殖された安価なブラックタイガーが、中国の加工品会社を経由して日本に大量に輸出されている」と言う。
そんな中、タイ政府は最近、外貨収入の増大のため、内陸部におけるエビ養殖規制の緩和を検討している。ただし、内陸部でのエビ養殖には、塩水によって米作農家の土地が汚染されるという問題がある。エビ養殖には廃水処理工場を建設し、養殖池も一部ではコンクリートで固めるなどをすると良いとする見方もあるが、コスト高は避けられない。このためエビ養殖業者の中には、不要になった塩水を農業用水路に捨てるケースもあるため米作農家から反対の声があがっている。また養殖池建設にともない生態系にとって重要なマングローブ林の破壊も深刻な問題となっている。
タイ農民銀行リサーチセンターによると、これらの問題のためもあって、今年のエビ生産量は二〇万トン〜二十四万トンで、昨年よりも減少すると予測している。
タイのエビ養殖産業の課題は数多くあるが、エビの大部分が輸出されるため国内問題だけではとどまらない。その一つに南米エクアドル産のエビの台頭があげられる。エクアドル産の白エビは小型で、タイの小型のブラックタイガーと類似しており、激しい国際競争を繰り広げている。エクアドル産の白エビは米国市場で品質の良さを買われて人気が高い。また味、色ともに好まれているという。輸出量にしても昨年末から再び米国への輸出が増えている。タイのエビは価格面でインド、インドネシアに敗北した経験がありエビ輸出業者協会では危機感をつのらせている。そこで協会関係者はエビ生産者に対し、競争力を高めるため付加価値の高い大型のエビの生産を呼びかけている。
日本への輸出は当初、冷凍エビから始まったが今では付加価値の高い天ぷらや、カット加工された加工品が中心であり、これらは九四年から見ると年々増加傾向にある。またタイにある日系大手スーパーは商社を通さずに、加工品を日本にダイレクトに輸出し、販売するようになっている。タイのエビ養殖事業は、マーケットの大きい米国と利益率の高い日本に依存しているのだ。
タイがエビ輸出競争に負けないためには、今後も付加価値の高い加工エビを生産するか、エビ養殖の技術を上げ生産の効率化を図らなければならない。そのためにはエビの病気を防がなければいけないが、この技術には例えば「バイオフィルター」(これについては次回、東南アジア漁業開発センター養殖部局 次長 伊藤進 氏にインタビューします)と呼ばれる一平方あたりのエビの数をエビの病気を増やさずに倍増させるような、効率化が必要となってくるのであろう。また現状の小型養殖エビとは違って、病気の発生率の高い長期間飼育する大型エビの養殖技術も今後、必要となってくるのかもしれない。
もちろんタイのエビ養殖におけるライバル国は南米エクアドルであることに変わりはないが、タイには、インド、インドネシア、中国など他にもエビ養殖で競合する相手がいる。タイの水産業にとって、エビ輸出における米国、日本への依存というリスクの回避するため、市場の多様化も進めていかなければならない。そこで現在五パーセント程度の輸出でしかないヨーロッパに向けて、エビ輸出業者は一層の輸出拡大を目指している。また、ヨーロッパに限らず、エビ需要のあるオーストラリア、シンガポール、中国、韓国などの市場も模索中である。タイのエビに関する問題点は国内的視点からだけではなく国際的視点からも見る必要があるのだ。
(笹野 大輔)
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