移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年7月23日(火)=午後=
ドーンハーン小
午後になって風がつよくなりだした。砂ぼこりがときおりまいあがるが、気候はいい。五・六年生はバレーボールコート横の木陰、三・四年生は校舎とバレーボールコートのあいだの木陰、一・二年生は遊具のおいてある一角の木陰と、全学年とも大木の下で活動にはいった。
昼食をとったあとの午後はねむい。五・六年生は眠気ざましにまずかるい体操をおこなった。うたいながら、たったりすわったり、手をあげたりおろしたり。あるいは腰を左右にふってみたり。十分ほどつづいた。
プリッサナー先生が息をはずませながら児童たちにきいた。
「気分はどうですか」
「目がさめました。でも、あー、つかれたあ」
「それは、けっこうです。この前のプリントの塗り絵を仕上げてきましたか」
子供たちは、前回の移動図書館でとりくんだイギリス語のプリント学習を上にかかげた。ひとり残らずやってきている。どの子もていねいに塗ってある。イラストの女の子の上着に水玉模様もしくは縦じま模様をえがき、自分なりに工夫して塗り分けている子供がふたりいた。
「みなさんじょうずに塗ってありますね。きょうもあたらしいプリントがあります」
プリッサナー先生はそう言ってから、クロスワード形式の算数のプリントをくばった。 「全部で四問ありますが、きょうはひとつだけ解いてください。あとの三問は宿題です。ちょっとむずかしいかもしれませんが、挑戦してみましょう」
子供たちは友だちと相談しながらプリントにむかっている。
「ここは『25』だよな」
「ええと、…ちがうぜ、そこが『25』だとこっちのほうがあわなくなっしまうよ」
三分ほどたつとできあがる子が出はじめ、プリッサナー先生に提出。みな満点だ。よくできている。
プリントのあとは読書の時間。ここでもプリッサナー先生がひとりずつ自分の前に呼んで、絵本の文章を読ませた。文盲はいなかった。
風がかなりつよい。砂ぼこりが目にはいる。写真機に砂塵がつく。
三・四年生はひとり二冊が本日の割り当て。カンポン君いがいは音読している。ニッタヤー先生がカンポン君を呼んだ。
「カンポン、こっちへおいで。君が読んだ本はおもしろかった?」
「オモシロカッタ、デス」
「そうしたら、自分の読書ノートのここに『とてもおもしろかった』と書いてごらん」
カンポン君は「大変おもしろい」とタイ語で記入した。一か所つづりがまちがっており、ニッタヤー先生に指摘されてかきなおした。カンポン君は文字を読めないが、すこしなら書ける。
読書がおわるとゲーム。
「さあ、みんな輪になりましょう」
ニッタヤー先生の声で全員立ち上がりゴザをとびだした。男女混合のひとつのおおきな輪になり、右をむいて左まわりであるきながら歌をうたう。歌がおわったところで、ニッタヤー先生が「靴下をはいている人」「ベルトをしている人」「時計をしている人」などというと、その対象の子供たちは自分の場所をはなれ、あいた所へはしってゆく。
たとえば該当者が五人いると、自分いがいのあいた場所(四カ所)へはしってゆき、到達するのがもっともおそかった子が負け、というゲーム。失格した子供は輪のなかへはいる。これを計七回おこなった。子供たちは汗だらけになって、ゲームに熱中していた。悲鳴のような大喚声が運動場の樹木にこだました。
一・二年生は、「動物の子供の歌」を練習してから読書にはいった。二年生が一年生におしえてあげるため、一・二年生混合の五つの組にわかれた。三十分ぐらいたっただろうか、低学年の子供たちはまだ飽きずにしっかり本を読んでいる。四回目にして移動図書館の効果があらわれつつあるとみていい。
つづいて「動物の子供の歌」の歌詞を参考にしながら動物の絵の下へ子猫・アヒルの子などの単語をタイ語でかきいれてゆくプリント学習にうつった。
「動物の絵をしっかり見て、きれいな文字でかきましょう」 「きょうは塗り絵はしなくてもかまいません」「二年生は一年生におしえてあげましょうね」…。
クローンゲーオ先生が子供たちのあいだをあるきながら、懇切丁寧に指導する。それでも自分の名前・学年をかき忘れている子が各組にかならずひとりかふたりいる。
おぼえたばかりの「動物の子供の歌」を口ずさみながらプリントにとりくむ子、となりの友だちのをカンニングしてかく子。いろいろいる。たいていの児童は上段の歌詞をみながら下の空欄へかきこんでいる。
プリントがおわると、人形劇のしたくがととのうまで、「動物の子供の歌」をなんどか練習した。
午後二時四十五分、合同の人形劇の時間になった。雨がいまにもふりだしそうだ。後ろのほうの子供たちが七〜八人立って見ている。
「なぜ、君たちは立っているの?」
クローンゲーオ先生がたずねた。
「よく見えないんです」
「だいじょうぶ。ちゃんと見えるから安心して。すわって見ましょうね」
この子供たちは苦笑いしながら残念そうな表情ですわった。
カンポン君もきちんと正座し、音楽がなると手拍子をして熱心にみている。劇がおわったあとに、三人の指導員たちが「もっと人形劇を見たい人?」と質問すると、カンポン君もみんと声をそろえておおきな声で「見たい、でーす」。人形劇の内容もわかっているようだ。
ドーンハーン小学校での移動図書館がおわって帰るとき、正門にむかってゆっくりはしるわたしたちのワゴン車に児童たちがよってきて笑顔で合掌したり、手をふったりしていた。
杉浦 直樹
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