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変貌するタイのインターネットビジネス(下)


タイ最大のISP インターネット KSC
大学と協力して基盤整備

 タイで最も会員数の多いISPはKSC。大学を母体とする同社は、規模、技術面で他社を圧倒する。その生い立ちと、今後のビジネスの狙いをKSC会長でアサンプション大学インターネット・Eコマース大学院長のスリサクディ・ジャモンマン教授のインタビューをもとに紹介する。


タイのISP第一号

 インターネットKSCグループはタイ最初の民間インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)だ。同グループの持ち株会社といえるインターネットKSC社が設立されたのは一九九四年六月で、同年一〇月にタイ通信公社(CAT)からISPとして第一号免許を取得した。ただしタイではCATがインターネットビジネスを規制しており、接続サービス企業はCATに対して無償で株式の三五%を譲渡しなければならない。そこでKSCでは九四年一二月に接続サービス専門子会社のKSCコマーシャルを設立し、九五年一月から民間企業としてサービスを開始した。CATにはこのKSCコマーシャルの株式が譲渡されている。

 KSCが民間第一号ISPとなったのは、その指導者であるスリサクディ・ジャーモンマン教授がタイのインターネット利用の草分けだったことと無関係ではない。スリサクディ教授はインターネットを利用した最初のタイ人なのである。同教授はチュラロンコン大学卒業後に渡米し、ジョージア工科大学でコンピューター科学の博士号を取得。その後、ニューヨーク州立大学教授を経て、六八年からミズーリ州立大学のコンピュータ学科長に就いていた。米国の大学でインターネット利用が始まったのは六九年、スリサクディ教授はタイ人として初めてインターネットを使うことになる。

 一方、タイでインターネット利用が始まったのは一九八七年、アジア工科大学においてオーストラリアのメルボルン大学と定期的なEメールの交換が行われるようになった。九一年にはチュラロンコン大学がタイ最初の国際ゲートウェイとなり、九二年には米国との間で六四KBの回線を結んだ。その後、タマサート大学、キングモンクット工科大学などでインターネットが利用されるようになったが、タイの一部の国立大学に限定されていた。そこでキングモンクット工科大学教授となっていたスラサック教授は、「インターネットはタイの全ての大学で利用されるべき」と考え、九三年にタイの私立トップ校であるアサンプション大学に学生へのインターネット普及計画を持ちかけた。これに大学関係者は賛同し、KSCを設立してスラサック教授をインターネット対策委員長として迎え入れた。

 アサンプション大学は教授の提案で全学生にIDを与えインターネット利用を義務づけた。これは世界でも初めての試みで、成績もインターネット上だけで発表するようにして学生の利用を促進した。この時点ではKSCはまだ会社化されておらず、インターネットKSC(知識サービスセンター)という大学内の一施設にすぎなかった。しかし、米国などの情勢からインターネットサービスに商業化の可能性が出てきたため、スラサック教授は学長の許可を得てカノックワン・センター長、通信会社ジャスミングループと共同出資で九四年六月に民間ISP第一号としてとして会社を起こした。それがインターネットKSCだ。

 「米国ではビジネスと大学は良い関係にあります。大学にニュービジネスのインキュベーター(孵化場所)としての役割があるのです。当社の場合もアサンプション大学がインキュベーターでした。五年前にKSCがビジネスを始めたとき、会員のとんどが在校生と大学OBでした。また、知的労力が必要なときには大学の学生をパートに使うことができ、余分な従業員を抱える必要もありませんでした。これは現在でもKSCの強みの一つになっています」(スリサクディ教授)

インターネット証券取引

 タイのインターネット利用者は昨年末で約一〇〇万人。KSCの利用者は約三〇万人と推計される。KSCでは今年末には全体の利用者が二〇〇万人、同社の利用者も一〇〇万人に増加すると見込んでいる。これは今年、KSCも含めてタイのISPが大型投資を計画しているからだ。KSCだけでも一〇億バーツを投資して電話回線数を一万台から五万台に増設し、米国との通信容量も四六MBSから九〇MBSに拡張する。ISPの競争激化と利用者の増加で一般利用料金も低下している。五年前は一ヵ月二〇時間の利用料金が約一六〇〇バーツだったが、これが三九九バーツへと約四分の一になった。この傾向はまだ続きそうだ。

 タイでのインターネットの利用目的は、現在のところEメールとHP閲覧が中心になっている。HP閲覧では学生などによるチャットの利用が多いようだ。このように個人の情報交換が主で商業的には未熟だが、KSC、アサンプション大学ではEコマース拡大の取り組みを進めている。

 例えば四月にはユアンタ証券と共同でインターネット証券取引「YUAMTA―KSC」を始めた。利用料金は月々五〇〇バーツで、一二〇時間利用できる。証券取引場が開いている間は接続したままにしておけるということだ。ただしこれはKSCのサーバにアップされたホームページしか閲覧することが出来ないイントラネットである。メールは国外にも発信できるが、米国など海外のHPは見ることができず、実質的に国内の証券取引にしか利用できないHPだ。しかしユアンタ証券は一万人の証券取引客を持っており、それら顧客のほとんどが会員になる可能性がある。

 スリサクディ教授は「現在、ユアンタ証券の顧客は月一万バーツもするロイター情報を見ています。それに比べて当社のサービスは格安なので、こちらに移ってくるはずです」と自信を覗かせる。

アサンプション大学の試み

 KSCのバックボーンであるアサンプション大学でもEコマース促進のため昨年八月に「インターネット・Eコマース大学院」を設立した。

 同修士コースの特徴は実践的教育に徹していることだ。例えば一学年三〇〇人の全ての学生が大学院の開設したインターネット・モールに出店しなければならない。これは必修科目で、成績は売上によって決まる。一年間一〇〇万バーツ以上の売上を上げた生徒はA、八〇万バーツでAマイナス、六〇万バーツでBプラス、四〇万バーツでB、それ以下はCしかもらえない。学生は販売する商品を自分で見つけなければならない。実家の店で販売している商品でも、市場から見つけてきてもいい。

 この修士コースと別に、取得単位数が四分の一ですむ定員三〇〇人の短期コースもある。このコースでも同様に出店しなければならなず、アサンプション大学院学生だけでも年間六〇〇件のEショップが出店されることになる。

 これらEコマースに関するコースは大変に人気があり、修士コースの第一期募集(入学募集は年間三回あり、合計で三百人)の百人に対して五百人の応募があった。第一期生の授業は今年一月に始まっており、すでに百店のEショップが出店されている。

 ちなみにモールには三種類ある。一つは最も容易に出店できる初心者向きのチャーミングモール・ドットコム。これは大学院に属し、ホームページも大学関係者が作ってくれる ので、学生が写真か何かを持ってくればすぐにHPが開ける。第二はタイサイバーモール・ドットコム。これはKSCに属するもので、チャーミングドットコムのミラーページといえる。この二つについてはページのレイアウトが一〇通りあり、それを選んで簡易にページを作ることができる。三つ目が本格的なショッピングモールのドットオブタイランド・ドットコム。これに出店するにはマイクロソフトのソフトウェアを使って自分でHPを作らなければならない。

 「ある女子学生がチャーミングモールに開いたペットショップは人気で既に数一〇万バーツを稼いでいます。成績はきっとAでしょう」

 これらのショッピングモールには大学のアソシエイツ学生になれば誰でも出店することができる。月四百五十バーツの出店費用を払うだけでいい。これで一〇ページのHPが開ける。ショッピングカート、セキュリティーシステムが全てがセットになっている。 アサンプション大学では修士や短期修士の他に一般に向けたEコマースのコース開設も検討している。

 「タイはインターネット利用がシンガポールより遅れています。でもインターネット教育についてはそうではありません。アサンプション大学の実践的大学院は米国カーネギーメロン大学の授業を取り入れたもので、アジアでは初めての試みでしょう。日本やシンガポールの大学にもまだEコマースの専門講座はないはずです。ここの学生たちが卒業してビジネス界に入っていけばシンガポールだって抜けるはずです」

目指すはナスダック上場

 「KSCのビジネスは大変にうまくいっています。タイのISPの中では唯一、累積利益が出ています」(スリサクディ教授)

 KSCの最大の強みは借入金のないことだ。他社は設備投資のための巨額の借入金があり、その返済のため九七年の累積利益はKSCを除いて全ての会社で赤字、九八年もKSCの他にインターネットタイランドと親会社が債務放棄しにしたワールドネットを除き赤字になっている。

 この他、タイ最大のISPであること、前述したように大学という知的資源をバックボーンにしていることから、KSCはタイでは突出したISPといえる。このため、CP、シナワット、サマートなどタイの大企業がインターネットビジネスに乗り出すときにはまず最初に同社を訪れ、設備、技術面の支援を仰ぐ。

 「どの企業との契約条件も当社の方が有利なようになっています」

 インターネットKSCは接続サービスの他、Eコマース、ショッピングモール、オンライン広告などを子会社を設立して行ってきた。最近はビジネス分野拡大のためインターネットKSCのさらに上部に持ち株会社のMKSCドットコムを設立し、七五%の株式を所有させた。これが将来、新株公開(IPO)の母体企業となる。来年にはナスダック上場も視野に入れている。

 「ナスダックの平均株価が下落したとはいっても、タイで上場するよりはメリットが大きい」

 CATとタイ電話公社(TOT)の自由化が今年一〇月から始まり、それに合わせてインターネット関連の法律も変わる。KSCでは政府のインターネットビジネスへの対応を見極めてからIPOを実施する。                 

(水谷 昇 記者)



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