経 済

通貨危機から4年

タイ経済低迷の原因を探る(4)


輸出収益が国内に還流せず景気低迷
内需拡大は対外債務返済後

国内還流していない輸出収益

 米国・欧州経済の減速、日本経済の長期低迷でタイの経済成長の原動力といえる輸出が伸び悩んでいる。このため政府は、その補完として内需拡大に躍起になっている。だが、内需で輸出伸び悩みを補おうというのはタイにとっては現実離れしている。

 内需を個人消費、企業投資、政府投資に分けた場合、個人消費と企業投資の自立的回復は当分の間、見込めないからだ。結果的に政府投資ばかりに頼ることになり、公的債務は今年度末でGDP比五七・二%に達する見通しだ。途上国では一般に公的債務がGDP比六〇%を超えると財政破綻のリスクが高まる。タイの財政赤字にはすでに赤信号が点っているといえる。

 ではなぜ、個人消費と企業投資の回復が見込めないのか。本来であれば九七年七月以降、バーツ相場が急落し、バーツ建て輸出額が大きく伸びたので、経済は活性化しなければならない。にもかかわらず経済が低迷したままなのは、バブル期にタイの企業が巨額の投資をする際、対外借入に依存してきたからだ。この四年間は輸出収益が借金の返済にあてられ、国内に還流していないのである。

 民間のデットサービスレシオ(輸出額に対する対外債務返済額)を見ると、九六年まで一〇%以下だったが、これが九七年一三%、九八年一八%、九九年一五%と急上昇し、今年第1四半期でも一三%と高い水準を維持している。

財政投入で補うのは極めて困難

 対外債務を抱えていた企業はバーツ下落によって、バーツ建ての負債が二倍近くに膨張し、事業計画が大幅に狂ってしまった。業績が比較的好調な企業でも借金の返済に追われている。中には借金返済ができなくなってしまったところも少なくない。国際金融市場におけるタイの信用は今や最低レベルなので、企業は新たな借入れができない。何らかの形で増資できなかった企業は、債務不履行か外国への一方的な借金返済に追われている。日本企業のように本国からの増資で債務を一応返済したところは、配当という形での本国送金が求められており、やはり輸出収益がタイ国内に残らない。

 既存企業が借金返済で苦しんでいても、これまでのタイ経済のように外国投資の流入によってどんどん新規事業が開始されれば債務返済による資金の国外流出を相殺できたかもしれないが、そうはならなかった。その結果、九六年まで年間二千五百億バーツ―五千億バーツの黒字だった民間資本移動は、九七年から一転して三千億―六千億バーツの赤字となった。

 タイ政府は民間経済の自立的な回復による内需拡大が思うように進んでいないことから、財政投入で内需を拡大しようとしている。政府による直接的な公共投資だけではなく、全国約八万件の市村に百万バーツの予算を付ける「村起こし基金」も実行段階にある。だが、政府予算は二〇〇三年度で一兆二百三十億バーツ。内二千億バーツは赤字となるが、それでも九七年度の九千二百五十億バーツに比べて総額で一千億バーツしか増えていない。とても民間資本移動の赤字を埋め合わせるには及ばず、効果が限定的であることがわかる。かといって赤信号の点っている財政をこれ以上悪化させる訳にもいかない。

 タイ経済の内需拡大は、企業の対外債務返済が一段落して新規投資、雇用拡大、労賃の引き上げが行われなければ望めない。ただし、通貨危機から四年が経ち、悲観ばかりではない。民間対外債務は今年第1四半期末で四百三十九億米ドル。これは年間百億ドル前後のペースで減っており、これから二、三年後には債務返済を完了、あるいは大幅に減らす企業が増えてくるだろう。そうなればタイ企業の経営体質は改善され、外国からの投資を促進することもできるようになる。今後、国際経済のある程度の減速、中国経済の影響力拡大がありそうだが、しばらくの我慢と言える。     

(水谷 昇 記者)



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