総 合

タイの温泉

松下 正弘 (東京交通短期大学客員教授タイ文化研究家)


タイの温泉事情研究事始め

 タイに温泉があると知ったのは、まだそれほど古いことではない。限られた地域を行ったり来たりしているので見過ごしていたせいもあるが、日本と様子が全く違うので、浸かるための温泉ではなく、見るための「温泉池」か「温泉噴出地」ぐらいにしか思っていなかった。

 しかし四年ほど前、「温泉池(ボー・ナムローン)」に浸かる機会を得た。それ以来、タイの温泉に関する疑問がずっと頭に残っていた。ちなみにタイ語の「ナムローン」には「お湯」「熱湯」の意味がある。

 九六年十二月、タイのプラツドン(遊行僧・野宿しながら徒歩で修行する僧侶)と一緒に、北部のチェンライからチェンマイまで歩く一週間の修行に出掛けた。その四日目、温泉地を管轄にしているスリィラットナムンタン寺に着いた。寺を抜け出し、温かいお湯で気持ちよく汗を流した記憶が鮮明に残っている。

 当時の日記には、「タイに温泉がある事は聞いていたが、ここの地名はまさにバーン・ナムローン(湯の郷)。一一八号線を通る人たちが休憩する観光・保養地域である。湯の温度は約九十度で、噴き出し口がみられる。入浴料は三十バーツ(当時約百三十五円)と少し高いが、洋式の風呂で汗を流せた」と書いてある。その後、二十一世紀の初めをタイのチェンマイで迎える幸運を得た際、この地を再訪してもっと詳しく調べることができた。

 地元で聞いた情報や、タイ語のガイドブック「チェンマイ」(サンナッピンサーラカデイ出版社)と地図、そして英語のガイドブック「Thailand」(Lonely Planet Publications)によると、タイにはここだけでなく、南部のラノン県、北部のチェンマイ県、チェンライ県、メーホンソン県などに計十カ所以上の温泉があるそうだ。

 日本語のタイの旅行記やガイドブックは、数多く出版されているが、温泉を紹介したものはほとんど見あたらなかった。「地球の歩き方」タイ編とタイ北部編(一九九〇年版)には合わせて五カ所が辛うじて紹介されていたが、最新のタイ編二〇〇〇・二〇〇一年版では、紹介地が三カ所に減っている。

 硫黄の湧く温泉があるタイでは、地震も起きる。温泉はナムプ・ローン(間欠泉)とボー・ナムローン(温泉池)に区分されるが、ほかにプーコロン(泥泉)というものもあり、メーホンソン市のワナウッタヤーナムトーパースア国立公園近くでは、これがそのまま地名となっている。

 タイの人々は人前で裸になる習慣がないので、温泉に公衆浴場は設けられていない。しかし、個室で入浴できる施設はある。温泉地を訪れる人々は、入浴より、生卵を買って温泉卵を作ることを楽しんでいる。

 国境近辺にはまだ紹介されていない温泉池があると思われる。現在分かっているところは表に記したとおり。この中からチェンライ県のウエンパパオ温泉、チェンマイ県のサンカンペーン温泉を次号より紹介する。

タイの温泉

北部[チェンライ県]ウエンパパオ、メーチャン
[チェンマイ県]サンカンペーン、ルンアルン、ファン、チャイプラカーン、メーテン
[メーホンソン県]プーナムローン、プークロン、パイ
[ターク県]ナムトックティーローチョー
[ウタイタニ県]ナムプーロンモートーン

南部 [ラノン県]ボーナムローン

筆者プロフイール

一九四三年生。東京都出身。
中央大学卒、拓殖大学修士課程修了。
全日本空輸勤務後、現在は東京交通短期大学客員教授。
タイ文化研究会(七八年設立)代表幹事。
タイの交通問題解決の研究に長年取り組み、最近は上座部仏教の研究やボーイスカウトの交流にも力を入れている。

著書・編著/「タイ文化ハンドブック」(剄草書房)
共訳共著/「交通と観光の経済学」(日本経済評論社)
共著/「現代の交通問題」(ミネルヴァー書房)*他交通関係多数
論文/「バンコクのBTSの利用者実態調査」(モノレール協会)/「泡盛とラオロン」(観光学会)
*他タイ文化・仏教関係の論文多数


(社)日本温泉協会発行「温泉」第六十九巻第四号に掲載された原文を一部編集・再構成しています。(編集部)



[BANGKOK SHUHO]