英国裁判所
金融界の元寵児に無罪判決
政府・中銀の監督の甘さを指摘
七月二十七日、英国上位裁判所(日本の高裁に相当)はタイ政府・中銀から不正融資疑惑で起訴されていた在英タイ人実業家ピン・チャカパーク氏を無罪とし、タイ政府による同氏の本国送還要請を却下した。この判決はタイ政府・中銀による破綻金融機関経営者の責任追究の取り組みに影を落としそうだ。
ピン氏は八〇年代後半から始まったタイ経済バブル期に金融業界で頭角を現し、証券会社・不動産会社の買収を繰り返して自分の経営するファイナンス・ワンをタイ最大の金融会社に育て上げた。同社の資産は八六年から九六年までに、二十五億バーツから千三百八十七億バーツにまで膨れ上がった。九四年には地場のアジア銀行、九五年にはタイ・ダヌ銀行の買収を試みた。いずれも銀行側経営者ファミリーの反対で実現はしなかったが、ピン氏はタイ金融界の寵児として、その名を轟かせた。
ところが、九六年後半からタイ経済のバブルが崩壊を始め、ファイナンス・ワンの経営は一転して悪化。九六年初に一六〇バーツ前後を付けていた同社の株価は、九七年初には四五バーツまで下落した。
このため同社と資産規模が近いタイ・ダヌ銀行による救済合併の話も出たが、このころからピン氏を含む経営陣による自社株インサイダー取引疑惑、経営者親族が経営する企業への不正融資疑惑が浮上して合併話は破談。九七年後半、政府による金融会社大量閉鎖の対象となった。
その後、タイ中央銀行が破綻金融機関の経営陣を不正融資や横領などの罪で起訴し始めたためピン氏は国外へ逃亡。九九年十二月にタイ政府の要請で英国政府によって身柄を拘束されたが、二百万ポンド(約三億三千万円)の保証金を積んで英国内保釈状態にあった。
タイ政府はピン氏がファイナンス・ワンから同氏あるいは親族が経営する関連会社に総額二十一億バーツに上る不正融資をしたとして四十五件の罪状で下位裁判所(日本の地裁に相当)に起訴。今年三月には同裁判所が三十八件の罪状については証拠不十分としながらも、総額五億四千五百万バーツに上る七件の罪状については有罪として本国送還を認める判決を下した。しかし今回、上位裁判所は同上七件の罪状についても拠不十分としてピン氏を無罪とし、タイ政府の本国送還要請を却下した。
上位裁判所の判決に影響を与えたのは、当時のタイ中央銀行の金融機関監督能力だ。ファイナンス・ワンから関連会社への融資は、同社の帳簿、第三者の会計監査、中央銀行に正確に記録されており、中央銀行が了承していたことが明らかになている。このため上位裁判所では、当時の融資は不正に行われたものではなく、あくまで通常の事業活動の一環として行われたもので、それが焦げ付いたのはバブル期の見通しの甘さのため、と判断している。正規のプロセスを経ての経済行為の失敗であり、ピン氏は犯罪を犯したわけではないということだ。
最高裁判所への上告は上位裁判所の判決が出てから十五日以内に行わなければならず、タイ政府は現在、どうするか検討中だ。ピン氏がこのまま無罪ということになると、その他の破綻金融機関の経営陣に対するタイ国内外での裁判にも影響を与えることになる。
タイの金融機関の破綻は、タイ政府・中銀、金融関係者、および借り手企業・事業家の経済見通しの甘さが原因であり、金融機関経営陣だけをスケープゴートにはできないということだ。
(水谷 昇 記者)
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