新夢アジア
タイの「母の日」と花と緑
「『母の日』の作文コンクール最優秀賞は、今年一月に母親と父親を交通事故で無くした、チユアパーン・スラムの小学三年生、ターちゃん姉妹です」。このアナウンスをステージの上で聞いた時に、思わず涙がこみ上げてきてしまった。
作文には、母親が生きていた時の楽しい思い出、そして、今は天国で自分たちを見守っていることなどが綴られていた。
タイではシリキット王妃の誕生日である八月十二日が「母の日」に指定されている。そしてシーカー・アジア財団では、前日の十一日、「母の日」の特別行事をバンコク最大のクロントイ・スラムで開催した。
スラムの中では、死別、離婚、行方不明などの理由で母親のいない子どもたちが多い。また母親と同居せず親戚と暮らしている子どもも少なくない。「母の日」といっても、母親のいない多感な世代の子どもたちにとっては、必ずしも嬉しい日ではない。このため、タイの放送局ITV、チャンネル7、チャンネル3などのテレビカメラが回る中での開会挨拶で、母親のいない子どもに対する配慮をどうするかを、直前まで悩んでいた。
シーカー・アジア財団事務所の中の特設舞台では、「母の日」の作文の表彰に続いて、日ごろ図書館で特訓しているタイの伝統舞踊も発表。子どもたちはテレビに自分の姿が写るとあって特に、一生懸命だった。
この日はまた、スラムからゴミを減らし、花と緑を一杯にする「クリーン&グリーン・リサイクル」事業も実施。タイで母親の花の象徴である「ドック・マリ」(ジャスミン)の花が、三百五十本、特別にスラムの住民たちにプレゼントされた。
バンコクの中で、経済的に最も困難な地域であるスラムの住民たちの長蛇の列が、このジャスミンの花の鉢を受けとるために出来た。子どもたちだけでなく、二十代、三十代、四十代の母親たちも、「母親にプレゼント」するといって、列に加わっていた。
「クリーン&グリーン・リサイクル」事業は、今年四月、国連環境計画(UNEP)の親善大使、加藤登紀子さんが、初の海外訪問の一環でクロントイ・スラムを訪問した際に視察。六月三日にはテレビ朝日系列の「素敵な宇宙船地球号」という番組で、「スラム発・花と緑の奇跡」として紹介され、大きな反響を呼んだ。
この「クリーン&グリーン・リサイクル」事業も今年で三年目になるが、この三年間で十五トンのゴミを回収、六千本の花の苗木が交換された。タイ政府やJICA(国際協力事業団)等の支援を受けて継続してきたが、そろそろ予算も残り少なくなってきている。
しかし、ゴミだらけだったスラムの路地が花と緑で満たされ、ゴミが路地裏から消えた。さらに、母の日に、ジャスミンの花に長蛇の列を作り、そしてジャスミンの花を手にしたスラムの住民たちの笑顔に、「継続は力なり」という言葉の重みを痛感させられた。
母親だけでなく、父親まで無くした、ターちゃん。この日は、一つ下の妹と一緒に得意のタイ舞踊をテレビカメラの前で踊った。スラムという逆境の中でも、希望を失わずに生きる子どもたちに勇気づけられた今年の「母の日」だった。
シーカー・アジア財団事務長
SVAバンコク事務所長
八木沢 克昌
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