移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年7月24日(水)=午前=
クアン小
読書がおわり、かたづけて人形劇の準備にはいったころ、アヌーン君とその仲間が四〜五人、人なつっこい顔でわたしに話しかけてきた。
「ネェー、おじさん、写真とってよ」
「だめだめ。また、今度な」
「へエー、この次かあ…」
きょうは何冊本を読んだか、ニコニコわらっている彼らにきいてみた。
「二冊です」
数人のうちふたりの男の子がこたえた。アヌーン君にもたずねた。
「ボクも、二冊」
ちいさい声でボソッと言う。
「本当かあ?」
わたしがにらむと、アヌーン君はいたずらっぽい笑顔で首をすくめた。わたしの見ていた範囲内ではまともに本を読んだ形跡はまったくなかった。
三・四年生とおなじ校舎の廊下にすわった一・二年生。ガヤガヤしゃべっている子やけんかしている子供たちがいる。
「しずかにしなさい! けんかする子は外へでてもらいますよ! はい、目をつぶりましょう」
クローンゲーオ先生は子供たちにめい想させる。児童たちはようやくおとなしくなった。
「アヒルを家で飼っている人?」
めい想がおわり、クローンゲーオ先生が子供たちにきいた。何人かが手をあげる。
「アヒルの子はどうやって鳴くのかな」
「ガープ、ガープ、ガープ」
つづいて鶏・犬・豚・カエルなどの鳴き声もおなじようにクローンゲーオ先生が質問していった。それから「動物の子供の歌」をおしえた。ひととおり歌えるようになったところで読書へうつった。
女の子は二年生を中心に半分いじょうが読書に熱中している。だが男子はほとんど読んでいない。ひんぱんに友人と本を交換したり、本をひらいたままで友だちと話しこんでいる。
読書がはじまって十五分。自力で読書しているのは四人の女の子だけで、あとは全員寝そべってあそんでいたり、本を手にしたままあちらこちらうろついたりしてまことに騒々しい。とても「読書」とはいいがたい。なにしろ絵本がピラピラと上下左右にさかんに動くのがみえるほどである。クアン小学校は読書への関心度はまだ、今ひとつ、だ。
そこでクローンゲーオ先生が四〜五人の男の子をあつめて絵本の読み聞かせをはじめた。これは興味ぶかくきいている。しだいに他の子供たちもよってきて十人ぐらいになる。本を読んでやるとわりあい熱心だ。
プリント学習をおえてから、午前十時五十分高学年・中学年と合流した。
幼稚部も参加しておこなわれた人形劇「お日様の夏休み」は、読書の時間などとうってかわり、子供たちはまじめに鑑賞している。私語はきこえてこない。あの飽きっぽいアヌーン君ですらじっとおとなしくみている。
劇中ときおりクローンゲーオ先生が子供たちにたずねている。
「こちらのあかい人形はなんでしょう? そしてあおいほうはなんだろう」
「太陽! 風!」
児童たちは声をそろえて元気にこたえる。
人形劇のあとの質問では、他の小学校であまりお目にかかれないけっさくな答えがとびだした。たとえば…。
1、幼稚部の子供たちを対象にニッタヤー先生らが問題をだした。
「太陽はいつしずみますか」
「えーと、えー…、朝…」と幼稚部の男の子。
2、劇に登場した五つの人形=太陽・風・雲・鳥・ヤシの木=をあててもらう質問で。
「いまの劇にはどんな人形がでてきましたか」
クローンゲーオ先生の問いに男子児童がさっと手をあげこたえた。
「太陽と雲とイカ、です!」
「ざんねん、イカはいません」(笑)
3、「一年生に質問します。いいですか、一年生ですよ。風の人形は何色かな?」
低学年の男の子がいきおいよく立ち上がって言った。
「水色、です」
「はい、よくできました。ところで君は一年生ですね」
「……二年…」
正解者には鉛筆(ひとり一本)などのごほうびを贈り、十一時二十五分解散した。
杉浦 直樹
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