移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年7月12日(金)=午後=ノーンオーノーイ小
昼すぎから雲行きがあやしい。ノーンオーノーイ小学校へむかう途中で小雨がふりだした。三、四分でやんだものの、きょうはつよい雨にみまわれそうだ。
児童たちの学力はけっして高いほうとはいえないが、同小は性格のいい子供があつまっている。ニッタヤー先生が言う。
「ここの子供たちはとびぬけて勉強ができるわけではありませんが、元気で規律ただしく、生活態度にけじめがあります。読書にしても速度はおそいのですが、みんな一所懸命読んでいます。本の好きな子が多いといえます」
三・四年生の識字率調査の結果をみてみよう。
◆三年生(九人)
〇=四人
△=二人
×=三人
◆四年生(十八人)
〇=十二人
△=四人
×=二人
◎合計(二十七人)
〇=十六人(五九・三%)
△=六人(二二・二%)
×=五人(一八・五%)
これで調査をした七校の数字がすべて出そろった。総合するとつぎのようになる。
〇=百三人(六五・二%)
△=三十人(一九・〇%)
×=二十五人(一五・八%)
ノーンオーノーイ小学校は平均をやや下まわっている。
小学校三・四年生で満足にタイ語を読める子供はなんと三分の二たらず。文盲が六〜七人にひとりの割合でいる。この結果をそのまま東北タイの一般傾向とするのは早計だが、イサーンの中核都市コンケーン近郊の農村部にある小学校の現状(すなわち『事実』)ではある。いずれちかい将来に、都市部からはなれた農村の小学校や他県の村の小学校でも取材・調査をこころみたい。
五・六年生のイギリス語のプリント学習の結果から判断しても、この小学校の学力は「中の下」あたりのようだ。五・六年生十八人ちゅう全問正解者は皆無。最高得点者で八点(十点満点)だった。三回・四回とやりなおして、ようやくプリッサナー先生の合格印をもらえる子供もいた。
アリーちゃんはよくがんばっていた。友人のプリントを見てまねをしながら、十単語すべてかきこんだ。つづりはほぼあっているが、かきこむ欄のちがう単語がいくつかある。友達の回答をそのまま書きうつしたからだろう。
やがてアリーちゃんとおなじ班の男の子ビタヤー君が、書きまちがいを訂正した自分の答案を、「アリー、これ見てかきなよ」とアリーちゃんの前においた。やさしい子だ。
ビタヤー君がわたしに話しかけてきた。
「ぼくね、十問ちゅう七問あってたんだよ。プリッサナー先生に採点してもらって三回目で合格。こっちの子(おなじ班で、横にすわっている男の子を指さして)は二回目で合格したんだ」
陽気で人なつっこい男児でもある。
彼の読書ノートを手にしながら「君の名前は、ビタヤー、というのかな」とわたしが聞くと、「はい、そうです」と、折り目ただしくはっきりと答えた。
午後二時半ごろ、ノーンオーノーイ村にすむ中学生がひとり小学校に遊びにきていた。ちかくのナンポーンスクサーという中学校の一年生で、きょうは学校が休みだという。五・六年の児童たちにまじって移動図書館の絵本を熱心に読みふけっていた。移動図書館の活動でとりあつかっているあたらしい絵本は中学生にとってもめずらしいのだろう。
最後の合同のゲームがおわった午後三時十五分、突然の大雨におそわれた。スコールである。それは文字どおり「突然」で、ゲームの終了を待っていたかのように急にふりだした。
児童たちはいそいでゴザなどをワゴン車にかたづけ、校舎のろうかに避難した。
雨のふるなか、移動図書館事務所から極貧の子供たちおよそ二十人へ衣類・ハンカチ・靴下などを贈った。アリーちゃんも紫色のワンピースをもらった。
移動図書館の巡回がはじまってはじめての本格的なつよい雨である。すずしい。じつに気持ちがよい。
「ピー」
衣類などの贈呈がおわるとニッタヤー先生が勢いよく笛をふき、子供たちは校舎のろうかに立ったまま元気にあいさつした。
「ありがとうございました、先生!」
杉浦 直樹
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