移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜



96年7月22日(月)=午後=
ファインラード小(前編)

    読書・歌・プリント学習・ゲーム・人形劇・図画工作などもりだくさんの内容が特徴の移動図書館だが、もっとも子供たちが熱狂するのがゲームである。

  「きょうは君たち、なにがしたい?」

  全校児童が一堂に会するとニッタヤー先生がたずねた。

  「ゲームです!」

  フアインラード小学校の子供たちもやはりゲームがもっとも好きなようだ。

  「あいさつの歌」「オニワニワ」などをうたったあと、クローンゲーオ先生が「動物の子供の歌」をおしえた。

  青い紙にかいた歌詞をみながら二度・三度とくりかえし練習するが、あまり声がでていない。

  「まだおぼえきれない子がだいぶいますねえ。では、男女別にうたってみましょう。まず女の子から」

  ニッタヤー先生の指導で女の子たちが歌詞の前半部分を、ついで男の子たちが残り半分をうたった。

  雨模様なので各学年とも木陰へ移動せず、講堂で活動にはいった。

  舞台の上に陣取った三・四年生では、ニッタヤー先生が真新しい絵本を一冊ずつ披露する。

  「どう、きれいな絵本でしょう」

  子供たちはニッタヤー先生が一ページずつ開く絵本を無言でながめている。

  「さあ、ではひとり二冊ずつ読みましょう。本の読めない子はいるかな?」

  七人の子供がそっと手をあげ苦笑い。  

 「しっかり本を読んでりっぱなおとなになりましょうね。読書ノートは全員持ってきましたか。わすれた人?」

  女の子がひとり手をあげた。

  「どうして持ってこなかったの?」

  「つい、うっかりして、忘れちゃいました」

  「もうすでに三回も移動図書館の活動をおこなってきたのだから、忘れずにかならず持ってくるようにしましょう」

  読書がはじまった。自力で読めない子は七人(男の子六人・女の子ひとり)。前回の調査では六人だったはずだが、ひとりふえている。ニッタヤー先生に確認したら男の子六人・女の子ひとりの計七人という。おそらく「なんとか読める子」(△)がひとりくわわったのだろう。

  ニッタヤー先生の話。

  ーどうもフアインラード小学校の児童たちは読書にあまり関心がなく、読めない子もめだつ。そのほかの歌やゲームにしても今ひとつ活気にかける。

  四班にわかれてクロスワード式の算数のプリント学習に取り組む五・六年生。はじまって五分ほどで「ボクできました」とプリッサナー先生のところへプリントを持ってきた男の子がいたが、左側の縦のマス目がまちがっている。上段の横と右の縦のマス目のみしかあっていない。

  この男の子をふくめすべての児童が検算をまったくしていないので、満点をとれた子は皆無。すべての子が、二度・三度とプリッサナー先生にまちがいを指摘されてもなかなか全問正解に到達しない。

  四十分ほどするとプリント学習のおわった子は読書へ。プリッサナー先生が絵本をつかって読書力の調査をしたが、二十一人ちゅう文盲の子はひとりもいなかった。

  移動図書館の巡回で子供たちに貸し出している本のなかには漫画やとびだす絵本のほかに双六ゲームの本などもある。めざとくそれを見つけた五人ほどの男の子たちが双六ゲームの本でたのしそうに遊んでいる。

  一・二年生は、「動物の子供の歌」をおさらいしてから、本を読みはじめた。みんな元気に大きな声で読む。小学校の女の先生も子供たちの輪のなかにはいって読み聞かせをしたり、子供に読んでやったりしている。

  すこしずつ本に熱中できるようになってきた。十五分ほどたつと自力で読むのに疲れ、先生に読んでもらう子供のほうが多くなってくるが、読書への関心が高まりつつあることは確かなようだ。二十分あまり読書の時間がつづいた。

  「動物の子供の歌」の歌詞のはいったプリントでは、小学校の女の先生とクローンゲーオ先生が威勢のいい声で指導。

  「まずしっかりと自分の名前をかきなさい。名前が先、それから名字ですよ」

  「友だちに書いてもらってはだめですよ。自分のプリントは自分の頭でかんがえてかきましょう」

  ひとつの班(六人ないし七人)に、スラスラと自力でかける子とかけない子との数はちょうど半々。できない子は「『豚』ってどうやってかくんだっけ」などととなりの友人にちいさな声で質問している。はやい子は五分ほどで仕上がるが、おそい子供は十分かかってもまだできあがらない。自力でかけない子供には友達が鉛筆をいっしょに持ってかいてやっている。

  合同の人形劇「お日さまの夏休み」は午後二時五十分にはじまった。おわるとクローンゲーオ先生が児童たちに質問。

  「いまの劇で人形はぜんぶでいくつ登場しましたか」

  「四つ!」「五つ!」

 子供たちのあいだから答えがとぶ。

  「では、どんな人形がでてきたか具体的にあげてみてください」

  クローンゲーオ先生が言うと、子供たちは声をそろえて人形をあげてゆく。

  「雲! 風! 太陽! ヤシの木! 鳥……」

  「それで全部ですね。いくつですか?」

  「五つです!」

  つづいてプリッサナー先生がたずねる。

  「いまの物語の題名をあててみてください」

  ひとりだけ児童が発言するが、そのあとがつづかない。クローンゲーオ先生や小学校の先生たちが「なんでもいいから答えをだしてごらん」と何度もうながすが、発表する子はない。午前ちゅうのノーンパヨーム小学校では即座に四つ・五つの回答がとびだしたが、ここはかなり消極的。それでもようやく三人が答え、ひとりが正解をいいあてた。

  「この物語は、移動図書館でみなさんに貸し出している絵本のなかからえらびました。これからも君たちが読む絵本をもとにした劇をときどきおこないます。たのしみに、ね! きょうのような人形劇をまた見てみたいですか」

  プリッサナー先生の問いかけにこんどは子供たち、元気にこたえた。

  「はい、見たーい、です」

  「では全員、起立!」

  全校児童はさっとたちあがり、あいさつした。

  午後三時十五分終了。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]