バンコク都庁
出稼ぎ象の帰郷推進
飼い主「地方は餌不足」と抗議
バンコク都庁は今月十日より、都内を歩き回る象の取り締まりを強化。警察と協力して保護した象とその飼い主を地方の居住地へ送還している。バンコクでは九五年二月より、象の歩行が禁止されているが、刑罰を伴う厳密な取り締まりは行われていない。このため通行人に餌を売って象に食べさせる「出稼ぎ」が横行しており、事故の危険性や象の健康への悪影響が指摘されている。
バンコクでは今月五日、象の飼い主がバンコク都庁の「象締め出し」に抗議して象と共に都内主要道路をデモ行進した。飼い主らはバンコクに出稼ぎに来る理由として、地方における森林の減少を挙げている。自然の餌が減少した上、伐採禁止で象が従事していた木材搬出の仕事がなくなり、高額な餌代がかかる象の飼育を続けるには出稼ぎに行く以外ないという。
バンコクでは一日歩き回れば千バーツ近い収入を得ることができる。都庁地域開発局のチュンポン・ポンラック副局長は、これが高収入の商売として飼い主の間で定着していることを指摘。出稼ぎは「地方での飼育が困難」との理由だけではないとしている。「車や人が多いバンコクの環境は象の飼育に適さない。交通の障害となり、渋滞や事故を引き起こす可能性もある。地方に行けば餌はあるはずなので、とにかく早く帰った方がよい」と語っている。都庁では夜間、象にライトや反射ステッカーを付けることも要請しているがほとんど守られていない。
同副局長によれば、現在都内にいる象は二十頭から三十頭。今回の取り締まりでは十六日現在、十九頭が元の居住地に送還された。保護された象は年齢、飼い主の身元などが記録され、再び上京しないよう監視を受ける。都庁は昨年十月にも取り締まりを計画し、飼い主が帰郷を拒否した場合は東北部スリン県の保護施設に象を送る予定だったが、施設の受け入れ準備が整わなかったため中止している。
スリン県は国内で最も多く象が飼育されており、毎年十一月の象祭りには全国から数百頭の象と大勢の観光客が集まる。しかし近年、象の餌場となる天然林が大幅に減少し、多くの象がバンコクなどの都市に出稼ぎするようになった。同県のキティパット・ルンタナキアット知事は植樹により象の餌場を増やすよう森林局に資金援助を要請中。また同県の象の飼い主は、今年タイ政府観光庁が推奨しているエコーツーリズムの一環として、同県に象を集めた自然動物園を設立し、観光客を誘致するよう提案している。
北部ランパン県で象専門病院を運営する象の保護団体「象の友基金」は、今回のバンコク都庁の取り締まりに賛同している。その理由として、バンコクやその近郊県で溝にはまったり、ガラスや金属を踏んで負傷する象が後を絶たないことを挙げている。元の居住地で飼育が困難となった象については、自然の餌が東北部より比較的多い北部に集めて保護することも計画している。
動物園協会理事とタイ象基金の役員を務めるアロンコン・マハノップ獣医によれば、出稼ぎのためバンコクに象が連れて来られるようになったのは約十年前。但し当時はまだ地方に自然の餌が豊富だったため、その数は少なく、滞在期間も短かったという。スリン県で象が食べられないユーカリの植林が進んだことも飼育が困難になった原因とされている。同獣医は「象に食物のある定住地を与えることが先決。政府がそのための予算を支出すれば、バンコクを歩き回る象はいなくなる」と述べている。
都市の路上以外で象の飼育を可能にするため、これまでさまざまな案が出されてきた。飼い主の多くは観光施設での雇用を望んでいるものの需要が不足しており、既に多くの象が集まっているパタヤやプーケットなど主要観光地では受け入れが困難となっている。バンコクでは観光庁の協力で、郊外に象を集め観光客を誘致する計画もあったが、都心から離れていたため象も人も集まらず失敗に終わった。また先日観光庁主催の象フェアが行われたアユタヤ県は、教育省芸術局と共同で観光客を乗せて遺跡を巡る「象タクシー」の設立を検討。農業省森林局は、森林の監視員として象とその飼い主を雇用したいとしている。
しかしいずれも予算や法律の規制が問題となり具体化していない。象に関する法令は現在バンコク都庁だけでなく、内務省地方行政局、農業省畜産局及び森林局、運輸通信省国道局、警察庁が定めている。これら機関の調整が困難なため、出稼ぎや道路の歩行について厳しい規制ができない状況となっている。
国内で飼育されている象は二千頭から三千頭。飼い主は各県当局に登録するよう義務付けられているが、一九三九年に制定された現行の輸送手段動物条例では、登録は八歳以上の象のみ。居住地の制限や保護管理に関する規定もなく、違反の罰則は五十バーツまたは十日以内の懲役にすぎない。また登録してあっても個体の識別が難しく、複数の象を所有して飼育を農民に委託することも可能になっている。
(小林ゆかり記者)
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