移動図書館日記
〜巡回寺子屋教室イサーンをゆく〜
第三章 ぬり絵(第二週)
96年6月24日(月)=午後=ドーンハーン小(後編)
クローンゲーオ先生はいう。「低学年の子供たちのばあい読書は十分から十五分がやっと。文字をじゅうぶんに読めない子供がほとんどなのですぐにあきてしまいます。しばらく絵本をながめるとポイとほうりだし、ほかの絵本と交換したがる。総体的にみて女の子はけっこう辛抱づよく読書にうちこみますが、男の子はどうも根気にかけるきらいがあります。それに対しぬり絵や歌や踊りはどの子もたいへん好きです。ぬり絵なら三十分いじょうやってもあきません」。
校長先生もおなじ意見をのべた。「ぬり絵をはじめ工作や歌・踊りなどはどの子も夢中になってとりくむのですが、本は関心度がひくい。読書をしていてもすぐにあきてしまいます。とくに一・二年生はその傾向がつよいようです」
わたしもまったく同感である。じっさい子供たちは、わき目もふらずぬり絵に熱中している。
ドーンハーン小学校の子供たちは、午前ちゅうに巡回したコークヤイ小学校などにくらべると、ぬり絵があまりじょうずでなく、ぎごちない。不慣れという感じだ。さまざまな種類の色鉛筆でていねいにぬる子もいるが、三、四色しかつかわない児童がこれまでの小学校よりめだつ。
アイスクリームの絵で、下の三角状の部分は七つの枠があり、ぬり分けすべきなのに、ここを一色でぬりつぶした子が、わたしの確認したかぎりではすくなくとも七人(三十四人ちゅう)いた。
ぬり絵の採点風景をクローンゲーオ先生の横でみていたが、最高点の三ツ星(☆☆☆)はおろか、星印をひとつももらえない児童もいた。
だが昔からみれば、ずいぶんよくなったという。低学年を担当する女性の先生はつぎのように説明してくれた。
「本校では、いま一週間に一時間だけぬり絵の授業があります。また粘土などを利用した工作も導入しています。ぬり絵は幼稚部からおこなっているので、以前にくらべれば『色をぬる』という作業がいくらかは上達しています。クレヨンは二十二色入りがひと箱十二バーツ。だいたい児童たちの家庭が自分で買っています」
くじ引きで約十人ずつ、四つの班にわかれた五・六年生はイギリス語の勉強にとりくんでいる。ball・water・flower・car・bus・stand・dog・play・sitなどの単語をかいたカードをプリッサナー先生が一枚ずつみせ、子供たちは声をそろえて読む。そして意味を、やはりおおきな声でみんなでこたえていく。
「water」とかいたカードをプリッサナー先生が子供たちの前にだした。
「さあ、よんでごらん」
「ウォーター、ウォーター」
「どういう意味ですか?」
「水!」
どれも基本的な単語だが、児童たちはよどみなく読み、意味を言っていく。
つづいてこのカードをつかったゲームをしたあと、午後三時十五分までおよそ四十五分間、のんびりとしずかに読書がつづいた。
三・四年生のいる木陰へ一・二年生と五・六年生が合流すると、ニッタヤー先生の指導で子供たちは「さようなら」という歌を練習した。
さようなら さようなら
もう時間がきてしまいました
あなたのことは忘れません
手をふってお別れしましょう
また会う日のために にっこり笑って 手をふろう
さようなら さようなら
ニッタヤー先生とクローンゲーオ先生が時計をみながら言った。
「もうお別れの時間がやってきてしまいました。来月またあいましょう」
児童会長の男子児童が前へでて、全校児童を代表してあいさつした。
「コンケーン大学人文社会学部移動図書館の先生、きょうはとてもたのしい一日でした。ありがとうございました。児童全員でお礼の拍手をします」
子供たちはおおきな拍手を三人の指導員へおくった。
最後にもう一度「さようなら」の歌を斉唱した。だがまだ練習がたりなく、まともにうたえない。ニッタヤー先生とクローンゲーオ先生がはげます。
「ほうら、もっと元気だして、力づよくしっかりうたおう!」
うたいおわると児童たちは三人の指導員にあいさつをして解散した。
杉浦 直樹
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