移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月25日(火)=午前=ノーンパヨーム小(後編)
四十分間ほどの読書をはさみ、さいごはイギリス語のドミノゲーム(『九六年六月二十一日(金)午前・クアン小』の項参照)で時間をすごした。
プリッサナー先生の話。
「左側に絵、右半分にイギリス語の単語がかいてあり、あるカードの絵とあるカードの単語がおなじものを左右につないでいく単純なゲームです。しかしこういう遊びをした経験がイサーンの子供たちはありません。そのためゲームのこつがわからず、円滑にすすまないのです」
みているとそのとおりで、絵と絵をくっつけてしまったりしている。二十枚ほどのカードを十人がかりでとりくんでいるが、二十分かかってもまだおわらない。
五・六年生からとおくはなれた、入り口に一番ちかい老朽化した校舎前の木陰に陣どった三・四年生は、ニッタヤー先生が物語を話してきかせてからすぐに読書にはいった。
子供たちはひとり二冊ずつ読むようにニッタヤー先生に言われ、二十分・三十分と読書がつづく。
「全員が二冊読んだらゲームをしてあそびます。だからいまは読書に集中しましょう。いいですね」
児童たちは一冊読みおわり読書感想ノートに必要事項を記入すると、ニッタヤー先生のところへもってゆき採点してもらう。つづりをまちがえるなど、かき方が不完全な子がけっこういる。そのたびにニッタヤー先生が間違いを指摘し、赤字をいれている。
「ここのところ、つづりがちがっているゾ」「日付をかきわすれていますよ」「本の題名がただしくかけていません」「感想をかく欄が空白です」など。
ニッタヤー先生は子供たちの読書感想ノートに点数をつけながら全員に言った。
「星三つが最高点です。星の数の合計が二十個になったら鉛筆などの文房具をごほうびにあげます。だからしっかり、正確にかきましょう」
ノーンパヨーム小学校の三・四年生は本好きな子が多い。「ゲームより、本を読んでいるほうがいい」と、むさぼるように読書している。三十分ほどですでに五冊いじょう読破した子供もいた。
ニッタヤー先生が子供たちにたずねた。
「みんなは本がすきみたいだから、ゲームはやらずに読書をつづけようか?」
ある男の子がそれに答えて言う。
「はい、読書をつづけください」
するとそばにいた女の子が反論した。
「ええ? ゲームのほうがいいわ!」
五十分ほどで読書が終了し、予定どおりゲームがはじまった。
ニッタヤー先生が「たつ!」といったら子供たちはすわり、「すわる!」といったらたつ、という素朴な遊び。だが意外とむずかしい。三・四年生は三十人ほどいるが、一度の「たつ」あるいは「すわる」で数人ずつが失格し、五〜六回くりかえしたら全滅してしまった。
本がすきだといいながらも、やはりゲームはゲームでたのしそうだ。子供たちのよろこび、さけぶ声が緑にかこまれた運動場いっぱいにひびきわたっている。
さらに「果物手たたきゲーム」(『九六年六月十二日(水)午前・ドーンハーン小』の項目参照)や「オニワニワー」をうたうなど、ゲームや歌がいつまでもつづく。
午前十一時十五分。ゲームをはじめて二十五分がたった。ニッタヤー先生が子供たちにきく。
「みんな、つかれましたか? おなかがすいたでしょう? もうおしまいにしようか?」
「いいえ、つかれていません。おなかもすいていません。もっとゲームをしてあそびたい!」
子供たちはのりまくっている。ゲームや歌がたのしくてたのしくてしかたがないといった風情だ。そこでさいごにニッタヤー先生が「手をあらおう」の歌をふりつけもいれておしえた。
三年生いじょうが右と左へちっていったあと、一・二年生はそのままの場所で活動をはじめた。ノーンパヨーム小学校の男性の先生がひとり指導に参加した。ゴザの上にひっくりかえっている子がいたりすると、「ちゃんとすわりなさい。ねころんではだめだよ」と注意をとばしている。
児童たちは、「あいさつの歌」をうたったり、クローンゲーオ先生の絵本(アヒルの口のお姫様)の読み聞かせに耳をかたむけたり、十分ほど読書をしたりしてから、お待ちかねのぬり絵の時間がやってきた。
クローンゲーオ先生からぬり絵のプリントを子供たちがもらうと、小学校の男の先生が声をかける。
「まず自分の名前をかくんだよ。名前のかき方はわかるな。しっかりかきなさい、いいね」
色鉛筆がたくさんはいったカゴ(二五×一五センチぐらい)は四つなので、子供たちは四つの組になる。だがなぜか一か所におおぜいの子供が集中した。すると男の先生がすかさず指図した。
「ほら、そこは人数が多すぎるなあ。君と君はとなりのグループへいきなさい」
ここの小学校も色分けの苦手な子が何人か目についた。アイスクリームの上のクリームの部分を一色、下の三角状の所を一色でぬりたくった子がいた。十数種類もの色鉛筆があるのにもかかわらず、わずか二色しかつかっていない。絵柄の枠を無視して三〜四色でぬりつぶした子供が五人(二十六人ちゅう)いた。
午前十一時半ちかく全校児童は再度あつまり、「あいさつの歌」「手をあらおう」などをいっしょにうたった。子供たちが教室へもどり、指導員たちが車にのりこむときニッタヤー先生がポツリと言った。
「ああ、おなかがすいたわ。朝、なにもたべてこなかったんですもの……」
杉浦 直樹
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