移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


1996年8月1日(木)=午後=
ノーンオーノーイ小(前編)

 平屋校舎前の木陰に集合した全校児童にむかってプリッサナー先生が口をひらいた。

 「みんな、カオパンサーはどこへ行きましたか」
 「お寺へお参りにいきました」
 「では母の日はいつでしょう?」
 「えーと、……十二日、八月十二日です」
 「母の日にはどんな花をお母さんに贈りますか」
 「ジャスミンの花です」
 「そうです、よく知っていましたね。さあ、向き合って。いつもの『あいさつの歌』をうたいましょう。二回!」

 アリーちゃんもすこしだけうたえているようだ。ちいさく口をうごかしている。ふりつけも胸の前で手をあわせる部分のみできている。

 「じょうずにうたえました。では午前十一時になったらふたたび全員ここにあつまりましょう。きょうはみんなでゲームをします。おくれないように。それでは三班に分散してください」

 子供たちはゴザや本の箱を手分けして各場所へはこび、読書の準備をした。

 五・六年生は、前回プリッサナー先生が採点のために回収した読書ノートの返却からはじまった。児童たちは、かならず胸のまえで両手をあわせ、プリッサナー先生からノートをうけとっている。

 「八月十二日は母の日ですが、お母さんといっしょに住んでいる人は手をあげてごらん?」

 プリッサナー先生の質問に大部分の児童が手をあげた。二十一人ちゅう十六、七人。出稼ぎなどで母親不在の児童は祖父母とくらしている。

 このときアリーちゃんがうつむいたまますわっていると、おなじ班の女の子がひとりアリーちゃんに声をかけた。

 「アリーもお母さんと住んでいるじゃない。ほら、手をあげなきゃ」

 友だちにうながされるとアリーちゃんはそうっと手を上へのばした。

 「お母さんとはなれて暮らしていても、いつもお母さんのことを思っていてくださいね。それでは、まず用紙に自分の名前をかいてから、母の日のカードをつくりましょう」

 プリッサナー先生はそう言いながら子供たちに色鉛筆のはいったカゴとしろい紙などをくばった。

 アリーちゃんが自力で自分の名前をかけると、ノーンオーノーイ小学校の女の先生がおおきな声でほめた。

 「まあ、アリー、じょうずにかけたのね」

 先生の声に五・六年生たちはいっせいに顔をあげ、拍手した。アリーちゃんははずかしそうに下をむく。女の先生がつづけた。

 「アリー、つぎは名字もかいてごらん」

 そしておなじ班のビタヤー君に言った。

 「きょうは君がアリーの面倒をみてあげて。アリーができないことはあなたが手伝ってあげなさい」

 「はい」

 ビタヤー君はこころよく返事をした。

 カードづくりをはじめて三十分ほどすると、みんなだいぶ完成にちかづいてきた。花・山・樹木・山間からのぼる(あるいはしずむ)太陽など自然の風景画をえがく子がめだつ。また午前の小学校と同様ハートの絵柄も多い。

 用紙の上部三分の一ほどを波形にきりはなし、そこへ「ぼくからお母さんへ…」といった内容の文章をかきこんでから、絵をえがいたほうの下部三分の二ほどの紙にはりつけて立体的なカードをつくっている子がいた。

 全般的にここの小学校の子供たちの作品はうまい。絵がこまかく、色のぬり方・文章・構図もしっかりしている。

 まわりの子供たちにくらべるとやや雑だが、アリーちゃんも木や鳥の絵をかいている。用紙の右のほうに、二本の樹木を茶色の色鉛筆でひと筆書きのように描き、緑色にぬった円のなかに茶色の枝・緑色の葉のちいさな木を一本だけ左側にかいた。また中央には鳥(鶏か?)らしきものが二羽みえる(図参照=筆者注・アリーちゃんの描いた作品を杉浦が模写=)。どことなくさびしげな絵だ。

 アリーちゃんのカードができあがると、女の先生がみんなに言った。

 「アリーは自分の名前も絵もじょうずにかけたよ」

 カードづくりがおわった子供から順次読書へ。アリーちゃんには小学校の女の先生がついて、「とびだす絵本」を読み聞かせしている。ビタヤー君もときおり、自分が読んでいる動物の図鑑をアリーちゃんにみせている。  

(続く)

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]