移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月28日(金)=午後=ワングン・ノーンセーンシラー小
食事をすませた午後はねむい。ジワリジワリと体にしみこむような暑さが眠気に拍車をかける。ワングン小学校についてから、氷のういたつめたい水を十五分ほどのあいだにコップで四杯のどの奥にながしこんだ。だが飲むそばから汗に早変わりし、水をかぶったように服がびしょぬれ。眠気もますばかりである。
ねむいのはワングン・ノーンセーンシラー両小の児童たちもおなじようだ。柱と屋根だけの講堂兼食堂で合同で歌の練習をしているが、今ひとつ元気にかける。
「この前おしえた歌をおぼえているかな?うたってみよう、はい!」
クローンゲーオ先生の合図で「本は友だち」を子供たちはうたいだした。だが声がねむっている。
クローンゲーオ先生が歌を中止させ、右手をたかく上にのばした。
「ご飯をたべたばかりでねむいのかな?右手をあげて!つぎは左手!」
子供たちは右手と左手を交互にあげたりさげたりしてかんたんな体操。そして歌をつづける。
「あいさつの歌」「オニワニワー」とあたらしい歌の指導がすすんでゆくが、「オニワニワー」を練習しはじめたあたりで、ふたたび眠気が子供たちをおそいはじめたらしい。歌声がしずみ、くもったようなボソボソとした声になってきた。
「あれえ?また声がちいさくなってきましたよ。おおきな声で、一・二・三!」
何度かうたっているうちにすこしずつ元気がでてきた。「オニワニワー」をほぼものにしたころはすっかりいつものはつらつさをとりもどしていた。
午後一時五十五分、三班にわかれた。一・二年生はそのまま講堂で、三・四年生は運動場中央の木陰、五・六年生は校舎の斜め前の木陰でそれぞれゲームや読書、ぬり絵などにはいった。
九つの小学校とも一・二年生ではぬり絵の人気が読書のそれをしのぐ。クローンゲーオ先生の絵本の読み聞かせや読書にもあるていど興味をしめすが、ぬり絵ほど夢中になれない。
ワングン小学校でも、熱心に本を読んでいる一・二年生は二十七人ちゅうせいぜい六〜七人。十五分で読書をきりあげると即座にぬり絵にはいった。
「こうやってたくさんの色をつかって、きれいに、ていねいにぬりましょう」
まずクローンゲーオ先生が自分でぬった見本をしめし、アイスクリームの絵のかいてあるぬり絵の用紙と色鉛筆のはいったカゴを四つ子供たちの輪のなかへくばった。
児童たちは木製の長椅子にすわり、机のうえでぬり絵をはじめた。読書よりはるかに熱中している。三十分すぎても子供たちはおとなしく机にむかったままで、席をたちあがる子はいない。
子供たちの色の好みをみていると、黄色の使用頻度がもっともたかいようだ。数ある色鉛筆のなかで黄色の鉛筆が一番みじかい。クローンゲーオ先生も「子供たちは黄色が大好き」という。このほかだいだい色や緑色も人気のある色で、色鉛筆の減り方がはげしい。
ぬり絵の様子をじっくり観察してみると、なるほどたしかにどの子供も黄色・緑色・だいだい色をかならずいれている。また赤色や青色などはっきりとした色も好んでつかう。男女ともこまかく色分けできているが、男子児童十五人のうち三人だけ五色以下しか色鉛筆をもちいず、アイスクリームの下の三角状の部分を一色でぬりつぶしていた。
さらにどこの小学校でも黄色・だいだい色をはじめ桃色や水色などあかるい系統の色を中心につかう子が多いが、黒・濃紺・紅・深緑などくらい色でぬっている男の子がひとりいた。この男児は一度桃色を手にしかけたが、すぐにカゴにかえしてこげ茶色の色鉛筆でぬりだした。
ぬり絵が仕上がると子供たちはクローンゲーオ先生に提出し、採点してもらう。最高点は三ツ星(☆☆☆)。「先生、わたし三つも星をもらっちゃった」と担任の先生にみせにいく子もいた。
三・四年生がゴザにすわると、ニッタヤー先生は、前にだした白板にすこしずつ絵をえがきながら物語をすすめてゆく。
「丘にちいさなお家が四軒たっています。ちかくにすばらしい森があります。かわいい家にすんでいる四人の小人たちはあるいて森まで野菜をとりにいきます。でもこの森へいく途中に山があって、そこには怖いおばけがいます……」
さいごにニワトリの絵ができあがった。なかなかおもしろい話だが、なぜかどこの学校でもあまり人気がなかった。絵本のように彩りゆたかでなく、音楽・歌がはいるわけでもなく、地味だからだろうか。
午後二時半ごろ、きゅうに雲がひろがりだした。いままでの暑さがすうっとひき、小雨がぱらつきはじめた。移動図書館の活動ではじめての雨。とおくで雷鳴がきこえる。雨がふってきたので、三・四年生は場所を食堂兼講堂へうつす。子供たちは手分けして大急ぎでゴザをたたみ、本を箱へしまい、講堂へはこんだ。やれやれこれですこしはすずしくなるとほっとしたが、小雨はすぐにあがってしまった。たちまちぎらつく太陽が顔をだし、大地を照りつけはじめた。
雨にみまわれたころ五・六年生は読書ちゅうだったが、雨足がさほどつよくないのでそのまま木陰で活動をつづけた。やや私語がきこえるが、九校のなかではもっともしずかな読書だ。全員黙読できているのにはおどろく。
ただし読書感想ノートを正確にかけていない男の子が三人いた。本の題名を記入する欄や感想の欄が空白だったり、本の題名とかんたんなあらましを感想の欄にかきこんでいたり、など。プリッサナー先生がこの三人に口でこまかく説明しながら赤字をいれて修正した。
午後三時二十五分、講堂へ全員あつまり、ノーンセーンシラーの子供のみひとあし先に帰路へついた。九人の子供たちはノーンセーンシラー小学校の先生の自家用車にのりこんだが、座席は六人で満杯。のこる三人は後ろのトランクにのり、ふたをあけたまま車ははしりさった。
杉浦 直樹
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