移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜



96年7月11日(木)=午後=クアン小(1)

    移動図書館の車がやってくるのをどこかで見張っているのではないだろうか。ワゴン車が小学校の門をくぐったとたん、子供たちは教室からすばやくとびだしてくる。この現象は毎回かわらない。

 とびあがってよろこぶ子供、小躍りしながらはしりよってくる子供、友だちとだきあい万歳している子供など、すごいエネルギーをクアン小学校の子供たちから感じる。だが大騒ぎしてはしゃいでいる割に、校舎前の木陰へ全校児童が集合するのはおそい。ようやく全員そろってからも前後左右にフラフラうごいたり、友だちにだきついてふざけてみたりと、およそ秩序というものがぜんぜんない。とくに一年生の男の子たちがすさまじい。

 「しずかに!気をつけ!」

 クローンゲーオ先生の力強い張りのある声が何度もとぶ。そのたびに一瞬騒ぎはおさまるが、すぐにまたワイワイガヤガヤとはじまる。

 「こんにちは、先生」

 あいさつしたが、全校児童の声がまったくそろっていない。

 「ほらほら、バラバラです、もう一回!」

 けっきょく三回やり直しさせられた。

 「はい、お互いにむかいあって」

 クローンゲーオ先生の合図で「あいさつの歌」を二回つづけてうたった。しかしこれも各自が好き勝手にうたっていて、めちゃくちゃだ。相手を指さす振りのところでアヌーン君は、手にしている読書感想ノートで目の前の女の子の頭をたたいてふざけている。

 「つぎはあたらしい歌をおしえてあげましょう」

 クローンゲーオ先生が「オニワニワー」の指導をはじめた。

 他の小学校ではすでに前回「オニワニワー」をおしえてある。クローンゲーオ先生がいう。

 「ここは子供の数がおおいこともありますが、児童の水準がひくい。たぶんフアイヒンラード並みだとおもいます。だから時間的に余裕がなく、まだ『オニワニワー』をおしえていません」

 クローンゲーオ先生が「オニワニワー」をうたいだしたところ、幼稚部の男の子たち十数人が中央の平屋校舎からゾロゾロでてきて、ばかでかい声でさわぎだした。クローンゲーオ先生の歌声がかき消され、きこえない。

 そこでクローンゲーオ先生がこわい顔で幼稚部の子供たちの群れにちかづいてゆくと、クモの子をちらすように子供たちは教室のなかへにげこんだ。そしてクローンゲーオ先生が幼児たちをすわらせ、棒切れをふりかざしながらコンコンとお説教。ようやくしずかになり、中断された「オニワニワー」の指導が再開された。

 歌と旋律をだいたいおぼえたところで、振りをおしえた。だが出来は今ひとつ。とくに最後の鼻と耳を交互につかむ動作は全員まったくできない。アヌーンは両手で鼻、両手で耳(右手で右耳・左手で左耳)をつかむありさま。十回いじょうくりかえし練習するがいっこうにうまくならない。

 練習のときも四六時ちゅう子供たちの私語がたえない。

 「口をとじる!」

 クローンゲーオ先生はじめプリッサナー先生・ニッタヤー先生の注意する大声がひっきりなしにとぶ。

 午後一時二十分、三班に分散した。

 五・六年生のプリント学習(髪・腕・足といった体の名称のイギリス語単語を空欄にかきいれるもの)ではみんなひじょうにくるしんでいる。なにしろ自力でかける子供がいない。おたがい相談しながらプリントにとりくんでいるが、進捗状況はおもわしくない。

 プリッサナー先生がイギリス語の単語カードをときおりチラリチラリとみせる。子供たちはカードをみて、必死に手のひらにつづりをかきうつそうとしているが、プリッサナー先生は一瞬しかカードを披露しないので、はやくて間に合わない。

 また二、三のイギリス語単語を手のひらにすでにかいてあり、それを参考にしながらプリントにかきこむ要領のいい子供もいた。

 十五分たつと採点がはじまった。できる子とできない子の差がはげしい。三十五人いるうち、全問正解者がひとりいたものの、〇点の児童もめだった。たいていはすくなくとも二問や三問まちがえていた。

 イギリス語のプリント学習をみていて、やはりクアン小学校はわたしが取材している九の学校のなかでは学力がひくい部類にはいるようだ。

 イギリス語の単語がよくできることが、かならずしもよいこととはおもわないが、各小学校の水準・児童の学力・教育環境を比較するうえでひとつの目安にはなりそうだ。

 プリントのぬり絵にうつってからも、子供たちの話し声がとぎれず、うるさい。他の小学校の三・四年生並みだ。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]