プーケット島 国際ITハブ構想
IT、 教育、 観光の3分野に集中
タイ南部リゾートのプーケット島を国際IT(情報技術)ハブにしようとする計画が近日中に全貌を明らかにする。アンダマン海の真珠と呼ばれる同島には、毎年多くの外国人観光旅行者が自然を求めて訪れている。規制の厳しいシンガポールや強引な開発で不人気なマレーシアのスーパー・マルチメディア・コリドー(SMC)に比べると、プーケットには人をひきつける魅力があり、やり方次第ではまだ計画段階でしかない国際ITハブ構想も現実味を帯びてくる。そこで同構想の意思決定情報システム、立地、インフラ整備などに関して立案した国家電子コンピューター技術センター(NECTC)のタウィサック・コーンタクン・ディレクターの話を中心にまとめた。
知識ベース社会の起点
プーケット島とその近隣県の産業開発は、国家経済社会開発委員会(NESDB)が九七年末に発表した第八次経済社会開発計画に関連して初めて提案した。ただしプーケットは世界中から観光旅行者の集まる国際的リーゾートであり、タイにとって重要な外貨獲得資源のひとつになっている。
プーケット開発には、このタイの「真珠」としての位置づけを守りながら、いかにして南部地域の経済活性化を図っていくかが課題となった。同じ海洋リゾートのパタヤは、近辺に製造業や石油化学産業を誘致したことで、海水汚染が進みリゾートとしての価値を落としてしまった。この二の舞を踏まないため、汚染を発生させるような産業の誘致は避け、自然環境を維持できるクリーンな産業の誘致が望まれた。
そこで注目されたのがIT産業だ。すでにシンガポールやマレーシアではITハブを目指してインフラ整備に乗り出しており、東南アジアにおけるIT産業離陸の可能性が高まっていた。
こうしてプーケットの国際ITハブ構想が検討されるようになったのは今から二年前。NESDBはITに詳しいNECTCやその他関連の政府機関と協力し、プーケット及びその近隣県政府、商工会議所、大学などとワーキング・グループを設けて構想を練り上げてきた。
NECTCのタウィサック・コーンタクン・ディレクターは「プーケットでの産業開発はIT、教育、観光の三分野に集中する。我々はタイを知識ベースの社会に転換させたい。プーケットはその起点とするには都合がいい。国際的に著名なリゾートで多くの観光客が集まり、すでに国際ハブとなるに相応しい地位を確立している。知識ベース社会はタイ人だけではできない。世界中から優秀な人材が集まならければならない。プーケットでは世界の頭脳に働いてもらうため外国人規制も少なくなるだろう。投資委員会(BOI)や労働省とも話を詰めている」と話す。
基本計画を14日に発表
NECTECなどが二年をかけてまとめた基本計画が、今年の二月二九日にタイ政府から承認を得た。それは五つの柱からなる。第一が資源と自然環境を維持しながらの土地開発、第二が高品位のインフラ整備、第三は人材開発、第四はIT産業、第五が国際都市管理。この内、国際都市管理というのは一つの県の枠組みを超えた行政管理ということで、例えば公共サービスでの英語利用など、国際都市としての環境を整備していく。投資家やビジネスマンへのサービスを充実させ、投資先としての魅力を高める。
「最近では外国政府・企業などから毎日のように問い合わせがある。特に米系国際企業が多く、日本企業の問い合わせは当機関にはまだない。興味をもっている企業はアジアの研究開発拠点の設置場所を検討しているようだ」
詳細な計画や予算の見積もりは、基本計画をもとに地方政府がまとめ、タイ政府に提出することになる。この作業を迅速に行い、またタイ政府が時間をかけずに承認できるよう、タイ政府もNECTCやNESDBなど政府機関を通して地方政府の支援を強化した。例えばNECTCは自身の予算で、どこにどのような施設を設けるのが適当かマップを作成した。
個々の具体的な計画については政府予算が決まってから動きだすことになるが、インフラ整備のようなものは、CATやTOTなどによる通信整備のようにすでに別予算で計画を進めている。
「この計画に対する政府の反応は大変によく、約一五の政府機関が関わっている。政府は経済低迷を悩んでおり、これがタイ南部地域経済発展の起爆剤になればと考えているようだ。IT産業は将来性があり、どんどん新ビジネスが派生してくる。こういった新ビジネスはタイ経済の回復に重要だ。これは投資委員会の投資奨励や労働集約的産業誘致よりもいい。そういったものは今やどこの国でもやっており、労賃が上昇したタイにはもうあまりやってこないだろう。それに比べるとIT産業の可能性は大きい。ニューエコノミー、知識集約的産業、革新性、政府支援による研究開発などの方が投資誘致に結びつく」
基本計画に沿って詳細を検討する公開セミナーが六月一四日にプーケットで開催される。同セミナーではこれまで公にされていなかった基本計画の内容や、NECTECが作成したマップなどが明らかになる。タイ政府からもステープ通信相ら関係閣僚が参加する予定だ。
タイへのUターン促す
プーケットを国際ITハブとするため、外国人に開かれた場所とする計画だが、全てを外国人に頼ろうという訳ではない。海外在住の優秀なタイ人への期待も大きい。例えばタイでは中流以上の家庭の場合、子弟子女を海外に留学させることが少なくない。正規留学だけでも毎年五〇〇〇人以上ののタイ人が海外留学しており、プライベートなら一人年間一〇〇万バーツ程度の費用がかかっている。
留学費用はタイにとって将来のための投資のはずだが、そのうち多くの学生が卒業後に米国などに残ってしまう。これは特に優秀な学生ほどいえることだ。なぜならタイには彼らの活躍する場が限られているからだ。タイにITハブを作れば、こういった学生を呼び戻す場所になる。
また優れた国際大学を建設すれば、タイ人がわざわざ巨額の費用をかけて留学しなくても国内で学べるようになる。そうなれば国の経常収支にもプラスだ。
「最初は外国人の力に頼ることになるが、将来的にはタイ人の活躍に期待したい。タイ国内向けソフトウェア開発などタイ人に適しているものもある。外国人とタイ人がうまく協力することが大切だ」
ランシット計画と相互補完
「ITは産業振興というだけでも面白いが、教育面でも波及効果が大きい。電気通信、ソフトウェア、IT、マルチメディア、アニメーション、その他関連の研究分野は多岐に渡る。タイの社会・経済開発にとって潜在力が大きい」
実はこのプーケット開発の姉妹計画といえる先行計画がバンコク郊外にある。それは来年、四年の歳月を経て第一フェーズが完成するランシントの「サイエンスパーク」だ。近隣県までまたがるプーケット構想より集約的で、計画も進んでいる。
第一フェーズは行政施設・インフラ設建が中心で、二〇〇ライ(約三二ヘクタール)の敷地に五つのビルが建設中だ。ここにはNSTDA(国家科学技術開発庁)、NECTCなども移転する。第二フェーズは民間企業誘致で、開発用地も二〇〇ライを用意している。これは企業のニーズに応じて進めていくことになる。
「サイエンスパークはタマサート大学、アジア工科大学(AIT)を合わせた科学集積地となる。研究分野はIT、バイオテクノロジー、材料工学の三分野。この分野で多くの研究者を集め、研究開発プロジェクトを行う。米国シリコンバレーとスタンフォード大学のような関係を目指している。また政府もベンチャー企業のインキュベーターの役割を担う。将来的には国内外からベンチャーキャピタルを引きつけるようにしたい」
サイエンスパークへはドンムアン空港から北へ二〇キロメートル。高速道路が整備されているので自動車で一五分程で到着する。
ベンチャー企業が大都市バンコクの機能性を指向するならランシットがその受け皿となり、自然に囲まれた環境を求めるならプーケットがある。タイ政府はこの二本立てで知識ベース社会化への転換を図っていく。
娯楽、観光との相乗効果
話をプーケットに戻そう。シンガポールやマレーシアに比べてプーケットの優位性はどこにあるのか。プーケットは自然が豊富で娯楽施設も充実しているというだけではない。近隣県とは具合の良い国道で結ばれており、自動車での移動はスムーズだ。またタイ通信公社(CAT)が国際高速大容量通信ケーブルを敷設しており、世界各地との情報のやりとりに支障はない。さらに接続面についてもタイ電話公社(TOT)や携帯電話会社がサービスの向上を進めている。港や橋、産業道路、工業団地など巨大インフラを建設する必要のないIT産業の特徴を踏まえ、最低限のインフラは整備済ということだ。
またリゾートホテルがたくさんあることの付加価値は高い。国際会議を開催するのに会場、宿泊施設の確保に困らないからだ。
「タイはシンガポールやマレーシアに比べてIT産業が遅く、英語が通じにくい。現状ではこれら不利な点が目立つが、一方で、タイは土地が広く、地勢学的立地も良く、国内市場が大きい。そして何よりも自由だ。IT、娯楽、観光の三つは相乗効果がある。プーケットでIT産業が発展する潜在力は大きく、これまでの遅れを挽回できる」
現在、多くの外国企業がアジアのどこかにIT関連の研究・開発センターを設置しようとしている。こういった企業にとってプーケットは選択肢の一つになりそうだ。
(水谷 昇 記者)
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