バンコクに「こころのでんわ」開設
精神的ケア必要な在外邦人
自殺者・精神障害者が急増---
日本人女性が3年かけて準備
日本では九九年以来、自殺者が交通事故死の三倍に当たる三万人を越え、昨年も三万三千人に上った。在タイ日本大使館によれば、タイで自殺した邦人は昨年が六人、今年もすでに三人に上っているという。この中には日本から自殺目的で訪れた旅行者だけでなく、生活や仕事の問題を抱えていた在留邦人も含まれる。今年四月バンコクでは、精神的危機に陥った邦人の電話相談を受ける「こころのでんわ」が開設された。在外邦人を対象とした電話相談は現在、多くの国々に設けられているが、「東京いのちの電話」の協賛で設立された在外団体は、イギリスのロンドンに次いでこれが二番目。バンコク「こころのでんわ」の創設者であるチャイヤディロ(旧姓・坂本)和子代表に話を聞いてみた。(小林ゆかり記者)
在タイ二十五年のチャイヤディロ和子さんは、日本の大学の通信教育でカウンセリングを履修し、「いのちの電話」について詳しく知るようになったという。そして九八年、経済不況下のタイで日本人ビジネスマンが自殺したと聞き、「バンコクにもぜひ電話相談を設立したい」と思い立った。まず、日本の「いのちの電話」センターに手紙を送ったところ、これが「東京いのちの電話」事務局長(当時)斎藤友紀雄氏の手に渡り、同団体の協賛が得られることとなった。
その後二年間、和子さんはバンコクと東京を何度も往復しながら、「いのちの電話」相談員の養成研修で学び、電話相談設立に必要な知識や技術を修得。昨年九月、斎藤氏を招いて開催した「バンコク電話相談設立基金・講演会&チャリティコンサート」で設立の意志を表明し、本格的な準備に取り掛かった。
日本で多くの人に名前が知られている「いのちの電話」は、「特定のモラルや信条の宣教ではなく、自殺をはじめとする精神的危機にある人達の隣人になりたいという願いから生まれた運動」で、今日、世界四十カ国に数百カ所の「いのちの電話センター」が設立されている。
日本では一九七一年に「いのちの電話」が発足、七三年には「東京いのちの電話」が厚生省から社会福祉法人としての認可を受けた。さらに七七年、各地のセンターと共に「日本いのちの電話連盟」が結成され、現在、日本国内の加盟センターは五十カ所にまで広がっている。
「日本いのちの電話連盟」への加入は、ボランティア相談員の養成研修や、財政的な支援の確保、活動実績などが条件となっているため、発足から三年は必要とされる。バンコクに開設された「こころのでんわ」も、将来的には同連盟への加入を目指すという。
和子さんが昨年九月、バンコクで電話相談員を募集したところ、十人のボランティアが集まった。また趣旨に賛同した工業団地を所有するタイ人が、無料で事務所を提供してくれる幸運にも恵まれた。そして昨年十月からは、日本から専門の講師をバンコクに招いて、日本の「いのちの電話」と同じように、半年間に渡る相談員の養成研修が行われた。
開設から四カ月近く経過した現在、バンコク「こころのでんわ」への相談件数はまだ非常に少ない。しかし和子さんは、「異文化の中で暮らす日本人は不安が多いはず。とにかく今は待つ」と話す。さらに「母国語で相談できる窓口は絶対必要とされている」と、確信に満ちた答えが返ってきた。
相談が少ない理由として、バンコクの狭い日本人社会における匿名性への懸念や、内容がよく理解されていないことなどが考えられる。これについて和子さんは、「ボランティアとはいえ、相談員は適性検査や研修で選抜された人物であり、秘密厳守も当然の義務。不安を解消する第一歩として、まずは電話を掛けてほしい」と語っている。
今年六月には千葉県の幕張メッセで、第二十二回いのちの電話相談員全国研修会、及び第十回アジア太平洋地域電話カウンセリング国際会議が開催され、タイの代表として和子さんも参加した。「日本や海外の多くの人々と交流し、有意義な話を聞くことができた」という和子さんは、「こころのでんわ」の普及と発展にさらなる情熱をそそいでいる。
在タイ日本大使館によれば、タイで自殺した邦人は九八年の八人を最多に、年間六、七人に上るという。また精神障害者の保護件数が九九年から急増し、年間二十件を越えるようになった。ただし、これは旅行者が薬物中毒となったケースが大半を占めている。
「こころのでんわ」は毎週日曜と月曜の午前十時〜午後四時
電話 0―2716―5592
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