経 済

私の経営法

最高のデザインで驚いて戴きたい
S PINE INTERNATIONAL
横松拓史さん(33)


 「異国で自社を立ち上げる」―タイでもこの大望を実現する日本人は多い。駐在員であれ現地採用者であれ、一旗挙げようとビジネスチャンスを伺う者も数多いことだろう。だがグローバル化による競争の過熱、そして九七年に経済危機がタイを襲ってからは、多くの日本企業は打撃を受け、個人経営者に掛かる負担も重くなった。しかし一方で、その状況の中ビジネスチャンスを掴んだ者がいるのも事実だ。今回は、バンコクで宝飾業を営む横松さんを紹介する。


 横松さんが自社を立ち上げるきっかけとなったのは、それまで働いていた大手宝飾業者「ワカツキ」が事業縮小を図り、九九年一月にタイ撤退を決定したことだった。石の買い付け及び小売担当として、九二年にタイへ派遣されていた横松さんは、迷わず独立の道を踏み出すことを決意した。

 「実を言うと、その少し前から私は独立を考えていたのです。ですから撤退の話があった時は、正直言って奇遇だなと思いました。そこで目を付けていた優秀なスタッフに声をかけ、敏速に立ち上げ準備を進めることが出来たわけです」

 従業員は全十二名。うち九名が制作に拘わっている。工場内を見学させてもらうと、色石のカット、石留め、研磨など各セクションで熱心に作業を進める職人の姿があった。芸術的センスが問われる手作業であり、組み立て工場で働く者と比べ、商品に対する眼差しが全く違うのが印象的だった。

 オーダーは全て日本から受けており、毎月およそ百五十個のプラチナ及び二〜三百個のゴールドの商品を輸出している。また工場の一階にショールームを設け、小売も行っている。

 規模的には小さい工場だが、手間の掛かったデザインの宝飾品を日本市場価格より割安で制作し、オーダーから約二週間で納品する能力を備えている。横松さんは、これが自社のウリであり、今の規模は経営的に見ても理想であると話す。

 「日本以外にも輸出をしている大手では、二百名ぐらいの職人が働いているところもあります。ところが宝飾は国によって趣味が大変異なり、石の選択からデザインに至るまで全て変えなければならないので、現時点ではマーケットや工場の拡大は考えていません」

 一般的にタイ人は派手なデザインが好きで、インクルージョン(石の中にあるキズ)のある無しより、大きさにこだわるという。一方日本人は、石では透明度が高く、控えめなデザインを好むらしい。

 「さらに言えば、日本人はリングの指触りにもこだわります。色合いにしても、例えばルビーならば、欧米では派手なきつい赤、日本では柔らかいピンクがかった赤に人気があります」

 横松さんは、日本市場を狙った宝飾品の商品開発に向けて、こういった日本人の持つ趣味の傾向を社員に説明し、制作側が商品をより理解できるよう育成に努めている。またそれと同時に、自分の求める石を供給する買い付け先のネットワーク作りにも力を入れている。

 「まだ一年も立っていない会社ですが、「ワカツキ」での経験が今の自分を支えていることは間違いありません。ただ経営者としては全く経験がないので、今はとりあえず判らないことは判らない≠ニ認め、信頼できる従業員と納得いくまで調べるよう心掛けています」

 近年、日本における宝石需要の落ち込みは、タイの宝石貿易業に打撃を与えた。九六年に七千六百九十七億バーツであった日本の宝石輸入総額は、九八年には五千三百九十六億バーツまで減少した。この影響で、タイから日本への輸出額も半分以下に下落し、市場占拠率も三・五五%から二・八%に減った。

 ところがこの数字は、九九年から上昇の傾向を見せ始めている。

 九九年一月から八月までの日本の宝石輸入総額は、三千九百八十四億バーツ。これは前年同期比で二三・六三%の伸び率で、タイの宝石輸出業者が日本市場へ再進出する絶好の機会を示している。

「我社自慢の商品とサービスで、一人でも多くのお客様を驚かせたいですね。また当地での小売も、コンスタントにやっていきたい」 

(工原 友博記者)



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