総 合

貧困者への低利融資に追加予算
野党 政府の貧困政策を非難

「単なる農村票集めにすぎない」


サナン内相「職権乱用」の批判

 タイの首都バンコクで開催されていた国連貿易開発会議(UNCTAD)総会が十九日、バンコク宣言と行動計画を採択して閉会した。今回総会に参加した各国代表は異口同音にタイの経済再建を称賛したが、タイのマスコミは「リップサービスにすぎない。貧困者の生活はまったく改善されていない」と、冷ややかな受けとめ方だ。このなか、政府は貧困者対策として二十九億バーツの追加予算を閣議決定しているが、野党は「農村票集めにすぎない」と警戒心を剥き出しにしている。また貧困政策にからむ内務省内部の人事異動でサナン内相の「職権乱用」が取り沙汰されるなど、総選挙を控え、チュアン政権はまたひとつ野党に「弱み」を握られることになってしまったようだ。

 「UNCTAD総会参加国はタイが経済再建に成功したと称賛するが、これを言葉通りにとらえてはいけない」――有力タイ語紙『マティチョン』(二月十四日付)は社説でそう警告するとともに、「経済指標の上では経済好転の兆しがみえているが、貧困層の生活はあいわらず苦しい。仕事もなく、病院に行くお金もない。この現実に目を向けないかぎり〃金持ちに優しく貧乏人に冷たい政府〃との酷評は消えないだろう」と論評する。

 過去二年間で、生活苦を訴えるために地方から上京した農民はかなりの数に上っているが、このうち七人が首相府の前で病死。まさに命を削っての直訴となっている。農民デモがある度に、チュアン政権内部からは「バックに特定政党がついている」と決めつける声が上がるが、タイのNGO(民間援助団体)に関係している日本人女性Aさんは「貧困地帯の人々は本当にギリギリのところで生活している」と訴える。そして政府のこの貧困政策を野党は徹底的に批判、年内に予定されている下院総選挙での農村票獲得をねらうことにもなっている。

 この状況のなか、政府としても貧困者対策への真摯度をアピールする必要にせまられてきたのか、先日の閣議では、『貧困者救済プロジェクト』第二期計画(一九九八〜二〇〇一)への追加予算二十九億バーツが承認された。

 同計画は、事業を営もう、また転職などのために習い事をしようという貧困者に低利でその資金を融資しようというもので、年利一%、返済期間は五年となる。融資手順としては、まず内務省地域社会開発局が貧困村を選別し(対象になるのは一人当たりの年間所得が一万五千バーツに達しない農民の多い村)、二十八万バーツを支給。これを村役場が管理し、審査に合格した者に割り振ることになる。

 九三年から九七年までが第一期で、目標融資件数は一万千六百九十八件。そして第二期は九八年から二〇〇一年までで、目標融資件数は二万八千三十八件となっている。

 しかし経済危機のあおりで予算捻出が難航、すでに第二期の折り返し点に達しているにもかかわらず、これまでの融資件数は目標の約一八%(四千八百七十八件)に過ぎない。このため内務省では、貧困問題軽視の悪評を払拭する意味もあり、特別予算を申請したという面もあるようだ。

 チュアン首相は「貧困政策としては実際に資金を分配するのが一番」と計画を全面的に支持しているが、野党側は「貧困者救済にかこつけた選挙運動にほかならない」と非難、「(同計画は)すでに第二期に入ってから二年以上が過ぎており、これまで特に話題にもならなかったのに、下院総選挙が迫ったこの時期に急に追加予算を決定するのは解せない」と不信感を露にしている。

 この一方で、サナン副首相兼内相はこの貧困政策がらみの人事でマスコミをにぎわすことにもなっている。

 というのも、このプロジェクトを実質的に担当するのは内務省地域社会開発局々長のポストにサナン副首相兼内相(民主党幹事長)に近いチャデット・カンチャナブリ県知事が異動してきたことで、「職権乱用」が取り沙汰されることになった。野党側は「民主党の都合にあわせて金をばらまくつもりか」と非難。またタイでは公務員の異動は九月というのが慣例になっていることから、チャワリット新熱望党党首は「長年に慣行を壊した」と罵っている。

 これに対してサナン氏は「内務省の高級官僚三人が上院議員に立候補するため辞職し、欠員ができたため季節外れの人事異動となった」と説明するが、今回発表された内務省高級官僚の人事異動は十人、また一部で民主党寄りの人物が優遇されるなど、いやでも注目を集めることになってしまった。

 サナン氏は就任してから約二年で二百五十回、県知事の人事異動を断行している。これは内務省の新記録であり、「職権乱用」の批判を生む根拠ともなっている。内務省関係者はこぞってサナン氏を擁護しているが、それでも野党に付け込むすきを与えたことは事実であり、また民主党のイメージダウンに一役かうことになったのも否定できないだろう。

(倉林義仁記者)



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