バンコク 覚醒剤中毒者、物乞いを殺人
カンボジアから密入国、上京13日目の悲劇
「パホンヨティン通りの歩道橋の上で老婆が死亡している」との通報が三月十日早朝、バンコク都内ドンムアン署に入った。
同警察署員が急行したところ、現場はすでに人だかりの山。被害者である物乞いの老婆は、右頬を凶器で強打されており、顔面グチャグチャの状態で仰向けに倒れていた。周辺には物乞い用のプラスティック容器、汚れた布バック、サンダルなどが散乱していたほか、長さ一メートル、太さ六センチほどの血がついた木材も落ちていた。また警察官が遺体を検分したところ、洋服の裏側に総額で千五百二バーツ五〇サタンの紙幣とコインが隠してあったという。
現場近くで物売りをしていた男性は、「体格のよい二十五歳ぐらいの男が木材を片手に、歩道橋を上っていってから、十分くらいしたところで、ひとりの女性が『上でケンカが始まった』と叫びながら駆け降りてきた。そこで様子を見にいくと、すでに男はおらず、老婆が血だらけで倒れていた」と証言している。また男性は薬物中毒のような様子だったという。
警察では覚醒剤で酩酊状態にある犯人が老婆を殺害した後、空き缶の中の小銭と布袋のなかの日用品を盗み逃走したものと断定、捜査を進めることにした。
そして一夜あけた翌十一日には、三十歳になるカンボジア人女性チャンナさんが、五歳になる男の子と三歳の女の子を連れて、ドンムアン署に殺害された女性を引き取りにきた。
チャンナさんは涙ながらに、「殺されたのは私の母親です。バンコクで物乞いを始めて十三日になります。いつもなら母親は午後五時には帰宅するのですが、その日は午後八時になっても戻らず、そのため母親の〃職場〃を訪ねたところ、その周辺に血がこびりついているのを目にして、腰が抜けてしまいました」と供述している。その後、この様子をみていた付近住民が、事情を説明、百バーツを恵んだうえで、警察署への行き方も説明してくれたということだ。
チャンナさん親子がタイに密入国することになったのは、カンボジアでフンセン派の軍人だった夫が、撃たれて死亡したことによる。三人の子供をかかえて路頭に迷ったチャンナさんには、タイに密入国、最初は国境地域で働いていたが、その後、物乞いをするためにバンコクに移動してきたという。
母親を失い落胆するチャンナさんであるが、密入国容疑のため逮捕を逃れることはできず、取り調べの後、強制送還されることになる。
内務省麻薬制圧委員会では先頃、麻薬蔓延の現状をまとめているが、そこでは「改善がみられない」と結論づけている。特に若者への浸透が危惧されているほか、ミャンマー国境地帯からはいまでも麻薬・覚醒剤が大量に供給されており、制圧がまったく追いつかない状況ということだ。
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