資産虚偽申告疑惑
憲法裁判所での審理始まる
サナン民主党幹事長 答弁で多くの「失点」
タイでは憲法の規定により閣僚就任時と退任時、及び就任一年後に本人・配偶者及び未成年の子女の資産・負債を国家汚職制圧委員会(以下、汚職制圧委)に提出することが義務づけられている。これは政治上の地位を利用して不正蓄財をしていないかどうかを調べるためのものだ。
政治浄化をねらったこの規則が現在、与党第一党・民主党のサナン幹事長の首を締めている。
昨年末の内閣不信任案審議で野党側は、サナン幹事長が虚偽の資産報告をしたと糾弾した。不信任案は否決されたものの、野党はその後も追求の手を休めず、国家汚職制圧委員会に調査を要請。そして三月二十八日、同委員会はサナン氏の資産報告を虚偽と判断した。この決定を受け、サナン氏は副首相、内相、下院議員の辞任を余儀なくされている。
汚職制圧委はさらに憲法裁判所へサナン氏の罷免を要請。ここで憲法裁判所が罷免決議をした場合、以後、五年間、あらゆる政治職に就任することができなくなる。これは実質上、政治生命を断たれることに等しい。
この問題を審理するための憲法裁判所公判は、今月十八日、十九日に開かれている。
サナン氏の容疑は、資産を申告する時にAASオートサービス社から四千五百万バーツを借り入れたことにして、資産を少なく見せかけようとした、というものだ。
サナン氏は借り入れ金の使途を、「四千五百万バーツのうち、三千万バーツを友人が経営しているロイヤル・ランナータワーの株式購入資金にあて、残りをダチョウの飼育とブドウ園経営に投資した」と主張。弁護団も汚職制圧委の容疑を否定しようと躍起となったが、肝心のサナン氏の答弁での失点が目立つことになった。
サナン氏は借り入れの経緯を、ランナータワーの株式購入資金を借りるため、友人に相談したところ、融資の仲介してくれたが、実際に借り入れてから、(1)借り入れ金の出所がAASオートサービス社であること、(2)そのため会社との契約書が必要であること――を説明されたとしている。このため、契約書の作成が融資後になったというが、庶民の感覚からは掛け離れているともいえそうだ。
今回、汚職制圧委は法廷で株式購入に関して徹底的に追及。「株式を購入する前に会社の経営状況を調査したか」との質問に、「九六年度のバランスシートを調べた」とサナン氏が回答すると、「株式の購入は九六年となっているのに、どうしてその年のバランスシートが存在するのだ」と矛盾を指摘。
そしてサナン夫人名義で購入したその株式を、その後、融資を受けたAASオートサービス社の職員に委譲したことについては、「融資の担保」と説明するが、この小切手には裏書きがされていなかった。この点について、サナン氏は「紳士協定。返済が終われば返却してもらえるものと信じていた」と発言しているが、金額が金額だけに苦しい答弁といえなくもない。
さらに株式を購入する際に現金で支払ったことについて、「小切手のほうが支払いに便利なのにわざわざ現金化したのはなぜ」との汚職制圧委の質問には、「僕は現金が好きだから」と回答。これはマスコミから大いに茶化されることになっている。
また利子の支払いに関しても、サナン氏側の証言が食い違いをみせている。
野党第一党・新熱望党チャルム副党首からは、(1)問題となっている融資について銀行口座に引きだし・入金の形跡がない(2)融資をした会社のバランスシートにその記載がない(3)これだけの金額を融資するのに会社で何の会議も実施されていない――などの疑問が提示されている。
次の審理は六月七日。その後、約一ケ月で判決が下されることになる。どうにも苦しい立場に追い込まれたサナン氏だが、これまでの「政治常識」ではサナン氏ほどの実力者であれば、相当の圧力が憲法裁判所にかかる可能性も否定できない。このため今回の憲法裁判所の裁定は、(1)タイの監査機能の成熟度、及び(2)サナン氏の影響力の大きさ――の双方を写す鏡ともいえそうだ。
(倉林義仁記者)
|