変貌するタイのインターネットビジネス(上)
世界を席巻しているインターネットだが、タイでの普及はまだこれからだ。この遅れがシンガポールや韓国などアジア先進・中進国との経済回復速度の差となって現れているとの指摘もある。だが、製造業の高い集積度、GDPの八割に及ぶ国際貿易、比較的広い国土に散らばる六千万人の人口、年間千万人近い観光旅行者など、潜在的ポテンシャリティーは東南アジア随一と言える。そこでタイのインターネット最先端企業であるポイントアジア・ドットコムの取り組みを紹介する。
総合サービス目指す ポイントアジア
途上国で生きるタイの経験
ポイントアジア・ドットコム(以下ポイントアジア)は四月二十日に正式操業したばかりの新会社だ。六十社以上の子会社をもつタイの複合企業、ロックスレイによって二月に設立された。
親会社のロックスレイは六年前にロックスインフォを設立してインターネットビジネスに参入。主にインターネット接続サービスを提供し、会員数では業界二位の大手となった。しかし先進国でインターネットが様々なビジネスに利用され、新サービスも急増していることから、ロックスレイはインターネットビジネスを総合的に行うポイントアジアを新設した。現在ではロックスインフォも、ポイントアジアの子会社の一つになっている。
ポイントアジアのヴィヴァトン・ヴィチットヴァダカン最高経営責任者(CEO)は「ポイントアジアのビジネスは大まかに、接続サービス、コミュニティー、ポータルビジネスの三分野に分けることができます」と言う。
接続サービスはロックスインフォが行ってきたもので、今後も同社が接続の安定性、スピードなどを改善していく。一方の、コミュニティー、ポータルビジネスは新ビジネスでポイントアジアが合弁事業や独自事業として取り組んでいく。
「最初は主に利益の上げやすいBtoB(企業対企業)に力を入れていきます。BtoC(企業対顧客)は、ロックスインフォが二年前からショッピングモールなどを行っていますが、まだ市場が小さく本格的な離陸までに時間がかかりそうだからです」
ポイントアジアが狙う具体的なビジネスは業界受発注ネットワークの構築だ。その有力候補としてタイに約二千店舗あるガスステーションの石油売買がある。ガスステーション
は、例えばシェル提携店なら販売する石油の五〇%をシェルから購入しなければならないが、残りについては各店が購入先を選択できる。この自由調達部分についてインターネッ
トを通じた売買が期待できる。各店は現在、ファックスを使った受発注をしているため、能率が悪い。
この他に業界ネットワークの構築できる分野として、建築資材、医療製品、あるいはタイヤ生産に必要な化学素材であるカーボンブラックなどがある。これらは国内ネットワークだが、世界的な業界ネットワークとの接続も視野に入れている。
ポイントアジアは近隣国にもビジネスを拡げていく。すでにインドネシアとベトナムで合弁事業を開始した。インドネシアでは、同国最大のパソコン販売会社、メトロデータと提携してインターネットサービスを提供している。
ベトナムではEコマースのポータルサイトを立ち上げる。ベトナム戦争の経緯から米国に多くのベトナム人が移住したが、これら米国在住ベトナム人と本国に残った親類との関
係は今でも強い。ちなみに米国からベトナムには年間二十億ドルもの送金がある。そこで両国のベトナム人を結ぶポータルサイトを現地の新聞社と共同で立ち上げた。このサイト
を使ったEコマースの拡大にも期待している。
ポイントアジアには、パソコン普及率の低いタイでインターネットビジネスを開拓してきた経験がある。アジア諸国は平均所得が低く、タイの経験はノウハウとして生きてくる。これは先進国企業にない強みだ。将来的にはインドという大市場もターゲットに入れている。
途上国開拓のノウハウ
では途上国ではどのようにインターネットビジネスを開拓したらよいのか。まず最大のネックといえるパソコン普及率の低さをカバーするため、何とインターネットカフェを利用する。タイのパソコン利用者の六〇%以上が学校でIDを提供された大学生と見られるが、自宅にパソコンがある学生は多くなく、インターネット接続には学校かインターネットカフェのパソコンを利用しているようだ。
ヴィヴァトンCEOは「学生は放課後にインターネットカフェに集まり、四、五台のコンピューターを囲んでチャットなどを楽しむようになっています。バンコクだけでなく地方でもインターネットカフェが非常にたくさんある。中には百台以上もコンピューターを備えているところもあります」という。
そこでポイントアジアではフランチャイズを始めた。インターネットカフェを開きたい投資家が希望すればパソコンやモデム、プリペイドカード読取機の導入を資金面で支援する。
インターネット普及のもう一つの障害となるのが料金支払方法だ。タイではEコマースの主な支払い方法であるクレジットカードが先進国ほど普及していない。このためポイン
トアジアでは第一ステップとして、プリペイドカードの利用を促進している。現在バンコクの約百店舗のインターネットカフェで同社のプリペイドカードが利用できる。
第二ステップは、このカードを自宅で利用できるようにすることだ。自宅にパソコンのある人はインターネットを利用した分だけ、プリペイドカードで支払うことになる。この
際はカードの番号を打ち込んでもらう。こうすれば利用料金の焦げ付きがなくなる。
第三のステップはカードを無すことだ。これはすでに地方電話会社(TT&T)と協力してチェンマイでテストをしている。自宅の電話番号とインターネット利用番号を入力すれば、インターネット料金が通話料金に自動的に組み込まれる。
ナスダック上場を狙う
「タイ政府の一年半くらい前からEコマースを奨励するようになりました。特に商業省はオンラインを通じた輸出拡大を期待し、会議やセミナーをよく開きます。しかしシンガ
ポールやマレーシアの政府に比べるとインターネットの促進に熱心ではありません。政策的な優先順位が低く、特に投資面で遅れています」
タイではインターネットビジネスの規制が強く、普及の足を引っ張っているとされる。このため政府はインターネット自由化など、関連する六法を国会に提出しており、年内に
は法制面で整備される見通しだ。しかし財政難の政府に資金面の支援を求めることは難しい。 そこでポイントアジアでは、外国企業誘致と株式上場によって独自資金を調達する。
外国企業誘致の場合、現在は米国企業が中心だが、アジアの企業も興味を示している。五月三日にはシンガポール・テレコミュニケーション(シン・テレ)がポイントアジアに二千三百万米ドル出資して三一%の株式を所有することを発表した。
「資金を得るには良いパートナーを見つけることが大切です。我々は資金だけの場合は受け入れません。他の契約用件を重要視しています。我々に興味のあるノウハウを持った
戦略的パートナーを選びます。たくさんの企業が出資を申し込んできており、選択権は我々にあります」
一方、株式上場では米国のハイテクベンチャー企業向け株式市場であるナスダックで七月初めに上場する計画だ。すでに四月二十四日に米国会計基準(GAAP)を満たした書類を揃え、米国証券取引所(SEC)に提出した。審査には約二ヵ月を要する。
「我が社は投資先行で経営は赤字です。また設立後、間もない。このためタイ証券取引所には上場できません。最近、ベンチャー企業のための株式市場ができましたが、そこに上場しても資金が集まるとは思えません。最初にナスダックに上場し、そこで実績を作ったらタイ市場にも上場するかもしれませんが」
タイのインターネット利用者数は現在八十万人から百万人。毎年六〇―七〇%のペースで増えている。ISPの競争激化で利用料金が三割程度下がっており、今年は一〇〇%増加して年末には二百万人になると推計されている。
タイ語サイトも四、五年前まではあまりなかったが、現在では増えてきた。サヌックドットコム、レモンオンラインドットコム、ジョージャイドットコムなど人気サイトも少なくない。
また、バンコクだけではなく地方でも普及してきた。例えばロックスインフォはタイ全七十六県中三十六県に接続ポイントを持っている。会員も四〇%がバンコク以外の地域に
住んでいる。
現在のインターネットの利用目的はEメールやチャットなど大きなビジネスには結びつきにくいものだが、サービスの充実によって近い将来タイのインターネットビジネスは意外な発展を遂げるかもしれない。
(水谷 昇 記者)
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