移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


第五章 文字がよめない(第三週)
96年7月9日(火)=午前=ドーンハーン小(前編)

   前回とおなじように全校児童たちは図書室ちかくの大木の下にたってまっていた。以後ドーンハーン小学校の子供たちは、雨の日いがい、かならずこの木陰にならび移動図書館のワゴン車をまつようになる。

 おたがいむかいあって「あいさつの歌」をうたうと、さっそく三班に分散した。五・六年生は校舎からとおくはなれた運動場端の木陰へ、三・四年生はバレーボールコートの一角(ちょうど木陰になっている)へあるいて移動した。また一・二年生は図書室入口前の木陰へうごいた。

 五・六年生は今回もイギリス語の勉強が中心。ゴザをしいていったんすわってから全員たちあがった。頭から足まで体の各部位を両手でふれながら、「ear」「hair」「mouth」「hand」「leg」などと発音してゆく。

 つづいてイギリス語の単語を印刷した赤や黄色のカードをプリッサナー先生が一枚ずつ子供たちにみせ、発音・つづり・意味をおしえた。

 児童たちがだいたい単語をおぼえたところで、イギリス語のプリント学習にはいった。女の子の全身の絵がえがいてあり、十カ所の空欄へ耳や手や指などのイギリス語単語を記入してゆく。すべてかきいれたらプリッサナー先生に採点してもらい、全問正解だったらぬり絵をする。

 さほどむずかしくないとおもったが、ほとんどの児童が単語をかけない。子供たちはかなりてこずっている。

 「オイ、足ってイギリス語でなんていうんだっけ」

 「ハナ、ハナ、鼻は、えーと……nose、noseだ」

 おなじ組の友だちと相談したりしているが、あまりはかどらない。プリッサナー先生がイギリス語の単語を印刷したさきほどのカードをときどきチラリチラリと子供たちにみせている。

 十五分間ほど四苦八苦したのち、子供たちはどうにかかきおえてプリッサナー先生とドーンハーン小学校の男の先生へ提出し、採点してもらった。その結果すべて正解だった児童はわずかふたり。約四十人いる五・六年生の大部分はかならずひとつやふたつはまちがっていた。

 子供たちは誤答をただしくかきなおし、ふたたびプリッサナー先生にみらもらってからプリントの絵をぬりはじめた。

 クレヨンをつかっている。プリッサナー先生によると、ほんとうは色鉛筆のほうがきれいにぬれてよいのだが、色鉛筆の本数が不足しているため、五・六年生のみやむを得ずクレヨンを代用している。

 このあと三十五分間読書をしてから、午前十時五十分ごろ図書室前へいき一・二年生と合流した。

 ああ きれいな海に あかるい大空
 海原をヨットがはしり
 かがやく砂浜をカニが散歩する
 海のなかにはなにがすんでいるのかな
 魚がいます エビや貝もみえます
 海のなかにはなにがすんでいるのかな

 ニッタヤー先生が「とてもきれいな海」を子供たちに指導し、歌詞をみなくてもうたえるようになったところで、四つの組にわかれて読書になった。各組の中央に十数冊の本をまとめて置き、男女とも指で文字をおいながら声にだして読んでいる。

 文盲のカンポン君(四年生)にはこの日もニッタヤー先生が横につき、一字一句読んであげながら読書指導した。そのあとカンポン君は長い時間をかけて、きょうの日付といまニッタヤー先生に読んでもらった絵本の題名を自分の読書感想ノートにかいた。本の題名は「かいた」というより、題字の文字の形をそのまままねて「かきうつした」と表現したほうが正確かもしれない。

 本日で巡回は三回目をむかえ、子供たちは読書にいくらかなれてきたようだ。前回・前々回より熱心だし、十五分いじょう経過してもひとりのこらずすわってまじめに本にむかっている。

 読書のあとはプリント学習(ぬり絵)の時間。ふたりの子供がたおれた象にハスの葉をかぶせている絵で、「象さんがなくなったのでハスの葉でおおってあげよう」とひとことそえてある。

 一・二年生にくらべると三・四年生はうまい。枠からはみださず、ていねいだ。色鉛筆をすばやく往復させ、むらなくぬっている。

 象は灰色か黒か茶色で、背景画の草などは緑や黄緑でという具合に子供たちはみんな実物とおなじ色をもちいている。

 カンポン君もぬり絵には興味があるようだ。となりの男の子のでき具合を参考にしてはいるものの、作業に没頭している。

 一・二年生にはドーンハーン小学校の女の先生が指導にくわわった。この先生は図書室の責任者でもある。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]