移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年7月26日(金)午前
ノーンオーノーイ小(後編)
三・四年生は三つの組になり、まず「カオパンサーの歌」を練習した。ニッタヤー先生が白板に歌詞をかいておしえた。五回ほど歌詞をみながらうたった。
「男の子のほうが女の子より元気がいいぞ。女の子もしっかり声をだして!」
ニッタヤー先生が女の子たちをはげます。
このあと男女別にうたったが、男の子たちはしっかりうたえた。女の子たちは歌詞・旋律ともまだ完全に覚えておらず、最後の部分は声がちいさくなり尻切れトンボとなってしまった。
「では読書です。きょうはひとり二冊読みましょう。本の読めない子は手をあげてごらん」
トゥー君ら五人が手を上へ。
「読めない子は読める人と組んでください」
読書しないで私語をかわしているとニッタヤー先生の注意がとんだ。
「ちゃんと本を読んでいるのかな? おしゃべりの声しかきこえてきませんよ」
読書がはじまって二十五分ほどたつと、二冊読みおえた子供がでてきた。一時間ちかく読書はつづいた。
一・二年生もだいぶ移動図書館の活動になれてきた。「動物の子供の歌」を練習してから読書にはいったが、みんな読書に没頭している。ときおりクローンゲーオ先生が文字の読み方・言葉の意味をおしえるが、子供たちは自力で読むかしずかに挿絵を見ているかしている。
午前十時五分。読書がはじまり二十分が経過した。まったくさわがず、姿勢もくずさない。おとなしく絵本にむかっている。
クローンゲーオ先生が言う。
「しっかり読めない子がまだ多いのですが、どの子も絵本が好きなようです。みんな熱心です」
移動図書館事務所は、とくにまずしい二十人ほどの子供たちへ前回衣類を寄付した。そのなかにわたしの次男の古着(幼稚園時代の制服)をエム君(愛称)という一年生の男の子に贈った。この日その服をさっそく着ていた。役立ってよかった。わたしの顔を見てほそい目をさらにほそめてニコニコとわらう。
服の胸ポケットの部分に次男の名前が刺しゅうでぬいつけたままなのでクローンゲーオ先生がエム君に言った。
「エム、自分の名前を制服にいれましょうね」
するとエム君は顔をあげて、ふたたび笑みをみせた。
エム君はぽっちゃりとしてなかなかいい体格だとおもっていたが、やせ型の次男が幼稚園のときの制服が着れるということは、やはり農村部の子供たちは都市部にくらべて体がちいさいといえる。
三十分弱の読書だったが、子供たちは最後まであきることなく本を読んだ。
このあとプリント学習(「動物の子供の歌」の歌詞を参考にしながら、絵の下へ「猫の子」「アヒルの子」などとかきいれてゆく)をおこなった。どの子供もおおむねできている。子音をひとつ・ふたつ書き落とす子供がたまにいるていど。
ところがエム君はぜんぜんできていない。大きさがバラバラで、グシャッとした文字らしきものが空欄にかいてある。なんと記してあるのか皆目わからない。どうもエム君は勉強が苦手なようだ。
クローンゲーオ先生によると、エム君はまだ自分の名前もかけない。運動やゲームなどの活動は大好きで得意。しかし机にすわった勉強にはまったく関心がない。
合同の人形劇がおわると、子供たちは昼食の時間。自宅へ帰ってたべる子、ビニールの袋に弁当をいれて家からもってきて校舎の一角でたべる子などさまざまである。
木陰で一年生の男の子がふたりならんで食事している。体のおおきいがっしりしたほうはビニールの袋にはいった白米(うるち米)と目玉焼きひとつ。もうひとりの子は桃色のプラスチック製の弁当箱をもってきており、油であげた干し肉(牛肉)をおかずにもち米をほうばっている。
「だれがつくってくれたの?」
わたしの質問に、体のおおきいほうの男の子がこたえた。
「おかあさんです」
もうひとりの子にもきいてみた。
「どこから弁当をもってきたのかな?」
「おうち」ー。
96年7月26日(金)午後
ワングン小・ノーンセ―ンシラー小
いつものとおり国道2号をまっすぐ北へのぼり、コンケーン県ナンポーン郡立病院の前の県道を東へむかった。国鉄の線路をこえてしばらく行ったところで、全面通行止めの立て札がでていた。道路工事ちゅうのようだ。
立て札の前に赤い車がとまっていた。全校児童わずか九人のノーンセーンシラー小学校の先生の車である。めがねをかけた男の先生がなかから顔をだし、あとをついてくるようわたしたちにさけんだ。
移動図書館のワゴン車がこの道をとおることを知っていて、待っていてくれたらしい。赤い車はナンポーン郡の中心部をとおりぬけ、ワングン小学校のすぐちかくまでわたしたちを案内してくれた。
午前のノーンオーノーイ小学校と同様にここでもカオパンサーについてクローンゲーオ先生が全校児童に説明。そのあとカオパンサーの歌を練習してから三班に分散した。
五・六年生は講堂兼食堂の一角で活動をはじめた。大型の長椅子付き机をみんなで外へはこびだし、あいた所へゴザをしいた。
前回宿題にだしておいたぬり絵(イギリス語のプリント)を提出してもらい、もっともじょうずにできていた男の子へプリッサナー先生が色鉛筆をごほうびにあげた。
三十五分間つづいた読書の様子をみていたが、「読書ノートへ日付・本の題名をかきこみ、読書する。読みおわったら本の内容(あらまし)をかんたんに記す」といった一連の作業がどの児童もかなりなめらかになってきた。
三・四年生は、指定席になった感のある運動場中央の木陰に腰をおろした。白板にカオパンサーの歌詞をニッタヤー先生がかき、全員で斉唱してから読書にはいった。
「ひとり二冊は読みましょう。あとで人形劇をしますが、二冊読まないと人形劇をみることができません」
ニッタヤー先生がこういうと、児童たちはとたんに真剣な表情になって本にむかいだした。
ひとりだけ文字をほとんど読めない男の子がいた。モンコン君。
(ニッタヤー先生が読める子に)「君が指で文章をさしながらモンコンに読んであげなさい」
ニッタヤー先生に指名された男の子はモンコン君の横にすわり、一文節ずつ区切ってゆっくりと読みはじめた。そのあとをモンコン君がついて読む。ときどき読み方がはやくなると、ニッタヤー先生が「もうすこしゆっくり読んであげて」。またページのめくり方が乱雑だと、「こらこら、本は大切に。本が泣いていますよ」。読んであげている男の子もあまり流暢でない。ときおりつっかえる。
モンコン君いがいはなれた手つきで読書ノートに必要事項をかきこむなど、しずかに黙読している。
動物の鳴き声をまねているのは一・二年生。クローンゲーオ先生が質問すると、うてばひびくように子供たちのかわいい声がかえってくる。
「鶏の子供はどんな鳴き声かな?」
「ジアップ、ジアップ」
「豚の鳴き声は?」
「ウー(ド)、ウー(ド)」
「雨のすきな動物はなんでしょう?」
「カエル」
「なんて鳴くの?」
「オッブ、オッブ、オッブ」
「木にいる動物はなにかしら?」
「鳥」
「鳴き声は?」
「ジップ、ジップ」
つづいて「動物の子供の歌」を練習してから読書にはいった。幼稚部もまじり、子供たちはおおきなひとつの輪になって本を読む。指で文字をおいながら読む子、絵だけをながめている子、おおきな声にだして読む子、小声でぼそぼそと読む子などいろいろだが、三十分ちかくたっても子供たちはすわってしずかに読書できるようになった。
合同の人形劇鑑賞がおわってから、とりわけまずしい四人の児童へ靴下を一組ずつ寄付した。
杉浦 直樹
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