タイ・日本文化交流マネージメントセミナー開催
従業員のミス指摘は一対一で
五社の企業トップが熱いディスカッションを展開
七月四日、タイ工業連盟(FTI)と磐谷日本人商工会議所(JCC)がタイで働く日本人マネージャーを対象に「日本人マネージャーのためのタイ・日本文化交流マネージメント」セミナーを開催し、タイ人と日本人が同じ職場で仕事をする際に文化の違いから生じる様々な問題について、FTI副会長のプラパット・カンヨン電機会長への質疑応答と五名のパネリストによるパネル・ディスカッションを行った。当日はタイに駐在する百三十社を超える日本人中間管理職がオブザーバーとして参加しパネリストの熱い議論に耳を傾けた。
日本側パネリストはテイジン・ポリエステル・タイランド社の宇都宮社長(JCC人材開発委員長)とタイ国トヨタ自動車の小石原副社長、タイ側パネリストはナショナル・タイ社のチャンポーン常務(日本とのビジネス歴三十四年)、チョー・ヘン・ライス・バーミセリ社のガイラック副専務(同、十五年)。司会はタイ工業連盟副会長のケマダット氏が務めた。
直接対決を避けるタイ人
先ず、オブザーバーから「タイ人ははっきり意見を言わない。どうしたら良いか」という質問が出た。これに対しプラパット氏は、
「タイ人は直接的な発言をした場合の影響を避けます。重要なのはタイ人従業員の心に入る努力をすることです。職場でタイ人の部下を食事に誘う等、理解しようとする努力も必要だと思います」と答えた。更にタイ人の性格については、
「タイ人は日本人上司から一度に多くの指令を受けた場合、目の前で「できない」と言うことが性格的になかなかできません。たくさん命令をした場合は
人前での指摘はご法度
日本人は従業員がミスを犯した時はその場で指摘し指導すべきとの立場を取る。小石原氏は、タイ人は「教育」することと「叱る」ことの意味を勘違いしているようだと述べる。
小石原氏―「躾けとは悪い言葉で言えば叱らなければなりません。タイ人には、「叱る」=「思いやりがない」と誤解している人が多過ぎます。みんなの前で注意された人は叱られたと受け取ってしまいます。そうではなくて、従業員みんなの「躾け」をしているのです。もちろん、躾けるに当っては思いやりがないといけませんが」。
更に、ミスの報告を受けた時の対応については以下のように語った。
「日頃から正常と異常の区別をはっきりさせておくことが大切でしょう。次に異常が発生した時の異常報告の責任と義務を明確にしておきます。そして、異常報告があった時は報告してくれたのだから(怒るのではなくて)感謝の気持ちを持たなければいけません。それから一緒に問題の発生原因を考えればいいのではないでしょうか」。
宇都宮氏も小石原氏の意見に賛成する。
宇都宮氏―「規律を守るという面からも、部下は叱るべき場では叱るべきだと思います。そして、どんどんみんなの前で議論すればよいと思います」。
この意見に対し、ガイラック氏と司会のケマダット氏は慎重な立場をとる。一般的タイ人の「みんなの前で叱られること」に対する拒否反応は日本人が想像する以上に強いようだ。
ガイラック氏―「日本人とタイ人の大きな違いはミスが発生した時の反応です。日本社会では上司が部下のミスをみんなの前で指摘するのは一般的なことです。しかしタイでこの方法は取ってはいけません。指摘は一対一、または別室で指摘することを勧めます。誉める時も、みんなの前で何度も誉めるのは良くありません。妬み嫉みが発生するからです。実は私もみんなの前で叱ることには賛成です。しかし、タイ人は日本人のやり方に慣れていないのです。慣れるためには日本人がお手本を示さなければいけません」。
ケマダット氏―「タイ人の親も家庭で子供を叱る時はきちんと叱ります。しかし、家庭と職場では少々状況が違います。他の従業員の前で叱られると、どうしてもタイ人は恥ずかしいと感じてしまいます。(他人の見ていない)他の場所で叱るのが良いと考えます」。
一方、チャンポーン氏はミスが出た時の対処方法について、事前に規則と役割分担を明確化してスムーズに解決することを勧める。
チャンポーン氏―「先ず規則に従って仕事をすることが大切です。モラルを持って共通の認識で仕事をするということです。チームワーク・ハーモニーが一番大切だと思います。代表的な一般規則は小冊子にまとめておくのがよいでしょう。基本的な権利と義務を明確にするべきです。
次に、業務における役割分担を明確にすることが大切です。就業規則はトップが一方的に決めるのではなく、みんなの意見で定めるのが良いでしょう」。
部下の教育は不得手
宇都宮氏はタイ人ミドル・マネージャーは組織管理と教育が苦手のようだと語る。
宇都宮氏―「私がミドル・マネジメントに期待することは三つあります。一、固有の専門能力・技術を高めて「問題解決能力」を身に付けること。二、身に付けたものを積極的に「部下に伝えて教育」すること。三、「管理能力」を高めてチームとしての力を発揮することです。タイ人管理者の場合、部下の教育や管理にあまり熱心でないように見受けられます」。
タイ人パネリストもこの点には同意する。しかし、一方で歴史的な背景があると言う。
ケマダット氏―「私は食品会社の経営に関わっていますが、タイ人従業員はなかなか食品管理の重要性を理解してくれません。食べ物が少し古くなっても気にしませんし、大きな問題とは考えません。日本人の専門家がタイの製造工場に来て少しずつ教えて行けばタイ人従業員も覚えると思います。
タイ人ミドルの管理意識の不足については、昔は日本企業のタイ人はなかなか責任のあるポジションにつけなかったので、部下の育成や管理への関心が薄かったのです。今の時代はそうではないので考え方も変わると思います」。
コミュニケーションの重要性
意思疎通の要であり、日本人とタイ人の双方が最も苦手とする言葉の壁をいかにして乗り越えるかについても意見を交換した。小石原氏は言葉以外の伝達方法を、チャンポーン氏とガイラック氏は状況に応じて通訳の併用を勧める。
小石原氏―「英語が共通言語ですが、真面目なコミュニケーションにはなっていないんじゃないでしょうか。そうすると、言葉ではなくてみんなの共通認識、例えばデータをグラフにするとか、誰でもわかるような形を考えねばなりません」。
チャンポーン氏―「深く掘り下げて話をしたい場合は通訳を使います。コミュニケーションはトップダウン、ミドルアップ、ボトムアップといろんな形があります。そういった意味で英語だけでなく母国語を使ったフォローをするのです。私は何度か社内でストライキを経験して、コミュニケーションの大切さを勉強しました」。
ガイラック氏―「込み入った話の場合には通訳をつけるのが良いと思います。また、日本人経営者も多少はタイ語の勉強をすればよいのではないでしょうか。それは職場の良い雰囲気を作るために必要な要素だと思います」。
「皆の前で叱られる」ことに対するタイ人の抵抗感は根強い。言い方を変えれば、タイ人は日本人以上に人目に敏感なのだ。「話せば分かる」式の日本人の感覚で進めると思わぬ落とし穴にはまる時がある。先ずは「日本人の常識が正しい」という思い込みと、「自分は思い込みをしていない」という思い込みを発見し、抑制する努力が必要だろう。もちろん、タイ人従業員についても同じことが言える。多忙な日々を送る日本人社員のご苦労は多いと思うが、本当の意味で理解しようとする忍耐がお互いに必要だと感じた。
(宮尾 和宏 記者)
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