タイ政局 10月解散説が有力に
早期解散には消極的な連立与党
不手際目立つ選管委
年明けよりタイ政界では解散時期に関する議員らの発言が活発になっている。先日も、政権党である民主党幹部が「Xデーとしては十月五、六日が適している」との見解を示し、これがマスコミに大きく取り上げられた。現政権の任期は今年の十一月十七日、チュアン首相は任期切れを待たずに解散すると明言しているが、連立与党各党は早期解散に消極的であり、また首相自身も「まだ仕事が残っている」と続投に意欲を示していることから、現時点では先の十月解散説ががぜん現実味を帯びることになっている。
タイも日本と同様、下院解散権は首相にある。チュアン政権の任期は今年十一月十七日まであるのだが、「任期をまっとうすることはない」と首相が公約していることから、解散時期を巡り、さまざまな憶測が流れることになっている。
このなか、民主党のチャムニ副幹事長(副内相)はタイ南部パタルン県で開かれた民主党懇談会で私見としながらも、「下院解散は十月五、六日、総選挙は十一月中旬の公算が大きい」と述べ、マスコミの注目を集めることになった。
チャムニ氏はその根拠として、(1)タイ経済は好転の兆しが出ているが、いましばらくの〃治療〃が必要(2)新憲法の規定により選挙は内務省に代わり選挙管理委員会が仕切ることになっているが、まだ大舞台を経験しておらず、政府のバックアップがどうしても必要(3)新会計年度は十月一日からスタートするが、その前に二〇〇一年度予算案を可決することが必要――との理由をあげている。
来年度予算に関して、野党側は「現与党の選挙区に有利な予算配分をしかねない。解散・総選挙後に発足した新政権に一任すべき」と警戒心をむきだしにしているが、チャムニ副内相は「新政権ができても組閣などで時間がかかるのはタイ政治の常であり、とても間に合わない」と反論している。
一方、連立与党内の反応であるが、与党第二党チャートタイ党バンハーン党首(元首相)は、「チャムニ副内相の私見は現実味がある」と暗に賛同、早期解散には消極的姿勢を示している。
さらに与党第二党・国家開発党コン党首(副首相兼保健相)も、「解散は十一月一日以降、総選挙は年明けになる可能性もある」と発言、早期解散にはチャートタイ党と同じく否定的な姿勢だ。
コン党首は今後の重要な政治日程として、定年を迎える国軍最高司令官、海・空軍司令官の任命、および県知事の人事異動をあげている。九月に行われるこの人事は中央・地方政治の権力地図に大きな影響を与えるこつになり、最終決定権は軍人事がチュアン首相兼国防相に、県知事人事はサナン副首相兼内相(民主党幹事長)にある。このため九月までは政権の座についていたいところだ。
総選挙での協力体制、総選挙後の組閣を考えると、連立与党、特に与党第二党と第三党の意向を無視することはできない。チュアン首相も「解散を宣言する前にまず連立与党に相談する」としていることから、この両党の意向は、解散時期の決定に大きな影響を与えることになろう。
下院解散権を持つチュアン首相は、これまで解散時期の明言を常に避けてきたが、先日、「まだ中途の仕事も多く、連立与党各党も早期解散には反対している。しかし十一月の声を聞くことはない」と発言、初めて具体的な数字を口にした。
野党第一党・新熱望党のチャワリット党首は「それまで国民が我慢できるかどうかが問題だ」と皮肉っているが、これまでのところ一般市民からの積極的な解散要求はない、というのも事実。政府が致命的な失態を演じない限りは、十月解散説ががぜん有力になってきたといえそうだ。
さらに解散時期の先送りを正当化するものとして、選挙管理委員会の不手際が目だっていることもある。なかでも特に問題となっているのが、上院議員の立候補資格の解釈だ。
今回、国立ラチャパット教育大学の評議会評議員が複数、上院に立候補しているが、選挙管理委員会では国立大学の評議会評議員は憲法で上院議員になることが禁じられている「公職とみなされる者」に該当すると解釈、立候補受け付けを取り消している。しかし、立候補受け付け前に何の説明もなかったことや、新憲法の起草者から「選挙管理委員会の解釈は誤り」との反論がでたことで、論争が巻き起こることになった。
実際に、評議会評議員は名誉職に近く、まったくの無給。このため、ラチャパット大学の評議会議員らは「〃公職〃との解釈はおかしい」として、憲法裁判所の審査を申請している。
今回の上院議員立候補者をみると、間接的・直接的に政党と関係があるとみられる候補者が多く、このため「今回の選挙管理委員会の措置は政党に関係ない有識者を締め出すことになる」との批判が上がっているほか、「選挙管理委員会には憲法の語句を解釈する権限はない」との意見も噴出するなど、同委員会の権限が改めて問われることになっている。最終的には憲法裁判所の判断を仰ぐことになりそうだが、選挙管理委員会に対する信頼が薄れていることは確かで、政府にとっては「委員会の支援」という、早期解散を回避する絶好の理由付けともなっている。
(倉林義仁記者)
|