不況を生き抜く 『シリワット・サンドイッチ』社長に聞く
寿司サンド、玄米寿司 ―― オリジナル性を追求
「目標はタイ版マクドナルド」
バンコクのオフィス街で黄色いボックスを首から下げて、サンドイッチを売り歩いている姿をみかけたことがあるだろうか。『シリワット・サンドイッチ』の名で知られているサンドイッチの販売員だ。社長のシリワット・ボラウェトウティクン氏(五〇)はバブル崩壊により多額の借金を残し高級コンドミニアム販売業から撤退、サンドイッチの販売を始めたことで、マスコミにもしばしば登場してきた。不況に立ち向かうビジネスマンのシンボル的存在となった同氏には、講演依頼も多く、また海外のメディアからも注目されている。業務の拡大に余念のないシリワット氏に事業の将来像などを聞いた。
米国の大学を卒業したシリワット氏は、バブルの絶頂期、タイ国内で不動産会社を経営していた。銀行から多額の融資を受け、カオヤイ国立公園内に高級コンドミニアムを建設。富裕層を対象に一ユニット六百万バーツから千五百万バーツで分譲販売していた。
ところが九六年七月二日、タイ通貨制度の変更にともなうバーツ暴落で、同氏の事業は壊滅的な打撃を受けた。不動産業は「氷河期」を迎え、銀行への返済も滞り、訴訟を起こされることになった。四十人近くいた従業員への給料も払えなくなるなど、倒産は時間の問題となった。
しかし、ここでシリワット氏は「一念発起」。全社員を前に、「今後はコンドミニアムではなくサンドイッチを販売する」と発表したのだ。あまりのギャップに社員の半分は会社を去った。しかし半数は残った。「辞めたところで就職先がない」という理由もあったろうが、〃なんとしてでも従業員の生活を守ろう〃という社長の男気に惚れたという面もあったようだ。
こうして九八年四月にサンドイッチ販売はスタートした。しかし、店舗をもつ資金などあろうはずがない。そこで苦肉の策として考えたのが、駅弁スタイルでの無店舗販売。恥ずかしさもさることながら、歩行者のじゃまになるとの理由で逮捕されるなど、さんざんな目にあった。このため、思い切ってピチット都知事に直訴、失業者対策としての特例措置を懇願した。その結果、通行人の邪魔をしないことを条件に、特別許可を得ることになる。その後、事業は徐々にではあるが軌道に乗り、一日の売上数も最初は二十パックだったものが、数百パックにまで伸びていった。
サンドイッチ販売は今年で二年が経過。その間、シリワット・サンドイッチの知名度は高まっていき、業務の拡大を模索するようになった。そんなある日、夫人が子供らのために巻き寿司をつくっているのを見て、サンドイッチ以外に巻き寿司を販売することを思いつく。
試しに寿司をつくってみたシリワット氏であるが、これがどうにもおいしくない。「どうしたものか」と思いあぐねた末、結局、「餅屋は餅屋」ということで、不動産会社を経営していた時によく立ち寄った日本料理店の日本人シェフに相談、指導を仰ぐことにした。それから、自分で調理した寿司をそのシェフに味見をしてもらうという作業を何回も納得のいくまで繰り返した。
そしてそのなかでオリジナル性の高い商品も考案していった。 すでに寿司の販売を始めて一ケ月が過ぎたが、タイ人の間で評判がいいのが、寿司サンド。カニカマ、ハム、きゅうりを具にした巻き寿司だが、海苔の代わりに薄斬りの食パンで巻いているのがミソ。記者も試食してみたが、これがみごとにマッチしている。
さらに巻き寿司のシャリに玄米を使ってみた。プミポン国王の社会貢献事業(ロイヤル・プロジェクト)に、健康のためにタイ人の間に玄米食を浸透させようというものがあり、これからヒントを得たようだが、先の日本人シェフの評判も上々であった。
最初、日本人シェフからは日本米を使うことを勧められたというが、シリワット氏はこれを拒否。価格が高いということもあるが、タイの米を使うことで、わずかでもタイの農業に貢献できると考えたからだ。しかし結果として、このために、玄米寿司パック、普通の巻き寿司パックは二十五バーツ、そしてサンドイッチ寿司パックは三十バーツと、価格を抑えることができた。なお、玄米以外のシャリは、上質のうるち米にモチ米を混ぜたものを使用しているとのこと。
販売を開始してしばらくは、ほとんど売れなかった巻き寿司であるが、最近ではタイ人の顧客も増えてきているという。特に学生の間で人気が高いようだ。タイの若者の間で今、日本食がブームになっているが、やはり値段が高いため、そうそう気軽には食べられない。そのため、手頃な値段の「シリワット巻き寿司」は、うまく流行に乗ったともいえそうだ。
不況のなか、従業員、そして家族を守ってきたシリワット氏であるが、銀行にはまだ多額の借金が残っている。しかし、「三年以内に返済を終了したい」と力強く言い切る。
シリワット氏には夢がある。あと二―三年でシリワット・サンドイッチの知名度をさらに高め、証券市場を通じ資金を調達、事業をさらに拡大していくことだ。「目標はタイ版マクドナルド」と熱っぽく語るシリワット氏をみていると、タイ人ビジネスマンの底力を感じないわけにはいかない。
(倉林義仁記者/ルァンイッサラー・カライジンダー記者)
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