移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月25日(火)=午前=ノーンパヨーム小(前編)
イサーンの子供たちは歌が大すきだ。そして音感もいい。ここノーンパヨーム小学校の児童たちも例にもれず、すぐれた音楽性をもっている。歌を練習するときの子供たちは生き生きとし、心からたのしんでいる様子がよくわかる。
平屋校舎前の木陰にそろった全校児童たちが、前回おしえてもらった歌「本は友だち」を手をたたきながら二回くりかえしてうたうと、クローンゲーオ先生があたらしい歌の指導をはじめた。
「あいさつの歌」と「オニワニワー」。
「まずゲーオ先生がうたってみるから、しっかりきいていてください」
クローンゲーオ先生が、よくとおるすんだ声で「あいさつの歌」を一回うたってみせた。ついでクローンゲーオ先生と児童たちがいっしょにうたう。このときめずらしく手拍子が子供たちのあいだからでてこない。
「君たち、手はついているのかな? もちろんみんな手はあるよね。それならば、手拍子をいれよう!」
クローンゲーオ先生にうながされ、子供たちは手をたたきながら「あいさつの歌」を二回練習した。
「つぎはこの歌のふりつけをおしえてあげます」
プリッサナー先生の歌にあわせて、クローンゲーオ先生がふりつけの手本をしめした。まず合掌を二回し、胸の前で左右の手を交差、そして相手を指さし、自分を指さし、さいごにタイ舞踊独特の手つきをして腕を左右になめらかにふる。
児童たちはたちあがって二回、友だち同士むかいあって二回、いずれもふりをつけてうたった。なかなかうまい。覚えもはやい。ニコニコとわらいながら練習する子供たちは歌をたのしんでいる。
「つぎは『オニワニワー』というおもしろい歌をやってみましょう」
クローンゲーオ先生がふりをいれながらうたいだした。
オニワニワーワニワーワーワー (二回くりかす)
ヘーヘーハーハピヤーヤーヤー (同)
フィヤッ!フィヤッ!
フィヤッ、フィヤッ、フィヤッ
この歌はとくに意味はない。日本の「ずいずいずっころばし」のようなもの。ふりつけがおもしろい。
「オニワニワー……」と「へーへーハー……」の部分は歌詞にそって、左手をまっすぐ前にのばし、右手で手首・ひじ・肩と順にたたき、柏手を四回…という動作をくりかえす。後半の「フィヤッ!……」以下は、まず最初の「フィヤッ」で左手で鼻、右手で左耳(右手が上側で、左手が下にくる)をつかみ、つぎの「フィヤッ」のところでこんどは右手で鼻、左手で右耳(左手が上)をつかむ。これを歌詞にあわせてすばやく交互にくりかえす。耳と鼻をつまむところがたいへんむずかしく、失敗せずにできる子はひとりもいない。四、五回練習しても右手で右耳、左手で左耳をつかんだり、両手で鼻をさわってしまったり。またなかには耳でも鼻でもなく、左右の頬をつかんでしまう子もいる。
二十五人の男女が前にたち、ひとりずつ「オニワニワー」に挑戦してみた。なんとか様似になっていたのは三人だけ。この三人も二回つづけてうまくはできない。みんなの前で「オニワニワー」を披露した子供で、興奮しているのか、右手で左腕をあまりにもつよくたたきすぎたため、左腕が真っ赤になってしまった男の子と女の子がひとりずついた。
プリッサナー先生とクローンゲーオ先生がわらいながらこのふたりに声をかける。
「そんなにおもいっきり手をたたかなくてもいいんですよ」
「オニワニワー」の歌を練習しているあいだじゅう、子供たちの、地面をゆするような笑いがたえることなくうずまいていた。笑みをたたえたまま子供たちは三班にわかれていった。
五・六年生は学校の奥にある池にちかい木陰にうつった。
ひとりずつたちあがって、「My name is……」とイギリス語であいさつ。なかには「What,s your name?」などととんちんかんなことを言っている男子児童も。ひとりおわるときいている子供たちはかならず拍手する。のんびりとなごやかな雰囲気のなかで活動がすすむ。
ついで四つの班にわけるため、一から四の数字をかいた紙片をかごにいれ、子供たちにひとつずつとらせたところ、番号のかいていない紙をつかんでしまった男の子がひとりいた。
プリッサナー先生がかきおとしたのだが、メム先生はわらいながらこの男子児童に言った。
「あらあら、君はついてなかったわね。せっかくだからひとつ歌でもうたってもらおうかしら」
かれは、さきほどおぼえたばかりの歌「オニワニワー」をふりつけ入りで二回うたい、第三班へはいった。
班わけがすむと、ふたたびイギリス語の勉強。イギリス語の単語とその意味をあらわす絵をえがいたカードをプリッサナー先生が前にかかげ、発音と意味をおしえてゆく。
「jump、jump。意味は『跳ぶ』」
それをまねて子供たちも声にだす。
「ジャンプ、ジャンプ。意味は、跳ぶ!」
二十枚ほどの単語カードを一枚ずつこのように読みながら、発音と意味を子供たちはまなんだ。
杉浦 直樹
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