アジア開発銀行 第33回総会 NGO・農民、抗議フォーラムを同時開催
「水の有料化」など農業改革に強い懸念
日本政府 貧困削減基金を創設
タイ北部チェンマイ県で五月六日から開かれていたアジア開発銀行(ADB)第三十三回総会が八日に閉会した。ADBは従来、インフラストラクチャー整備などの開発に重点を置いていたが、昨年、「貧困削減」を中期活動戦略の目標として強く打ち出た。今回は新方針設定後初の総会となっている。一方、NGOグループはADB借款の影響を市民の立場から話し合うとして、総会中に用意されたセッションには参加せず、独自に『ピープルズ・フォーラム二〇〇〇』を開催した。また、住民グループは総会に合わせて抗議行動を展開、会場となったウエスティン・ホテルは、同行のタイへの融資に反対する貧困農民数千人のデモ隊に取り囲まれた。
チェンマイでは五月三日から五日にかけて、NGOが主催する『ピープルズ・フォーラム二〇〇〇』が開かれた。市民など約七百人が参加した同フォーラムでは、ADBの融資に伴うさまざまな問題が話し合われた。
タイNGOを中心としたグループは「ADBのテーブルではなく私たちのテーブルで話し合う」としてADBの設定したNGOとの話し合いの場に参加することを拒否、フォーラムにADB理事らを招待した。影響住民からの報告を聞く場には、アメリカ、ドイツ、オーストラリアの理事が出席。しかし、ADB最大のドナー国である日本の理事は会場に姿を見せなかった。
この話し合いでは、住民からサムットプラカン県の汚水処理施設の影響が報告された。住民は、汚水による漁業への深刻な影響、プロジェクトをめぐる汚職、当初の計画から大きくプロジェクト地が変更になったにも係わらず環境影響評価が行われなかったこと――などを訴えた。
これに対し、アメリカの理事は「ADBの環境・貧困削減・ガバナンス(統治)という政策に違反していれば大きな問題であり、私たちは深刻に受けとめている」と語り、住民側にとって問題解決に期待を持たせる友好的な雰囲気で話し合いが終了した。
この事業ではADBと国際協力銀行(旧海外経済協力基金)との協調融資が行われており、日本も関係が深い。同フォーラムには千野忠男アジア開発銀行総裁も招待されていたが、総裁は多忙を理由に欠席している。
また六日には住民グループ三十八団体からなるネットワークの連名で要求事項を伝える書簡がADB副総裁に手渡された。この中で同グループは、
○ADBの提案する社会構造改革はタ イの教育・医療を民間の手に委ね、公 共サービスの有料化を招く。
○サムットプラカン県の汚水処理施設 は環境を破壊し、周辺住民の生活に 影響を及ぼしている。
○農業生産構造改革事業(農業セクタープログラムローン)の三億ドル 借款の条件は水使用税の徴収である が、これは水を商品として扱うこと につながり、現金収入の少ない農民 にとって死活問題である。
といった点を指摘。この書簡の中で同グループは、基本的には全ての借款の撤回を要求しているが、特に前記三項目への緊急対応をADBに迫り、七日の正午までの回答を求めた。
翌日、同グループはチェンマイ市内をデモ行進、総会会場であるウエスティン・ホテルに向かった。この抗議活動には、主催者発表で四千人という多くの人々が集まると同時に、警官隊など二千人以上が配備された。
抗議活動に参加した住民の多くは、いわゆる貧困層に属する農民であった。農民は水使用税に非常に不安を持っており、「水が有料化されたらもう終わりだ」と話す老人もいるなど、農業改革に対する懸念は強い。今回、ADBという農民にとってなじみの薄い機関に対し、抗議活動が激しくなったのは、この「水」問題が大きく影響したとみられる。
当初、「デモ隊がホテルを包囲する」「抗議の自殺者が出る」――などといった噂が飛びかい、事態は緊迫。抗議活動が過激化するのを恐れた日本のNGOグループが中心となり、ADBが住民との話し合いを設定するようロビー活動を行った。
ADB側は今月中に調査委員会を設置することを書面で回答したが、署名はデモ側の求める総裁のものではなく、副総裁のものであった。このためデモ側は、総会閉会とほぼ同時に抗議活動を終了する一方で、要求が聞き入れられなかったとして、ホテル前でADBからの書簡とその旗を燃やし、ADBが予定しているタイ・オフィス開設に「あらゆる手段で反対する」と宣言している。
日本政府は貧困削減基金をADB内に設け、百億円を拠出することを表明した。これは、アジアに約九億人いるとされる「一日一ドル未満(購買力平価)で生活する」貧困層を減らすというADBの戦略を側面から支援するためのものである。実現のため、ADBは人的資本の整備、マイクロクレジット(小規模金融)への投資、統治の改善および意思決定への市民参加に取り組むという。
しかし、同時に、農村経済を変革するには内外の競争を促進し、市場の自由化が必要であるともしており、自由化によりさらに生活が苦しくなると考えるタイ農民は、タイ政府がADB借款ですすめる予定の農業構造改革に強く反発している。
ある日本のNGOのメンバーは「日本はADBの最大の出資国で、財源は私たちの郵便貯金や年金基金からも出ている。そのADBに対しこのような抗議が起きていることを真摯に受け止めるべきだ。もし総裁自らが住民と対話する姿勢を見せてくれたら、これほど抗議活動は激しくならなかったのでは」とコメントした。
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