経 済

迷走するバンコク大量交通サービス網

収益確保の見通し立たず


共通課題は利用客の大幅増

BTS 純損失八十億バーツ
見込み違いの乗客数
債務リストラ要請へ

 スカイトレイン(BTS)の経営が依然として低迷している。運賃収入と乗客数は徐々に増加しているものの、全体的に計画を大幅に下回っているためだ。BTSを運営するバンコク大量交通システム社(BTSC)が株主向けに発行している「二〇〇〇―二〇〇一年年次報告」によれば、BTSCの二〇〇〇年四月―二〇〇一年三月の総収入は約十五億バーツ。一方、支出は九十五億バーツで約八十億バーツの純損失を計上した。総収入の中では運賃収入が十四億バーツで全体の九〇%以上を占めている。BTSの駅構内には商業用に複数の貸し店舗スペースが用意されているが、駅によっては空き店舗のまま長期間放置されている店舗も見受けられ、店舗賃貸収入とBTS路線内の広告用貸しスペース収入は合わせて二千三百四十万バーツに止まっている。文字通り運賃頼みの経営だ。支出の中で大きな割合を占めるのは金利支払い三十三億バーツと為替差損三十九億バーツ。この二項目だけで支出総額の約七七%を占める。直接営業に関わるメンテナンス費と運転費は約十億三千万バーツ。人件費と電力費が合わせて約三億バーツなので日々のオペレーション・コストは年間約十四億バーツになりほぼ運賃収入に一致する。

 当初、BTSCは一日当たりの乗客数を四十万人と予測していた。これはオペレーション・コストと金利支払いをカバーするのに最低限必要な数字だ。しかし実際の乗客数は十三万―二十万人、一日当たりの運賃収入は三百五十―四百五十万バーツの間で推移した。無料シャトルバス・サービスの開始や回数券の発行等、多様なサービスの提供を開始したことで乗客数・運賃収入は増加を続けているものの、それでも先に示した通り日々のオペレーション・コストに充当する収入しか得られていない。チケット種別の購入割合は定期券利用者が全体の五十%を割り、まだまだ通勤・通学等の定期利用客が少ないことが分かる。

 BTSCの二〇〇一年三月末日現在の負債総額は四百二十億バーツだが、うち八四%の三百五十三億バーツが借入れによる長期負債だ。元々の契約では二〇〇二年から元本返済を開始し、二〇〇八年までに完済することになっている。返済期日が迫る中、返済能力のないBTSCにとって債務リストラ(=返済条件の変更)が必須の情勢になっている。BTSCは、結束して交渉してくる債権者グループに対抗して、最大株主であるタナヨン・グループ主導のコンソーシアムを結成した。両サイドの話し合いは今後数ヶ月かけて行われ、今年中に結論が出る。BTSC側は、「貸し手の支援を得るためにすべての努力をするつもりだ」と話している。現時点では債権者グループから債務リストラの承認を受けることが最優先課題であり、その結論が出るまでは他の事業計画をストップせざるを得ない。

 しかし、このように非常に厳しい情勢にあるにもかかわらず、BTSCは路線延長のために必要な資金を新たに調達しようとしている。昨年二月、タイの議会がオンヌット駅―サムロン、チョンノンシ駅―サトゥプラディット、サパーン・タクシン駅―サトーンのタクシン・ジャンクションの三つの区間の路線延長を承認したからだ。少なくとも総額三百億バーツの費用がかかる事業だ。この計画の所有者であるバンコク都庁(BMA)は今年三月、かつてBTS開発に関わった業者および入札した業者、合わせて十一グループの建設業者に路線延長事業への参加を呼びかけたが、どの業者も事業の実現性に疑問を抱き関心を示さなかった。BTSCは、路線延長計画の進行についても債務リストラの結果を待って新しいローンを受けないことには行動に移れないとしている。ただ、路線延長にかかる三百億バーツの費用については、路線延長用に事前に購入しておいた未使用設備があるため、実質的な負担は六十億バーツになるようだ。債務リストラを受け入れてもらえなかった場合には路線延長事業資金を支援してくれる新しいパートナーを探すことになる。BTS関係者にとってはまだまだ苦しい経営が続きそうだ。

地下鉄---投入建設資金 千億バーツ
政府支援頼みの見切り発車
来年十二月  一部路線の営業開始へ

 来年十二月にタイで地下鉄の一部路線の開通が予定されている。果たして計画通りに利用客数を伸ばすことができるか注目される。現実問題として、一足早く開通したスカイトレイン(BTS)の経営が順調に進んでおらず、同様の結果になるのではないかと危惧されているのが実情だ。地下鉄の建設費は総額千八十億バーツ。政府と民間の出資割合は八対二で政府が建設費、民間が車両購入費を負担することになっている。BTS建設時の二倍の資金を投入するビッグ・プロジェクトだ。

 路線は全長八十一キロメートル。「ブルー・ライン」「ブルー・ライン北延長線」「ブルー・ライン南延長線」「オレンジ・ライン」の四つの路線で構成される。  中枢を成す「ブルー・ライン」は一九九七年から建設がスタートし現在も建設中だ。これはファランポーン駅とチャトチャック市場のあるバンスーを南北に結ぶ約二十キロメートルの路線で、この路線が来年十二月に一部開通することになっている。ブルー・ライン全路線のサービス開始は二年後の二〇〇三年六月の予定だ。「ブルー・ライン北延長線」と「ブルー・ライン南延長線」は「ブルー・ライン」の両端から更に南北に延長した路線で、前者はバン・スーから北のプラナンクラオまで、後者はファランポーン駅から南のバンケーまでを計画している。四つ目の「オレンジ・ライン」はタイ人の住居が多いバンガピとラーチャブラナを結ぶ路線だ。「ブルー・ライン」とBTSは三つの駅で接続することになる。モーチット駅、アソーク駅、サラデーン駅の三つだ。地下鉄が完成すればバンコク都内の移動負担がかなり軽減されることは間違いないだろう。

 地下鉄の建設はバンコク都民の交通の利便性に大きなメリットをもたらすものの、タイの大量高速交通局(MRTA)は、営業を開始しても地下鉄収入だけでは借入金を返済できないと考えている。ちなみに、タイの二大大量交通システム、(地上)鉄道と公共バスサービスは現在、政府の助成金なしには運営できない状態にある。サービスを開始して十八ヶ月が経過したBTSにしても乗客数が見込みを大幅に下回り各方面に金融支援を求めている状態だ。それ故、MRTAは地下鉄についても政府の金融支援が不可欠だと考えているのだ。幸い、地下鉄はバンコク大量交通システム社(BTSC)が単体経営するBTSとは異なりタイ政府とバンコク大量交通社(BMCL)が共同経営することになっている。

 政府に支援を求めることを示唆しつつ、MRTAはBTSの例を反面教師に収入増に向けてのプランを練っている。そのひとつが駅に隣接したバス停の設置だ。利用客の徒歩での移動をできるだけ少なくして利便性を高める狙いだ。また、タイもカード社会になりつつあり、持ち歩くカードの種類が増えているため、地下鉄、BTS、バス、三種類の交通媒体を一枚のカードで利用できる互換乗車カードの導入も検討しているという。

 十年後、二十年後の国際社会におけるタイの位置付けを考えて、今から大量高速交通網の整備に取り組むのは大切なことだ。しかしその一方で、短・中期的に見たタイの社会的ニーズと大量高速交通サービス提供のマッチングを考えてみると、ミスマッチのイメージは逃れない。長期と短期のミスマッチがBTSの経営に凝縮されていると感じる。

 地下鉄にしてもBTSにしても、定期利用者(通勤・通学者)が支払う定期運賃は一ヵ月に千バーツはかかる。バンコクに居住する一般家庭の給与水準を考えれば、独身はまだしも複数の家族を抱えていればこの交通費負担は大きい。実際、BTSで通える地域に居住しながら片道三・五バーツを支払ってバス通勤するタイ人は多い。しかし、もし運賃をもっと下げればサービスそのものが立ち行かなくなるのは明白だろう。仮に持ちこたえたとしても、再び顧客一人当たり料金収入の減少を乗客数でカバーするイタチごっごになる恐れがある。

 となれば、ターゲットは自家用車で通勤するマイカー族ということになる。彼らが公共の移動手段を日常的に使うようになればバンコク名物の交通渋滞の緩和も期待できる。問題は、車通勤に(渋滞はあっても)快適さとステイタスを感じている富裕層に大量交通機関のニーズが大きくないことだ。富裕層を顧客として取り込むには、公共交通機関が車の魅力を凌駕するようなアピール・ポイントを持たなければならない。輸送という本来の目的以外の付加価値を持つことが重要になってくる。交通機関運営母体の経営努力だけでそれを達成できるだろうか。輸送サービス業の守備範囲に収まる問題ではないと考える。各業界の専門家が集まって一緒に対策を考えるべきテーマだろう。

 タイは日本のような総中流社会ではない。その中で一定以上の運賃を維持しながら大量高速交通サービスを根付かせるのは容易なことではないだろう。



[BANGKOK SHUHO]