移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


第五章 文字がよめない(第三週)
96年7月9日(火)=午前=ドーンハーン小(後編)

 クローンゲーオ先生がうさぎの人形を利用して童話をはなしてきかせたあと、おおざっぱに三つの組になって読書がはじまった。だが子供たちはすぐにあきてしまうので十分ほどできりあげ、プリント学習にうつった。

 一番から四番まで四つの欄のそれぞれに豚や猫やカニなどの絵が三つずつかいてある。設問は「もっともおおきな絵はどれかな?印をつけてから色をぬろう」。

 クローンゲーオ先生がやり方を説明した。

 「まず名前・学校名・学年をかいてから、質問にしたがってひとつずつ答えていきましょう」

 いっぽう図書室担当の女の先生がゴザの一角にすわりこみ、子供たちを手招きしてよんだ。

 「一年生は全員こっちへいらっしゃい。先生がおしえてあげよう」

 女の先生は「ドーンハーン小学校」とおおきな文字で紙にかき、上にかかげた。

 「みえるかな、みんな。これをみながら学校名をかきましょう。いいですか、タチツテトのトにテンテンをつけてド。どうかな、かけたかな?ついで……」

 子供たちは先生におそわったとおりに学校名などをかいてから問題をといていった。

 ぬり絵までおわるとクローンゲーオ先生に採点してもらった。全員満点である。

 クローンゲーオ先生はいう。

 「二年生は自分のかよう学校名をかけますが、一年生はまだ自力でかけません。どうしても先生の助けが必要です」

 午前十一時すこし前、全校児童は一・二年生のいる図書室前の木陰にあつまった。男子チームと女子チームにわかれてすわると、クローンゲーオ先生が男の子と女の子をひとりずつ前によんだ。

 前にたった男の子の肩に手をかけてクローンゲーオ先生が全員にたずねた。

 「彼はハンサムかな?」

 「はい、ハンサムです!」

 ついでこんどは女の子のほうの肩に手をそえてきいた。

 「ではこちらの彼女はかわいい?」

 「はーい、かわいい、です!」

 全校児童たちは声をそろえて元気にこたえた。

 「いまから男女対抗でジェスチャーゲームをします。やり方を説明しますから、よくきいていてくださいね」

 プリッサナー先生とニッタヤー先生が縦二十センチ・横十五センチぐらいの五枚のカードを前にならべた。

 ヘリコプターやアイスクリームやUFOなどの絵がえがいてあり、裏には警察官・猿・木・海などそれぞれ十個ずつの単語がタイ語でかかれている。男女各チームはすきなカードを一枚だけえらび、前にでた男女チームの代表者がことばと身振り手振りでヒントをだしてゆく。きめられた時間内で単語を言い当てるゲーム。

 たとえば男子チームがえらんだカードのなかに「お坊さん」という単語があると、前にでた代表の男の子は「いつもお寺にいる人」「お経をあげている人」などとすばやくヒントをだし、男子チームの子供たちが正答(お坊さん)をいいあてる、といった具合。

 じゃんけんで男の子チームの先攻がきまった。制限時間は一分間。六問こたえられた。 ついで女の子チーム。前にでている代表の児童がヒントをいい、女の子たちは口々に答えをいってゆく。

 「読むときにつかうもの!」

 「本!」

 「お寺にいる人はだれ?」

 「お坊さん!」

 「女の人がはくのは?」

 「スカート」  

女の子チームは九問正解した。

 二回戦はヒントをだす役目を男の子チームはドーンハーン小学校の男の先生が、女の子チームは女の先生がそれぞれ担当し、ゲームをすすめた。

 一・二回戦がおわって得点は男子チーム十六点・女子チーム十七点と白熱した戦いを展開した。

 三回戦目は趣向をかえて、赤・紫・黄・水色の花びらの形をした四枚のカードをつかったゲーム。このカードは裏側に「一〇、〇〇〇」「九、九九九」という得点数字と零点を意味する爆弾の絵(二枚)がかいてある。

 プリッサナー先生がこの四枚のカードを前にならべた。

 「男の子チーム・女の子チーム、どのカードがいい?」

 男の子・女の子たちは大声でさけぶ。

 「赤、赤。いや、紫がいい!」

大騒ぎの結果、男女とも一枚ずつカードをえらんだ。

 「きまりましたね。そうしたらもう一度男女ひとりずつここへでてきてください」

 一回戦とはちがう児童が前にたち、カードを胸のところで伏せてもつ。  

「一・二・三!」

 プリッサナー先生らの合図で同時に二枚のカードを表にかえした。男の子チームのカードは「九、九九九」、女の子チームは「一〇、〇〇〇」。ここで一斉に大喚声がわきおこった。勝ちをしった女の子たちは手をたたいてよろこび、負けた男の子たちはさかんにくやしがる。

 いよいよ最終戦。前にはカードが二枚のこっている。三回戦とおなじように男女各チームは一枚ずつカードを選択し、代表の児童がいちどきにカードの裏をみせた。

 こんどは男女とも爆弾の絵。両チームともこれまでの得点はすべてご破算になった。

 ゲームがおわってしばらくたっても子供たちの興奮はまだおさまらない。  

「もうすぐお昼。ゲームはこれでおしまいです。みんな、おなかがすいたでしょう?」とプリッサナー先生が子供たちにといかけても、児童たちは声をそろえて「まだ、ぜんぜん、すいていませーん!」

 「でも、先生たち三人はもうおなかがペコペコです。それではまた、ね」

 「手をあらおう」の歌をうたい、解散した。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]