移動図書館日記

〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜


第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月25日(火)=午後=ファインヒンラード小(後編)

   本に比してゲームへの関心はたかいようで、読書につづいておこなった「ピクチャー=キューブズ(picture cubes)」には皆わきめもふらず熱中していた。

 これは立体パズルとでもいったらいいのだろうか。九つのちいさな立方体(一辺が三センチ)の六面にそれぞれことなる絵の一部分がえがいてある。縦横三列ずつ自由にならべて、ひとつの絵を完成させるゲーム。つまり六種類の絵をつくりだすことができる。

 子供たちはふた班になって、十一〜十二人がかりで四苦八苦しながらピクチャー=キューブズにとりくんだ。両班とも五分から十分ほどかけてひとつの絵ができあがると、子供たちの拍手と歓声がわきおこった。単純なゲームだが、五・六年生たちは夢中だ。

 一・二年生は、講堂にのこってそのまま活動をはじめた。他校と同様、低学年の子供たちはひとつの活動に長時間熱中できない。読書をはじめ本のあつかい方の復習・「あいさつの歌」の練習・絵本の読み聞かせ・ぬり絵・早口ことばなどゲーム四種を短時間ずつおりまぜてすすめている。

 とくに読書は、本を読む声より友だちとの話し声や笑い声のほうがおおきい。わずか十五分しかもたなかった。

 このあとぬり絵にはいった。相変わらずそうぞうしい。ぬり絵の用紙に名前と学年をクローンゲーオ先生がかかせたが、一年生はほぼ全員が自分の名前すら満足にかけない。三年生いじょうだけでなく、一・二年生をみていても、フアイヒンラード小学校の児童の学力水準は他校にくらべて一段おちるような気がする。

 ただしぬり絵に関しては上々だ。何種類もの色をつかいわけ、しかもむらなくきちんとぬっている。

 ぬり絵がおわるとゲームをして終了時間まですごした。早口ことばのゲームのとき、代表で前にでた四人のうちひとりの男の子の服装がみだれていた。制服の白いシャツの下に赤いTシャツをきており、シャツの前ボタンがすべてはずれていた。それをみた、小学校の女の先生が「服をちゃんと着なさい。みっともないですよ」と注意。男の子がおぼつかない手つきで一所懸命ボタンをはめていると、彼のすぐ目の前にすわっていた男の子がスッとたちあがり、ボタンをはめるのを手伝ってあげた。

 班ごとの活動がおわると全校児童たちは講堂に整列した。つよい風のふくなか三人の指導員たちにあいさつをして学年別に各教室へもどっていった。

 

96年6月28日(金)=午前=ノーンオーノーイ小(前)

「移動図書館がやってきました。みんな運動場へあつまれ!」

 ノーンオーノーイ小学校でもっとも威勢のいい女の先生が各教室へ顔をだし、移動図書館のワゴン車が到着したことを子供たちにしらせてまわる。全校児童たちは校舎をでて、まだ日がそれほどつよくない朝の運動場をあるいてよこぎった。そして正門にちかい大木の下にゴザをしいてすわった。

 アリーちゃんは五年生。背がたかく、体はほそい。うしろのほうに、うつむきかげんですわっている。

 クローンゲーオ先生が「あいさつの歌」の歌詞をかいたおおきな紙を前にだした。

 「あたらしい歌です。みんなで歌詞をよんでごらん」

 子供たちは声にだして歌詞を読んだ。アリーちゃんは字が読めないので、紙を見ずに耳できいておぼえようとしている。

 全員で斉唱するとき、アリーちゃんもちいさく口をあけてみんなといっしょにうたった。他の児童ほど覚えははやくないが、口元をみているとなんとか半分くらいはうたえている。物静かで、とても恥ずかしがり屋の女の子だ。手拍子もきわめて遠慮気味。

 五、六人の子供がプリッサナー先生からタンバリンをわたされ、たたきながらうたっている。アリーちゃんの斜めうしろにいる女の子へノーンオーノーイ小学校の女の先生がそっと声をかけた。

 「あなたのタンバリンをすこしだけアリーに貸してあげて」

 先生に言われた女の子はアリーちゃんの肩を後方からだくようにして笑顔でやさしくたずねた。

 「アリー、タンバリンつかう?」

 アリーちゃんははにかみながら首を横にふった。この女の先生はアリーにすこしでも活動に参加させようと工夫しているが、アリーちゃんはなかなか積極的になれない。

 だがアリーちゃんは彼女なりに努力している。「あいさつの歌」の練習風景をみていると、歌詞はだいたい記憶しているし、他の児童にくらべると動きがちいさくややおくれぎみだがふりつけもおぼえている。ときおりにこやかにわらいながら、たのしそうにうたっている。

 「あいさつの歌」につづく「オニワニワー」でも、クローンゲーオ先生が左手を前につきだし右手で手首・ひじ・肩とたたいていく様子をくいいるようにみていた。歌詞は耳できき、頭にたたきこもうと必死だった。

 周囲の友だちのアリーちゃんにせっする態度もいい。「オニワニワー」のふりつけ指導でクローンゲーオ先生が、「まず左手を前にまっすぐのばします。左手はどちらかわかるかな。みなさん、左手をあげてください」というと全員が左手をさっと上にだした。

 ところがアリーちゃんだけが左手をあげられないでいた。すると右隣にすわっている女の子が、「左手はこっちよ」とアリーちゃんの左手をつかんでもちあげてやった。このあともアリーちゃんの左右やうしろにいる女の子たちがふりつけの順番などを一所懸命おしえていた。

 アリーちゃんは動作がおそいものの、「あいさつの歌」につづいて「オニワニワー」の歌詞・ふりつけともどうにかおぼえて、ひとりでできるようになった。

 「オニワニワー」を十回ちかく練習すると、子供たちはけっこう様になってきた。ただし最後の耳と鼻を交互につかむところは他校と同様どうもうまくいかない。さいごの部分でかならず子供たちの笑い声がわきおこる。

杉浦 直樹


[BANGKOK SHUHO]