経 済

通貨危機から4年---

タイ経済停滞の原因を探る(1)


米国経済減速が影響--- タイの産業高度化が仇?

設備稼働率は半分程度

 タイ中央銀行が為替相場管理制度を米ドル比重の高い通貨バスケット方式から変動相場制へと移行させ、アジア通貨危機の引き金をひいたのは一九九七年七月二日。あれからすでに四年となる。タイは九八年半ばまでに危機的状況を脱したものの、その後の経済回復の足取りは鈍い。

 経済成長率でみると九八年にマイナス一〇・二%と大きく落ち込んだ後、九九年に四・二%、〇〇年に四・四%と持ち返しているが、今年第一四半期は一・八%と減速傾向が鮮明になっている。九九年、〇〇年にしても、GDP比二%近い財政赤字を発生させての結果であり、実のところタイ経済は通貨危機以降、自立的な回復基調に乗っているとは言い難い。それを最も良く表す数字は製造業の設備稼働率だろう。通貨危機以来、新たな設備投資は大幅に抑制されてきたにもかかわらず、今年五月で五二・九%と半分程度しか稼働していないのである。

 タイの政府負債は〇〇年末にはGDP比五五%。これが〇二年には同六〇%に達する。経済の自律回復が遅れたまま、財政投入で経済の下支えを続ければ、タイの財政は近い将来、破綻状態となりかねないのだ。

 九〇年代半ばまでのタイ経済は年率一〇%前後の成長を続け、アジアNIES(新興工業経済群)に仲間入りする日も近い五番目の(韓国、シンガポール、台湾、香港に続く)ドラゴンと称されるほどであった。タイが通貨危機に陥った当初でさえ、ビジネスマンやエコノミストの間では二、三年後にはもとの高度成長軌道に戻るとの見方が一般的だった。このような内外の期待を裏切ってタイ経済はなぜ低迷を脱せずにいるのか。タイ経済停滞の要因として輸出、外国投資、内需の低迷が指摘される。そこでこの三つの要因について、それぞれ定常的に分析し、タイ経済停滞の原因を探ろう。 

特に落ち込みが著しいエレクトロニクス

 まず輸出についてだが、かつて年率二〇%前後で伸びていた輸出に頭打ち傾向が出始めたのは通貨危機前の九六年三月である。この月、突然前年同月比でマイナスとなった。当時、政府関係者は一時的なもと軽視したが、その後、タイの輸出は伸び悩み、それに慢性的な経常収支赤字体質も加わって、バーツ市場が投機筋の攻撃に晒された。タイ政府がドルに固定的な通貨バスケット方式の為替管理制度を放棄するのは月間輸出額がマイナスとなってから一年半後のことである。

 通貨危機でバーツ相場は急落し、タイ企業は輸出競争力を取り戻すかに見えた。確かに輸出額はバーツベースで九七年二九・八%増、九八年二一・九%増となった。しかし、バーツ相場下落分がそのまま輸出収益になっていれば八〇%くらい伸びても良いのである。タイ企業は輸出競争力を取り戻したが、その一方でバーツ下落を理由に相当な値下げを余儀なくされたということだ。同期の輸出額はドルベースでは九七年三・八%増、九八年六・四%減となる。

 九九年になるとバーツ下落に伴う値下げの効果もあまりなくなり、バーツベースで一・四%減、ドルベースでも七・四%増でしかなかった。

 ここに新しい傾向が出てきたのが二〇〇〇年だ。この年、タイの輸出はバーツベースで二七・一%増、ドルベースでも一九・六%増と息を吹き返すのである。これはバーツ下落以後に主に電子・電気産業で行なわれた投資が生産・輸出拡大となって現れたものと言える。九五年にタイの輸出品目第一位はそれまでの「縫製品」から「コンピューター及びその部品」へと入れ替り、タイ産業高度化の象徴となった。九九年には「IC(集積回路)」も縫製品を抜き去り第二位となった。〇〇年はバーツ下落と国内不況でタイでの投資コストが大幅に低下し、その「高度化」が加速したのである。だが、この高度化によってタイ経済は米国経済低迷の影響をもろに受けることになる。

 今年に入ってから輸出の中で特に落ち込みが大きいのは高度化の象徴である「コンピューター及びその部品」と「IC」なのである。これらはタイから直接、日米欧に輸出されるだけではなく、近隣諸国で最終製品に組み込まれて、やはり日米欧に輸出される。その中でもITブームに湧いた米国への輸出は日本の不況を補い、通貨危機後のアジア経済を支えてきた。米国経済の成長率は九九年四・二%、〇〇年五・〇%と好調に推移したのである。ところが、〇一年の予測は現在のところ一・二%と明らかに調整局面を向かえている。これは周知の通りタイの輸出の伸び悩みの最大の原因といえるだろう。だが、その他にもう一つ、現在はそれ程大きくはないが、将来的に見て気掛かりな原因が見え隠れしている。それは中国経済の拡大である。   

(水谷 昇 記者)



[BANGKOK SHUHO]