総 合

学生の感染が社会問題に

タイのエイズ事情
保健省 「お気軽」な性行動に警鐘


貧困者 薬代が払えず治療放棄

 タイ保健省伝染病管理局では、タイのエイズ感染者を約百万人と推定している。官民あげての啓蒙活動により、感染者は減少傾向にあるものの、いぜんとして大きな社会問題であることには変わりがない。このなか新たなハイリスクグループとして問題視されているのが十代後半から二十代前半にかけての学生だ。現代の若者が性に対して解放的になっているとのデータもあり、これを重くみたチュアン首相は、早急に対応策を検討するよう指示している。一方、薬代が高額なため、治療をあきらめる貧困者が多いことも、エイズ患者に対する過剰な偏見を引き起こす一因となっており、NGOなどからは、薬価引き下げのための政府介入を求める声も高まっている。

 保健省のデータをみると、タイ国内のエイズ感染者が減少傾向にあるなか、全感染者に対する学生の感染者の割合が年々増加していることがわかる。職業別感染者数(保健省資料)でも、昨年の感染者数で、売春産業従事者を大きく上回るなど、保健省としても学生へのエイズ啓蒙に本腰を入れざるをえない状況になっている。

 男女の初体験が低年齢化していることもこの傾向に拍車をかけることとなっているが、その背景にはメディアを通じて流れ込む外国文化の影響力がある。特にファッション、行動形態に与える影響はかなり大きいようだ。

 先月末にはカンチャナ副教育相が、タイ人に人気の歓楽街を抜き打ち調査。十八才未満の少女が露出度の高い服装で、酒・タバコに興じている姿に驚いていたが、この露出ファッションは「すすんだ」若者の間で流行しており、「性意識の乱れを助長する」と危惧する声も多い。

 一方、これが大学生になると、さらにオープンになっているようで、「セックスフレンドをもつ大学生が増加している」との調査結果もでている。某地方有名大学近くの薬局では、大学の授業のある時期には避妊薬の売上が急増するという。さらに女子大生が早朝、モーニング・ピル(性行為直後に服用する避妊薬)を購入するために開店を待ち構えることもあるようで、〃婚前交渉のタブー視〃はもはや過去の遺物となりつつあるようだ。

 また保健省で十五才から二十五才の女性工場労働者五千人を対象に「性体験」を調査したところ、約六〇%が「すでに経験がある」と回答。さらにコンドーム着用率では「常時使用している」と回答したものは二〇%にすぎなかった。タイでは妊娠中絶が法律で禁止されているのだが、それでも年間に約三十万人の女性が違法中絶を受けており、避妊に〃鈍感〃な若いカップルが多いことを裏付けている。

 ここで、事態を重くくみたチュアン首相は関係機関に対して対応策を早急に検討するよう指示、さらに保健相もコンドーム使用の徹底、予防ワクチンの開発などに力を入れる方針を明らかにしている。

薬価引き下げ求めるNGO

 タイでエイズ感染者が多いのは農業従事者と工事現場などで働く肉体労働者。昨年はこの二業種で全感染者の約六七%を占めた。これは麻薬注射のうち回しのほか、泥酔・無知などの理由でコンドームを使用しないことが多いためのようだが、ここで深刻な問題となっているのが治療費用だ。

 現在タイで、エイズの治療薬として使用されているのはAZTとDDI、これらは併用することで身体の免疫力を高め、発症を抑制する効果を発揮する。ところがこの薬代は一ケ月あたり約六千バーツとかなり高価。タイで支払い能力のある感染者は全体のわずか五%に過ぎず、残りの九五%は「ただ死を待つだけ」。このなかには、前述の農業従事者、及び肉体労働者の大半が含まれている。

 AZTは九五年からタイ薬事公社が製造しているため、それまで四十バーツだった販売価格が十二バーツにまで値下がりしている。

 しかしこれに対してDDIは、アメリカの製薬会社が製法の特許権をもっているため、薬事公社が勝手に製造するわけにはいかず、これが障害となり同薬は一錠四十七バーツと、実に高価な薬となっている。DDIは一日に三錠の服用が必要であり(AZTは五錠)、これが治療費を大きく引き上げる原因になっている。

 薬事公社は、「すでにタイ国内での製造は可能であり、仮に特許の問題がなけれ一錠二十五バーツで患者に提供することができる」としており、これが実現すれば、治療費は二千バーツも節約されることになる。このため民間援助団体(NGO)などは製薬会社の特許取り消しを政府に強く求めるとともに、政府の医療費補助もあわせて要求している。

 現在、チュアン政権は来年度予算の算定作業に入っている。ここで、どの程度の予算を保健省に回すことになるか、チュアン政権のエイズ対策への真摯度が問われることになりそうだ。

(倉林義仁記者)



[BANGKOK SHUHO]