移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年7月23日(火)=午前=
コークヤイ小
小雨のぱらつくなか、午前九時ちょうど移動図書館事務所を出発した。これまでの巡回日でもっとも気温がひくく、汗をかかない。
コークヤイ小学校の高床式校舎の前にワゴン車をとめると、子供たちが率先して車からゴザをだし、校舎の下へしいた。
コロコロと子犬のようにかわいい低学年の男の子たちが、胸の前で手をあわせながら、「コンニチハ」とわたしにあいさつして通る。
五分ほどで全校児童が集合した。子供たちはおたがいに向かい合って「あいさつの歌」を二回斉唱した。とてもうまい。全員の声がきちんとそろい、声量も十分だ。
この日はまず二班にわかれた。五・六年生は鉄筋コンクリートの二階建て校舎二階右端の教室へ。四年生以下はそのまま高床式校舎の下にのこり、ニッタヤー先生とクローンゲーオ先生の指導で「動物の子供の歌」を練習した。
ニッタヤー先生が歌詞カードをひろげながら、子供たちにきいた。
「きょうは『動物の子供』という歌をおしえてあげましょう。自分の家で動物を飼っている人はいますか。手をあげてごらん」
七十人ほどのうち半分が手をあげた。
「なにを飼っているの?」
ニッタヤー先生の質問に子供たちはめいめい返答した。
「アヒル」「鶏」「牛」……。
「アヒルの子供はどうやって鳴くのかな」とニッタヤー先生。
「ガープ、ガープ、ガープ」
歌・振り付けともおぼえてから一・二年生と三・四年生に分散した。
男女別のふたつの輪になって読書をはじめた一・二年生。男の子より女の子ほうが熱心に本にむかっている。五分ほどたつと読書にあきてくる男の子がめだちだした。女の子たちは全員おおきな声にだして読んでいる。
十分経過。男の子は他人の本をのぞきこんだりしている子が約半数いる。
「男の子より女の子のほうがしずかに読書していますよ」
クローンゲーオ先生が注意すると、男の子たちは一、二分は姿勢をただして本を読みはじめる。だがすぐに本をほうりだし、ゴザの上をうごきまわったりしている。
いっぽう女の子は十分をすぎても読書に熱中し、輪もくずれていない。男の子の輪はすでにグシャグシャだ。しかし男の子のなかにも読書好きの子はいる。本に顔をちかづけて、一文字ずつ確認するように声にだしてゆっくり読んでいる。
最終的に読書は三十分つづいた。初回からみると、いくらか「読書」の形になってきたようだ。このあとプリント学習をしてから午前十時四十五分、人形劇の鑑賞へ。
三・四年生は男子三組・女子ひと組になって、やはり読書から活動がはじまった。
各班の真ん中に十数冊の絵本をつみ、各自好みの本をえらんで読んでいる。みんな音読だ。ジョー君は読めないので、ニッタヤー先生がつきっきりで指導している。自分の横にすわらせ、一文節ずつ指でおいながらニッタヤー先生が読み、そのあとをジョーがまねして一所懸命読んでいる。
読書のあとは子供たちの大好きなゲームをおこなった。
子供たちはたちあがって男女別の輪になり、内側をむく。ニッタヤー先生が「陸上!」とさけぶと、子供たちは両足をそろえて立ち幅跳びのように前へ一回とぶ。「水上!」というと、後ろへとんでさがるというゲーム。ニッタヤー先生が「水上」といいながら前へとぶしぐさを見せると、つられて前へでてしまう子も。六、七分のみじかい時間だったが、児童たちは汗をかくほど熱中した。
五・六年生は教室のゆかにじかにすわり、まずクロスワード形式の算数のプリントからとりくんだ。はじまって五分で四問すべてできあがった(しかもすべて正解)男の子をはじめほとんどの子供が五分から十分ていどでしあげた。はやくて、しかも全問ただしい答えがかけている。
つづく読書の時間では、プリッサナー先生がひとりずつ自分のそばへ呼び、絵本を読ませた。二十七人のうちひとりだけ読めない男の子がいた。プリッサナー先生の話だと、この男児は「知恵遅れ」。体がちいさく、右手に障害をもっている。
午前十時四十五分、全校児童はふたたび高床式校舎の下へ合流した。
ニッタヤー先生が前にたった。
「君たち、人形劇って好きかな?」
「はい好きです。見てみたいです」
「もうすこしで劇がはじまります。ちょっと待っててね」
「それまでみんな、『オニワニワ』をうたおう!」
クローンゲーオ先生のよびかけで、子供たちはいっせいに「オニワニワ」をうたいだした。
「つぎは『本は友だち』!」
子供たちが歌ですごしているあいだに人形劇の準備がととのった。
「さあて、いよいよ人形劇がはじまります。でも劇の題名はまだ秘密です。おわったら、劇の題名はなにか、どんな人形がいくつ登場したか、いろいろ質問します。正解した子にはごほうびを用意してあります。では始まりです、はい、手拍子!」
ニッタヤー先生の話がおわるのと同時に音楽がなりだした。
太陽やヤシの木や風の人形がつぎつぎとあらわれると、子供たちのあいだからたのしそうな笑い声がおこった。手をたたきながらケタケタとわらったり、ときどき「イェーイ」と人形にかけ声をとばす男の子もいる。前日の二校にくらべて反応がおおきい。
また口をあけてみている子、文字どおりまばたきひとつせずながめている子などさまざまだ。ジョー君はわき目もふらず見入っている。熱心なのは子供たちだけではない。小学校の六人の先生もイスをもちだして後ろのほうで鑑賞している。
十分ほどで劇がおわった。
「さあ、いまの人形劇の題名をあててください」
クローンゲーオ先生が質問した。
十人あまりの子供たちがさっと手をあげた。順々にこたえてゆく。四人目の子が「太陽の旅行」、五人目が「太陽どこへ行くの?」、そして六人目に発言した子が「お日様の夏休み」と正解をいいあてた。
ここらあたりも前日のフアイヒンラード小学校と比較するととてもみな積極的だ。
「つぎは幼稚部と一・二年生に質問します」
クローンゲーオ先生が、前のほうにすわっている低学年の子供たちをみて言った。
「太陽はいつ出ますか」
幼稚部の女の子が舌足らずな言い方でゆっくりとこたえた。
「朝、です」
「そのとおり。では太陽はいつ沈むのかな?」
こんどは幼稚部の男の子がたちあがった。
「夕方、です」
「はい、みんなよくできました。いま答えてくれた幼稚部のふたりと題名をあててくれた高学年の女の子は前にきてください。質問をつづけますよ。いいですか、人形はぜんぶでいくつ登場しましたか」
クローンゲーオ先生の問いかけに子供たちは口々に言う。
「四つ!」「いや、六つだ、六つです!」……。
「ではひとつずつあげていってみましょう」
子供たちはクローンゲーオ先生、プリッサナー先生らといっしょに劇中に登場した人形をあげてゆく。
「太陽、雲、風…、鳥、そして…ヤシの木」
「そうね、五つでしたね。みんな、しっかり人形劇を鑑賞していました」
ここで、前にでている三人へプリッサナー先生がごほうびに鉛筆を贈った。
「もう時間がきてしまいました。きょうはこれでおしまいです」
子供たちは「手を洗おう」の歌などをうたい、一年生から順番に各教室へもどっていった。
この日の午前ちゅうはほんとうにすずしかった。はげしく動くと多少汗がにじむていど。小学校ではいつものように氷水を一杯だしてくれたあと、熱いコーヒーをごちそうしてくれた。だいぶ甘かったが、わたしとしてはめずらしく全部のみほした。
杉浦 直樹
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