バンコク好日
日本ブームという誤解
カルビー、出光興産、花王、ライオン。これら日本企業に共通する点は何か・・・。それは最近タイのテレビで日本をイメージさせるCMを流していることだ。カルビーのCMでは、サヨナラ〜という古い歌のフレーズが繰り返される中で皆が泣き崩れ、出光のCMでは侍がオートバイに乗って登場する。花王のCMは、最初に自社とは関係のない電子機器を見せて「日本の技術は優れている」と強調してから、自社の洗剤の効き目の説明を始める。ライオンは手の込んだことはせず、ただ日本語製品名の「植物物語」「KODOM
O」をそのまま使って、日本ブランドのもつ高品質を印象付けている。
タイのテレビCMでこれほど日本をイメージさせるCMが流れるのも珍しいが、これは今タイに起きている日本ブームにあやかろうということだろう。
ではなぜ、今タイで日本ブームなのか。通貨危機後に日本政府がIMF支援を取りまとめたり、資金援助をしたことをタイ人はよく知っている。これが日本のイメージを良くしたという見方もある。だが、それは国民の税金を使った国際援助に「宮沢基金」と自分の名前を付けるような厚顔無恥な政治家や役人の自我自賛だろう。日本の支援をタイ国民は評価しているが、だからといって若者が髪形や服装にまで日本のファッションを取り入れたりはしない。
バンコクの街中を良く見て歩くと、日本ブームの本質が見えてくる。雑貨屋や服飾店が所狭しと並ぶサイアムスクエアの路地から聞こえてくるのは日本の伝統音楽ではなく、宇多田ヒカルのハスキーな歌声だ。書店には古典や現代文学の翻訳ではなく、日本のファッション雑誌やマンガ本が並んでいる。人気のあるキャラクターは金太郎やひな人形ではなく、ドラエモンやポケモン、しんちゃんだ。学校帰りの学生で賑わうのは道場でもソロバン塾でもなく、日本のPTAが眉をひそめるゲームセンターであり、友達とする記念写真はプリクラが当然になっている。女性が髪をショートにしたり赤く染めるのも日本の影響
だ。
このようにタイで受けているのは、日本文化の中でも最近になって出てきたもので、大衆性の強いものだ。それは日本人が誇りにしている長い歴史に由来する日本文化とはかけ離れている。権威や伝統とは無縁のものなのである。
また、家電や自動車などの工業製品ではメイド・イン・ジャパンが品質保証と同意語になっているが、今回はそういった日本評価をともなっていない。日本ブームとは言っても、その消費者のほとんどは「日本」という国を意識していない。タイ人の消費者は、例えばサンリオのキティーが可愛いから好きなのであって、それが「日本製」だから買っている訳ではない。正確には「日本ブーム」という言葉があてはまらない現象なのである。日本企業が日本をイメージしたCMを流しても特別な効果は期待できないだろうということだ。
そこでもう一度、タイで受けている日本生まれのキャラクターやファッションを見てみると、ふと、ある考えが浮かんでくる。それは日本自身の変化だ。日本は自動車と家電が最大輸出品目で、特許やソフトウェアは貿易赤字となってきたが、この構造が変わりつつあるかもしれないということだ。日本生まれのソフト商品がようやく世界に認められるようになってきたということではないだろうか。そうすると、これは一過性の「ブーム」ではなく、今後も続く長期的なトレンドなのかもしれない。実際にドラエモンやキティーはタイに定着して何年も経つし、同じような現象が韓国や台湾でも起きている。
ただし、この流れが今後も続くかどうかは、日本国民の心構えにかかっている。というのも、海外で受けている日本のキャラクターやファッションは、極めて自由な発想から生み出されたものばかりだからだ。またカワイイ、カッコいい、オイシイなど生理的に訴える普遍性も持ち合わせている。
現在アジアの中でそういったものを生み出せる唯一の国である日本の強みは社会の自由さにある。日本は画一的で、官僚主義がはびこり、最近では貧富の差も拡大しつつあるが、それでもアジアの中では稀に自由で公正な国家となっている。日本が今後この強みを維持し、伸ばしていかなければ、ソフトで米国に負け、製造業はアジアに追いつかれ、経済力が衰退することは間違いない。タイの日本ブーム≠ヘ実は日本人への重大な啓示なのかもしれず、「日本は人気がある」と浮かれてばかりもいられない。
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