通貨危機から4年
タイ経済停滞の原因を探る(3)
不良債権処理の課題は破産法適用
袋小路の債務者
タイ経済成長の足枷として不良債権問題が挙げられる。タイ中央銀行の統計によれば、地場商業銀行の不良債権は今年五月末で約八千億バーツで、総貸出残高の一九・七%。これは二年前の二兆四千億バーツ、四九%に比べれば随分と改善しているように見える。
だが、この数字にはクルンタイ銀行などが民間資産管理会社に移転した四千四百億バーツの不良債権が含まれていない。これを含めると不良債権比率は総貸出残高の三〇・六%となる。この他にも、これまで債務リストラされたものの中で、債務者の経営実態は改善されておらず、なんとか金利支払いだけが続いているという潜在的な不良債権も少なくないだろう。実質的な不良債権処理が進んでいるとは言い難いのである。
一般的に不良債権問題というと、債権者である銀行の経営内容の悪さと結び付けられる。不良債権は銀行の楽観的な見通しとズサンな審査の結果にもたらされたもので、それによって銀行が倒産したとしても、それは市場経済社会では仕方が無い。しかし、それがタイのほとんどの銀行に共通しているとなると、話が違ってくる。この場合の不良債権問題は銀行側ではなく、債務者側に視点を移さなければならない。金額ベースで見て、債務者の三分の一が金利さえ返済出来ずにいるということが問題になる。
不良債権を発生させた債務者は経済バブル期に銀行から借入れて事業拡大したビジネスに積極的な企業・経営者と言える。そういった勢いを持っていた企業・経営者の三分の一が債務返済できないほど悪化した経営状況にある。事業が計画通りにならず、見通しの立たない事業に縛り付けられているのだ。収益を上げる見込みのない事業を諦めて、将来的に可能性のある新規事業を行ないたくても、不良債権を抱えている企業・経営者に貸し出す銀行など無い。このミクロ経済における袋小路がタイ経済の抱える問題なのである。
タクシン政権は、銀行が抱える負担を取り除くため、国営の「タイ資産管理会社(TAMC)」を新設した。TAMCへの不良債権移転額は最終的に一兆三千億バーツに及びそうだ。銀行は一定の損切りを求められるが、これによって不良債権負担は軽減されるだろう。だが、不良債権を別枠にしたからといって、それまでうまく動いていなかった事業の回転率が高まる訳では無い。また、銀行の貸し渋りが緩和することは期待できるが、債務返済しなかった企業・経営者の信用が回復することはなく、新規事業分野での投資増加も限定的だ。
第三者の資金と信用力
では、不良債権問題を解決するにあたって最重要なことは何か。それは新たに債権者となるTAMCが破産法に従った会社更生あるいは資産処分を適格・迅速に行なうことだろう。
不良債権が大量に発生した背景には需要の見誤りによる供給過剰がある。これが不動産からサービス、製造業まで全ての産業にわたっている。企業は当初の計画通りの収益を上げることができず、借金を返済することができなくなったのだ。この問題を解決するには、需要の喚起が必要となる。その最も有効な手段が価格引き下げだ。もともと企業の投資計画はバブル期の熱狂の中で策定されたもので、価格構成はタイの物価に比べてが異常に高い。タイでは不動産にしても、製造品にしても、日本と異なって市場は飽和しておらず、価格さえ引き下げれば需要は高まってくるだろう。これを実現するには、不良債権を抱える企業・事業の債務をリストラあるいは帳消しにしてから第三者に販売する必要がある。これで銀行は相当の資金を回収できるし、資産を買った第三者にとっても投資額を低く抑えて新規事業に参入でき、価格構成を低めに再編できるようになる。
債務返済が出来なくなった企業・経営者には、企業を再建する自己資金もなければ、追加資金を調達する信用もない。それを供給できるのは、自己資金・信用を持ち合わせた優良企業あるいは投資家といった第三者である。債務リストラや帳消しによって債務負担が軽減された企業・事業を体力のある第三者に委ねることで、第三者の持つ資金・信用を得ることが出来る。タイでこのようなリストラが最も進んだ業界は小売業界だ。ロータス、トップス、ビッグCなど地場企業は欧州企業に買収され、マクロ、カルフールといった地場企業がライセンスを得て事業展開していたところも欧州本社が資本取得で実権を握った。そして、これらの企業は最新のノウハウと巨額の資本を得て息を吹き返した。
タイの不良債権問題を根本的に解決するには、TAMCが債務者に対して厳しく法的措置を講じなければならない。また、破産裁判所には破綻企業を更生あるいは資産売却しやすいよう債権者側に有利な判決を出すことが期待される。
TAMCへの不良債権移転で、タイ経済は数字的には見栄えがよくなるが、実態面での回復を促すには、その後の資産処理が重要になる。タイ経済回復の速度を見極めるとき、この点に関して政府がどのように取り組んでいるかに注目したい。
(水谷 昇 記者)
|