移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
96年7月11日(木)=午後=クアン小(2)
三・四年生はあまりにも騒々しいので、正座して一分間ほど瞑想させられる。子供たちは目をとじ、殊勝にしている。
だが例外が何人かいた。アヌーン君もそのひとり。片目をあけてヘラヘラわらっている。また自分の前にすわっている友だちの頭を読書感想ノートでたたいたりしてふざけている男の子もいた。
多少しずかになったところで女の子ふた組・男の子ひと組にわかれ、読書にはいった。女の子たちはしずかに本を読んでいる。ところが男の子の集団は私語がとびかっている。
「だれですか、ベチャベチャしゃべりまくっているのは。本を読むときは友だちと話す必要はありません」
ニッタヤー先生が何回注意しても効き目ない。男の子たちは本をひらいてはいるものの、口もひらきっぱなし。読書とまったく関係のない行動をし、ぜんぜん読書していない。それでも五分ほどたつとようやく落ち着いてきて、声にだして本を読みはじめる子がすこしずつでてきた。
読書の時間を利用してニッタヤー先生が識字率の調査をした。アヌーン君はぜんぜん読めていない。きわめて基本的な単語―日本語でいうと「あさ(朝)」「いえ(家)」といったていどのもの―もおてあげといった様子。
「えーと、これなんだっけかな。なんて読むんだったかな……」
頭をポリポリかきながら、ぶつくさ言っている。ニッタヤー先生が一単語ずつ発音してやりながら、イソップ物語から抜粋した九行ほどのかんたんな文章を十分あまりかかってアヌーン君はようやく読みおえた。
男の子たちはわずか十分ほどどうにか本を読んでいたが、ふたたびさわがしくなってきた。とたんにニッタヤー先生にしかられた。九校のなかでもっとも読書に関心がない小学校ではないだろうか。
読書感想ノートの、本の名前とかんたんなあらましをかく欄に絵本の文章を丸写ししている子供もいる。
アヌーン君はこれまでで一番おとなしく読書している。とはいうものの、手にした絵本をときおりひらき、おもいだしたように絵をながめているだけ。本がつまらないので、すぐにまわりの友だちにちょっかいをだす。なにがいさかいの原因なのか、アヌーン君が隣の男の子を読書感想ノートでたたいたところをニッタヤー先生にみつかってしまった。
「こらあ!アヌーン」
またニッタヤー先生にどなられた。
男の子の組は、読書している二十分のあいだに十回ほどしかられた。
「うるさいですよ、男の子たち。本はしずかに読みなさい。こんどさわいだら、男の子だけ運動場をはしらせますよ!」
読書にはいって二十分が経過した。アヌーン君はねころがって絵本をながめている。
読書のあとはプリント学習(象のぬり絵)。読書よりはいくらかおとなしい。色鉛筆のはいったカゴをかこみ、友だち同士おしゃべりしながらプリントにとりくんでいる。
「オイ、葉っぱは何色でぬるんだ?」
ひとりの男の子がとなりの男の子にきいた。
「草は緑だろ、ホラ」
たずねられた男の子はすぐちかくの草を指さしておしえてやった。
アヌーン君はまじめにぬり絵に熱中している。しかもなかなかうまい。読書のときとはうってかわって真剣だ。一番はやく仕上がった。
ニッタヤー先生の識字率調査の結果はつぎのとおり。
◆三年生(二十一人)
〇=九人
△=四人
×=八人
◆四年生(十八人)
〇=十六人
△=なし
×=二人
◎合計(三十九人)
〇=二十五人(六四・一%)
△=四人(一〇・三%)
×=十人(二五・六%)
三年生の男児に文盲がめだった。三年生の×の内訳は男子七人・女子ひとりだった。
一・二年生は三・四年生に輪をかけてさらに騒々しい。クローンゲーオ先生が男女とも正座させて一分間瞑想させる。
おとなしくなったところで、「本は友だち」を全員でうたってから読書にはいった。
「本を自分で読めない子は手をあげてごらん」
クローンゲーオ先生がいうと、大半が片手を上へ。一年生は全員、二年生も半分くらいが、ひとりでは読書できない。
読書ちゅうにクローンゲーオ先生が子供たちの出欠をとった。数人が休んでいる。理由は定かではないが、途中で帰宅してしまった児童もいた。
杉浦 直樹
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