経 済

通貨危機から4年

タイ経済停滞の原因を探る(2)


中国経済拡大とタイの機会喪失---ハイテク分野で米国市場を奪われる

米国輸出はタイの七倍

 タイ産業の性格を一口に言えば、日本や欧米、アジアNIESの「労働集約的工場」であろう。最近は技術レベルが高度な産業とされるエレクトロニクス分野での投資が増えたが、分担しているのは依然として労働集約的工程でしかない。これらの産業では現地で生み出される付加価値は販売価格の一〇%以下でしかないのである。こういった低賃金労働に依存しているタイ産業にとって、十三億人の低所得人口を抱える中国は、国際市場においてタイの低賃金労働を奪いかねない驚異的な存在といえる。そして、その傾向は日増しに顕著になっている。

 タイの今年の一月―五月の輸出額はドルベースで前年同期比〇・八%減となった。これはタイの経済成長を減速させる最大要因の一つである。この輸出の落ち込みは主に米国経済の停滞によるのであるが、それに加えて中国経済の拡大が追い討ちを掛けていることは間違いなさそうだ。

 中国の輸出にも減速感があるものの、一月―四月の輸出額は八百十八億ドルで前年同期比一三・二%を保っている。この中で特に米国への輸出額を米国側統計で見ると、一月―四月は三百一億ドルとなり、前年同月比一一・五%増となる。

 この数字の品目別内訳は筆者の手元にないが、大まかに予測することはできる。同期の総輸出の内、機械・電子製品は三百六十三億ドルで、四四・五%を占めている。中国にとって総輸出額の二割を占める最大の輸出先である米国についても、輸出の相当な割合がこのようなハイテク製品といえよう。ちなみに、中国の機械・電子製品の輸出は前年同期比で二三・八%増と速いペースを保っている。

 タイの米国への輸出額は今年一月―四月で四十二億ドル。タイの同期の総輸出額二百十五億ドルの約一九・五%を占める。米国輸出の品目別内訳は筆者の手元にはないが、同期の総輸出額に占めるハイテク製品の割合は六〇・六%となっており、米国への輸出でもハイテク製品が同様の割合で含まれているものと考えられる。

中国のアドバンテージ

 ここで中国とタイとの比較をすると、両国とも現在では輸出の半数近くをハイテク製品が占めている。それらは大部分が上記のように外国企業によって現地で組み立てられただけのものであろう。中国、タイともに日本、米国、香港、台湾、韓国といった先進・中進国からの多くの投資を受けており、米国に輸出されるハイテク製品に関して言えば、それら先進・中進国企業との合弁企業によるものがほとんどなのである。

 このようにハイテク製品、労働集約的という点でタイと中国は似ているが、両国産業には異なる点も多い。そして、それらの相違点はどれも中国にとって有利に働くのである。 まず経済規模について言えば、中国から米国への輸出額を見ても、タイのそれに比べて七倍にも及んでいる。米国にとって中国からの輸入は輸入総額の八・六%を占め、カナダ、日本、メキシコに続く第四位と輸入国となっているのである。

 第二に両国産業に共通する労働集約的な組み立て生産についてだが、これは豊富な低賃金労働者を抱えるところほど有利となる。日系企業の中に、人口二千万人で労働力が逼迫してきたマレーシアから人口六千百万人のタイに製造拠点を移転する動きがあるのはこのためだ。これと同様のことがタイから中国へも起こりかねない。新規投資に関して言えば既にこの動きは起こっているのである。

 第三に中国はハイテク分野で先進・中進国の企業が脅威と感じる程、独自の技術開発力を持ち合わせている。現在、ハイテクといっても組み立て製品が中心であるが、その付加価値化は猛烈な勢いで進んでいる。それらの中には近い将来、先進・中進国の企業を凌駕するものも出てくるだろう。

 以上のような点を考慮すると、これまでタイや他の東南アジア諸国の発展にとって多大な恩恵を与えてきた米国市場を、この先、中国経済の拡大に奪い取られる可能性を否定できない。アジア通貨危機の遠因として、その以前に行なわれた中国通貨・元の切り下げを指摘する見方もあった。通貨危機後の為替相場下落でタイを含む東南アジア諸国は国際競争力を取り戻したが、その間にも中国経済はどんどんと拡大を続けた。

 アジア開発銀行の予測では今年の経済成長率はタイ、インドネシア、フィリピン、マレーシアの順で、二・六%、二・九%、二・六%、三・二%なのに対して、中国は七・七%を維持する。タイを含む東南アジア諸国の経済低迷には、中国経済拡大による機会損失という側面を否定することはできないだろう。      

(水谷 昇 記者)



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